Meta、退役サーバーのDDR4を独自チップで再生。サーバー25%削減
メモリが足りないなら、新しく買えばいい。それがデータセンターの常識だった。Metaはその前提を捨てた。退役したサーバーから引き抜いたDDR4メモリを、独自設計のCXLチップで新型サーバーに接続する。数百万台規模で、すでに稼働している。
40%のサーバーが「メモリ不足」
Metaが6月29日、コンピュータアーキテクチャの国際学会ISCA 2026で発表した論文は、同社のインフラが抱える現実から始まる。
数百万台のサーバーを運用するMetaで、約40%がメモリ容量の不足に制約されている。CPUやネットワークには余裕があるのに、メモリが先に尽きる。結果としてCPUリソースの25〜40%が遊んでいる状態になる。
サーバーの設計寿命は3〜5年。だがメモリモジュールの寿命は7〜10年ある。サーバーを退役させるたび、まだ十分に使えるDDR4メモリが一緒に廃棄されてきた。
新品のDDR5を買い増せば容量の問題は解決する。だが2026年現在、DRAMの供給は逼迫している。AI向けHBMの生産にメーカーの製造能力が集中し、汎用DRAMの供給は絞られている。DDR4のスポット価格はDDR5やHBM3Eを上回る逆転現象すら起きている。買い増しは、資金力のあるMetaにとっても合理的な選択ではなくなった。
Vistaraという回答
Metaが設計した独自ASIC「Vistara」(ヴィスタラ)は、CXL 2.0/1.1に準拠したメモリエキスパンダーだ。PCIe Gen5 x16インターフェースを介して、DDR4メモリをDDR5世代のCPUに接続する。
Vistaraが既存のCXL製品と異なるのは、コントローラとメモリを分離した点にある。市販のCXLメモリエキスパンダーは、コントローラとDRAMを一体でパッケージしている。メモリの種類を選べず、DDR4に対応しない製品が多い。退役サーバーから回収したDDR4を差し込む、という用途には使えない。
Vistaraはコントローラだけのチップだ。72ビット幅のDDR4チャネルを2本備え、最大256GBのDDR4を接続できる。本番環境では回収した32GB DIMMを4本ずつ装着し、1チップあたり128GBを構成している。消費電力は約9W。管理用にRISC-Vコアを3基内蔵する。
MemServer:1TBのハイブリッドサーバー
Vistaraを搭載するサーバープラットフォームをMetaは「MemServer」と呼ぶ。構成はこうなる。
CPUはAMD Turin(Zen 5アーキテクチャ)、158コア/316スレッド。ローカルメモリはDDR5-6400を768GB、12チャネル。ここにVistara ASIC 2基がPCIe Gen5 x8で接続され、DDR4-2400を256GB追加する。合計1TBのメモリ空間を1台のサーバーで構成する。
CXL経由のDDR4は、ローカルDDR5と比べて帯域幅が約10分の1、レイテンシが約60%高い。性能差は大きい。だがMetaの論文は、本番ワークロードの大半でこの差が問題にならないことを実測データで示している。
| ローカルDDR5 | CXL DDR4 | |
|---|---|---|
| 容量 | 768GB | 256GB |
| ピーク帯域幅 | 614GB/s | ≈76GB/s |
| アイドルレイテンシ | ≈130ns | ≈250ns |
| コスト/GB(相対値) | 1.0 | 0.13 |
| 電力/GB(相対値) | 1.0 | 0.7 |
理由は、メモリの大部分が「冷たい」からだ。論文が示すアクセスパターンの分析では、広告配信ワークロードの75%のページが1.3時間以上アクセスされず、ウェブサービスでは75%が30分以上放置されている。ほとんどのページは一度読み込まれた後、長時間触られない。こうしたコールドページをCXL側のDDR4に配置し、頻繁にアクセスされるホットページだけをローカルDDR5に残す。この振り分けはLinuxカーネルのTPP(Transparent Page Placement)が自動で行う。アプリケーション側の変更は要らない。
本番環境の実測値
論文が報告する数値は、数百万台規模のサーバーで実際のプロダクショントラフィックを使ったA/Bテストの結果だ。
MLインファレンス(レコメンデーションシステムの埋め込みテーブル)では、5.1TBのモデルを提供する構成でスループットが4%向上し、必要なサーバー数が25%削減された。モデルサイズを20TBに拡大しても、スループットは4〜12%向上し、サーバー数は20〜25%減を維持した。
