Firefox 149にBrave製広告ブロックを密かに同梱

3月リリースのFirefox 149にBrave製の広告ブロックエンジン「adblock-rust」が密かに同梱されていた。Brave側の指摘で発覚し、Mozillaは「広告ブロック導入ではない」と否定している。

Firefox 149にBrave製広告ブロックを密かに同梱

3月リリースのFirefox 149にBrave製の広告ブロックエンジン「adblock-rust」が密かに同梱されていた。Brave側の指摘で発覚し、Mozillaは「広告ブロック導入ではない」と否定している。


リリースノートに載らなかった同梱

Firefox 149は3月24日にリリースされた。Split Viewや組み込みVPNといった派手な機能が並ぶリリースノートに、ある重要な変更は1行も記載されていない。Braveブラウザの広告・トラッカーブロックの中核を担うRust製エンジン「adblock-rust」が、Firefox本体にバンドルされていたのだ。

この事実が表に出たのは、4月20日にBraveのプライバシー・セキュリティ担当バイスプレジデントを務めるシヴァン・カウル・サヒブ(Shivan Kaul Sahib)氏が自身のブログで指摘してからである。Firefox 149から数えて約1か月、リリースノート上では存在しない機能だった。

サヒブ氏のブログには率直な驚きが綴られている。「Mozillaが私のチームが開発しているadblock-rustをFirefoxにバンドルした。かなり面白い」。サヒブ氏自身がBraveのエンジニアとしてadblock-rustの開発に関わる立場であり、当事者の発見だからこそ重みがある。

統合作業を担当したのはMozillaのエンジニア、Benjamin VanderSloot氏だ。BugzillaのBug 2013888、タイトルは「プロトタイプのコンテンツブロックエンジンを追加する」。バグの説明文には「Brave製のクレートを取り込み、url-classifierと並べてネットワークコードに統合しよう」と簡潔に書かれている。pref(Firefox内部の設定値)で制御されており、初期状態は無効。Mozilla側がadblock-rustを取り込んだ動機は、この時点で既にコメントに残されていた。

Mozillaの公式説明、「これは広告ブロックではない」

The Registerの取材に対し、Firefoxの公式Redditアカウントは明確な線を引いた。

Firefoxチームは組み込みの強化型トラッキング防止機能を改善する方法を実験している。これはそのために試している複数のライブラリのひとつにすぎない。Braveの広告ブロックシステムを丸ごとバンドルしているわけではなく、トラッカーリストの処理を改善するため、Brave製のオープンソースのRustコンポーネントをテストしているだけだ。

これは技術的な事実関係としては正確である。adblock-rustが扱うのは「フィルターリストとリクエストの照合」という処理だ。広告のブロックにも、トラッカーのブロックにも、どちらにも使える。Firefoxには既に強化型トラッキング防止機能(Enhanced Tracking Protection、ETP)という独自のトラッカー対策が搭載されており、これを高速化・効率化するための「部品」として、adblock-rustの照合エンジンを採用したというのがMozillaの立場だ。

ただ、ここで一つ気になることがある。同じコードをWaterfoxは「組み込み広告ブロック」として有効化している、という事実だ。

Waterfoxは同じコードで広告を実際にブロックしている

Firefoxフォークの一つであるWaterfoxは、最近のリリースで実験的な組み込み広告ブロック機能を搭載した。バージョン6.6.11で導入され、最新版6.6.12で改善された機能だ。フィードバックページには次のように記されている。

中核はBrave製のRust広告ブロックエンジン「adblock-rs」だ。1月から開発を始めたが、運よくMozillaがBug 2013888でクレート統合を先に進めてくれていたので、その作業に乗らせてもらった。

