RAM危機に小屋でDRAMを自作したYouTuber
AI需要でDRAM価格は前期比90%超の異常高騰が続いている。供給を握るのはわずか3社。待っていても何も変わらないと判断したYouTuberが、裏庭の小屋を本物の半導体ラボに改造して、5x4のメモリセルを動作させてしまった。
AI需要でDRAM価格は前期比90%超の異常高騰が続いている。供給を握るのはわずか3社。待っていても何も変わらないと判断したYouTuberが、裏庭の小屋を本物の半導体ラボに改造して、5x4のメモリセルを動作させてしまった。
小屋で生まれた、世界初の「自宅製RAM」
DRAM価格はいま、PCを組む手を完全に止めるほど高騰している。市場調査会社TrendForceによると、2026年Q2のDRAM価格は前四半期比で58〜63%上昇する見通しで、これはQ1の90〜95%上昇に続く連続高騰だ。供給を握るのはマイクロン、サムスン、SKハイニックスの 3社の寡占 で、各社はAI向けの高利益HBM生産に資源を集中させている。新規ファブの稼働は早くても2027年。普通に待っていれば、消費者向けのDRAMは枯れ続ける一方だ。
そこで「待たない」と決めた人物がいる。YouTubeチャンネル「Dr. Semiconductor」を運営する半導体エンジニアだ。彼は裏庭の物置小屋を クラス100クリーンルーム へ改造し、自宅でDRAMを作るというプロジェクトに挑んだ。先月公開された前作の動画では、まだ「環境ができただけ」だった。今回の続編では、その小屋で実際にメモリセルを焼き上げ、動作させてしまっている。
「これは凄い。RAMが家庭で作られたのは、これが世界初だ」(Dr. Semiconductor、動画内のコメント)
実機の動作はチャンネル本人の動画で確認できる。
商用品には遠く及ばない5x4セルの試作だが、半導体産業がスタジアム規模のファブと数十億ドルの設備で行っている工程を、ひとりが小屋で再現したという事実そのものが衝撃的だ。
DRAMはなぜ「揮発」するのか
DRAMの中身は、行と列が織りなす巨大な格子だ。交点ひとつひとつにトランジスタとキャパシタが1個ずつ配置されている。トランジスタはスイッチ、キャパシタは小さな電池の役割を担う。スイッチを入れて電荷をキャパシタに貯めれば「1」、貯めなければ「0」。たったこれだけの仕組みでビットを記録している。
ただし、この電池は穴の空いたバケツのようなものだ。電荷は時間とともに漏れていくため、定期的に充電し直さなければ記憶が消える。これが「DRAMが揮発する」理由であり、PCの電源を切ればRAMの中身が消えるという、当たり前のように受け入れている挙動の正体でもある。商用DRAMでこの リフレッシュ間隔 は64ミリ秒以上。そのレベルの保持時間を、安定した量産品として全セルに保証している事実こそが、現代DRAM製造の凄みだ。
Dr. Semiconductorが目指したのは、ゲート長1ミクロン弱の小さなトランジスタを5x4のアレイで作ることだ。サイズだけ見れば1980年代のDRAMにも届かない水準だが、自宅の小屋でやることを考えれば狙いは妥当に思える。
「小屋で半導体」を成立させる、執念のプロセス
工程はおおむね商用ファブと同じ流れをなぞる。シリコンウェハを劈開で小さく割り、アセトンとイソプロパノールで洗浄。1,100°Cの炉で表面に厚さ 3,300オングストローム の酸化膜を成長させ、保護マスクとして使う。その上にリフトオフレジストとフォトレジストを重ね、UV露光で設計パターンを焼き付ける。これを現像し、フッ酸で酸化膜を抜き、シリコン表面まで掘り下げる。
ここまでは説明として淡々と書けるが、実際には1工程ごとに専用装置が必要だ。彼は自作のフォトリソグラフィ装置で露光を行い、3Dプリント製のスピンコータで薬液を塗布し、自前のスパッタ装置でアルミニウムを成膜している。商用なら1台数十億円する装置群を、小屋に収まるサイズで再構成している。
ここで使われている「リン拡散ガラス(spin-on glass)」は、シリコンに不純物を注入して導電性を持たせるためのドーパント源となる薬液だ。商用ではイオン注入装置を使うが、装置サイズも価格も小屋には収まらないため、塗って焼き込む方式に置き換えている。
トランジスタのソース・ドレインを形成したあと、もう一段の露光と酸化でゲート絶縁膜とキャパシタの誘電体を20ナノメートルまで薄く成長させる。その後コンタクトホールを開け、最終工程でアルミ配線を蒸着し、リフトオフでパターンを定義する。
商用では当然のように積層していくこの流れを、一人のエンジニアが、小さな実験卓と顕微鏡を使って再現している。プロセスの一手一手が「成立しなくても誰も驚かない難度」のはずだが、最終的にDr. Semiconductorは5x4のDRAMアレイを仕上げてみせた。
動かしてみたら、ちゃんとRAMだった
完成したチップはあまりに小さく、通常のテスト機の配線では触れない。彼はマイクロマニピュレータと呼ばれる極細のプローブで、ナノスケールの端子に直接電流を流して測定した。
トランジスタはきちんとスイッチング動作を見せた。ゲート電圧を変えれば電流が変わり、調光スイッチのようにふるまう。ただし、ソースとドレインの距離が1ミクロンを切るとパンチスルーと呼ばれる短チャネル効果が出る。電圧を上げるとソースとドレインが事実上つながってしまい、ゲートの制御が効かなくなる現象だ。商用品ではほぼ見られない振る舞いだが、Dr. Semiconductor自身も「スケーリングの難しさを示している」と認めている。低電圧で動かす分には問題ない、と。
肝心のキャパシタは12.3pFの静電容量を記録した。設計値である理論最大の14pF弱に対して、悪くない近似値だ。
5x4セルを実際にDRAMとして動かすと、キャパシタは数百ナノ秒で3Vまで充電できた。ただし電荷の保持は2ミリ秒強で限界に達し、商用DRAMの64ミリ秒には大きく届かない。リフレッシュ頻度を高くすれば動かせる、という意味では十分な動作と言える。
商用品の30倍以上のリフレッシュが必要というのは、見方を変えれば「裏庭の小屋で焼いたDRAMが、ともかくDRAMとして動いている」ことを意味する。Dr. Semiconductor自身は「これでDOOMは動かない」と笑いつつ、次の段階としてセルを大規模に並べてPCに接続する計画を予告している。
「小屋で作れる」という事実が示すもの
この実験は、業界構造への直接の代替策ではない。商用DRAMは数百億セル規模で製造されており、5x4セルではOSどころか1バイトのワード幅にすら届かない。1980年代どころか、もっと初期のDRAM以前の水準だと言ってよい。
それでも、この映像が伝えるものは小さくない。半導体製造は不可侵の聖域ではなく、プロセスの本質を理解している人間であれば、限られた予算と機材でも追体験できるエンジニアリングだ、という事実が示されている。RAM危機が露呈しているのは、3社の判断ひとつで世界中のPCの値段が動くという需給構造の脆さでもあり、その構造を相対化する試みとして、彼の小屋は奇妙な希望に見える。
そして何より、彼はこの先にも進むつもりだ。次回は5x4を超える本格的なアレイに挑むという。商用品とは比べるべくもないが、それでも、誰かがDOOMを自作RAMで動かす日は遠くないかもしれない。
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