分散キャッシュでは、メモリ層が680GBから890GBに拡大し、持続可能なクエリ/秒が33%向上した。キャッシュの保持時間は約1分から5〜10分へ伸びた。別のキャッシュサービスでは平均クエリ処理時間が29%短縮された。
データウェアハウス(Spark)では、1台あたりのエグゼキュータ数が33%増加し、メモリ不足によるジョブ失敗が33%減少した。
開発インフラでは、CI/CDパイプラインのコンテナ数が33%増、開発用仮想マシンの搭載数も33%増。開発者あたりの生産性を維持しつつ、サーバー台数を15%削減した。
コストとCO2の計算
CXLメモリのGB単価はローカルDDR5の0.13倍だと論文は報告している。回収したDDR4の調達コストがほぼゼロであることを考えれば当然ではあるが、実用的な性能で動かせる設計に仕上げたことがVistaraの工学的な価値だ。消費電力もGB単価でローカルの0.7倍。
もうひとつ、Metaが強調しているのがカーボンフットプリントだ。サーバーの構成部品別CO2排出量で、DRAMは69%を占める。製造、運用、廃棄のライフサイクル全体を通じて、メモリが最大の排出源になっている。DDR4を再利用すれば、新規製造を回避できる分だけCO2排出が減る。ESGやサステナビリティの観点からも、このプロジェクトにはMetaにとって語りやすい数字が揃っている。
「CXLは使い物にならない」への反証
Vistaraの論文にはもうひとつ、業界に向けたメッセージがある。CXLの規格策定から6年が経っても、大規模な本番導入事例は報告されていなかった。学術研究やベンチマークは多数あるものの、「本当にハイパースケールで使えるのか」という問いに答えた例がなかった。この論文はその空白を埋める最初の報告だと位置づけている。
論文は具体的に三つの「誤解」を反証している。一つ目は、CXLのテイルレイテンシが不安定だという指摘。過去のFPGAベースの評価ではレイテンシのばらつきが大きいとされてきたが、Vistaraのような専用ASICでは、CXLメモリのテイルレイテンシがローカルDRAMと同等の安定性を示した。FPGAの制約がCXL自体の特性と混同されていたということだ。
二つ目は、TPPのオーバーヘッドが大きいという懸念。Metaの本番データでは0.5%未満だった。複雑なOS最適化は不要だという結論になる。
三つ目は、ホット/コールドページの検出に高度なアルゴリズムが必要だという前提。単純なLRUベースの検出で、本番ワークロードの大半に十分な精度が出ている。
DDR4がこの先も使える保証はない
Vistaraの実績は、メモリ高騰に苦しむ業界にとって明るい材料に見える。だが、いくつかの留意点がある。
まず、この手法はMetaのワークロード特性に最適化されている。メモリの大部分がコールドであるという前提が崩れる用途、たとえば全メモリをホットに使い続ける高頻度トレーディングのようなワークロードでは、CXLのレイテンシペナルティが直撃する。論文自身が、ホットフットプリントが75%を超えるとレイテンシが急激に悪化すると報告している。
次に、DDR4の供給。退役サーバーからの回収には限りがある。DDR4のDIMMは種類もメーカーも多様で、管理の手間は小さくない。Metaは9種類のDIMM構成に対応するための専用ツールとプロセスを構築したと論文に記しているが、これ自体が相当な運用投資だ。
そして、CXLの帯域利用率が本番で10%未満であるという事実は、現時点のワークロードには十分でも、今後メモリ需要が増え続けた場合に再びボトルネックになりうることを示唆している。次世代のDDR5ベースCXLデバイスやPCIe x16接続が必要になる時期は遠くない。
それでも、退役したハードウェアから価値を引き出し、数百万台の本番環境で実証した事実は重い。DRAM高騰に対する最も実践的な回答のひとつだ。LinuxカーネルのCXLドライバコードが上流に統合済みか統合予定であることも、この技術がMeta独自の閉じた世界にとどまらない可能性を残している。
参照元:Vistara: Making CXL Real—Full Path from ASIC Design and OS Support to Hyperscale Deployment
他参照:Zuck saves Meta bucks by reusing memory from old servers with a custom CXL ASIC
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