Mozillaの統合がなければここまで早く搭載できなかった、という素直な告白でもある。Waterfoxで広告ブロックを有効にして再起動すると、ブラウザは既存のuBlock OriginなどのアドオンをスキャンしてWaterfoxユーザーに無効化を提案してくる。The Registerが試したところ、ニュースサイトのMSN.co.ukでは38件以上、しかもPi-holeによるネットワーク側のブロックを通り抜けた残りに対して、追加でブロックが機能していた。

つまり同じコードが、Waterfoxでは「正面玄関の広告ブロック」として動いていて、Firefoxでは「裏口に置かれたトラッカー対策の高速化部品」として動いている。動作の差は使い方の差であって、エンジンそのものの能力差ではない。

adblock-rust(Brave製のRustベース広告ブロックエンジン、私のチームが開発しているもの)をMozillaがFirefoxにバンドルした。かなり面白い。明らかにまだ実験段階だ。デフォルト無効、使えるUIなし、フィルターリストもなし、私が見る限り報道もなし。

Firefoxで実際に有効化するとどうなるか

Firefox本体に入っているadblock-rustも、設定を変えれば動く。about:configで2つのpref値を変更すればよい。privacy.trackingprotection.content.protection.enabledtrueに。次にprivacy.trackingprotection.content.protection.test_list_urlsにEasyListとEasyPrivacyのURLをパイプ区切りで指定する。これで照合エンジンが起動する。

ただ、これは普通のユーザーが踏める手順ではない。拡張機能からabout:configを書き換えることが許可されていないため、UIから有効化する道筋は存在しない。手動でprefをいじる必要があるが、その作業を案内するために「adblock-rust Manager」という実験的なアドオンも登場した。READMEに沿って手動設定を済ませた後、このアドオンが状態を監視してくれる、という仕組みだ。

The Registerが試した範囲では「動作はまったく問題ない」。広告は実際にブロックされる。だが現状で乗り換える理由はない。uBlock Originは安定して動いており、なくなる予定もない。adblock-rustは「動くが推奨はしない」というのが現時点での率直な評価だ。

「実験」なのか、「将来の標準機能」の前段なのか

ここから先は推測になるが、判断材料はそろってきている。

Mozillaの公式コメントは「広告ブロックを目指したものではない」と否定する。一方で、サヒブ氏は次のように指摘する。

最近、ブラウザからadblock-rustへの関心が急上昇している。FirefoxはWaterfox、Perplexity Cometに続く採用事例だ。今どきサードパーティーの広告とトラッカーをデフォルトでブロックしないブラウザは、本格派とは呼べない。Firefoxはいまだにトラッキングクエリーパラメーターをブロックしていないのに。

サヒブ氏はBrave側の人間だから、自社エンジンの採用拡大に対するポジショントークの色が当然ある。割り引いて読む必要があるが、それでも「ブラウザネイティブの広告ブロック」が業界トレンドになりつつあるという観察自体は否定しがたい事実だ。Chromeは逆方向に動いており、Manifest V3でuBlock Origin系の動作を制限している。Mozillaが現状の「拡張機能任せ」を続ければ、プライバシー重視ユーザーの流出リスクは現実的だ。

技術的に見れば、Firefoxが既に取り込んだコードは、ライセンス(MPL-2.0)の点でもMozillaのコードベースと完全に整合している。エンジンの能力としては広告ブロックも可能で、現にWaterfoxで実証されている。あとはUIとフィルターリストを追加し、prefをデフォルト有効にするだけ——という地点まで、土台はできている

· ・ ・

ただし、組織としての意思決定はもっと複雑だ。Mozillaの収入の大部分はGoogle検索のデフォルト契約から来ている。広告ブロックを標準搭載することがGoogleとの関係や、Webサイト運営者全般との関係にどう跳ね返るのか。技術的な準備と、ビジネス的・政治的な決断は別の問題である。

実験段階であることは事実だが、コードの完成度は「ただの実験」で済むところを越えている。Mozillaが次にどのprefを既定で有効にするのか、しばらく目を離せない。


参照元

他参照

関連記事

この記事を共有する