Microsoft、消費者向けCopilotを剥がし始める
2年にわたり「すべてにCopilot」を推してきたマイクロソフトが、消費者向け製品からブランドを引き剥がし始めた。Xboxが開発を打ち切り、Copilot事業のEVPまで「ふさわしくない場所からは取り除く」と書いて即削除した。
2年にわたり「すべてにCopilot」を推してきたマイクロソフトが、消費者向け製品からブランドを引き剥がし始めた。Xboxが開発を打ち切り、Copilot事業のEVPまで「ふさわしくない場所からは取り除く」と書いて即削除した。
XboxのCEOがCopilotを公然と葬り、AI担当EVPが追認した
撤退ののろしは、磨き上げられたプレスリリースではなく、削除されたX投稿から上がった。
Xbox CEOのアシャ・シャルマ(Asha Sharma)は5月5日、Xboxを「軌道に戻す」ための大規模なリーダーシップ刷新を発表した。その中で、彼女はXに次のように書いた。
私たちが向かう方向性に合致しない機能の廃止を始める。Copilot for Mobileの段階的終了に着手し、コンソール版Copilotの開発は停止する。
シャルマは2月にフィル・スペンサー(Phil Spencer)の退任を受けて新CEOに就任したばかりで、それ以前はマイクロソフトのCoreAI部門のプレジデントだった。AI推進の旗手だった人物が、Xboxに来てから真っ先にやったことが、AI機能の引き剥がしだ。それ自体が一つのメッセージになっている。
驚きはここから始まる。シャルマの投稿に対し、Copilot事業を率いるEVPのジェイコブ・アンドレウ(Jacob Andreou)が引用ポストで反応した。
Copilotが約束に応えられない場所からは、それを取り除くことが重要だ。@asha_shar 連携してくれてありがとう!
そしてアンドレウは投稿後まもなく、これを削除した。
アンドレウは3月17日にCopilot事業を統括するEVP, Copilotに任命されたばかりで、サティア・ナデラ(Satya Nadella)に直接レポートし、コンシューマーとコマーシャル両方のCopilot体験を率いる立場にある。そのトップが「ふさわしくない場所」の存在を公に認めた意味は重い。削除は、社内方針として撤退が走り始めている事実と、対外的には敗北宣言と取られかねない揺れの両方を、一度に露わにしている。
ベルは一度鳴ってしまうと、止められない。
ブランドを引き剥がし、機能だけを残す
Copilotの行き先を読むには、3月20日にさかのぼる必要がある。
この日、Windows + Devices担当EVPのパバン・ダブルリ(Pavan Davuluri)が、ブログ記事「Our commitment to Windows quality」を公開した。AI膨張の意図的な巻き戻しと、ユーザーへの混乱を減らすことを約束する、事実上の和解の書だった。
実行はすでに進んでいる。狙われたのは、Windowsに最初から入っているインボックスアプリだ。
Snipping Toolとフォト(Photos)からは、「Ask Copilot」ボタンが静かに、そして完全に消えた。メモ帳(Notepad)では、画面右上に居座っていた派手な配色のCopilotロゴが取り払われ、代わりに地味なペンアイコンと「Writing Tools」というメニュー名が現れた。
機能そのものは消えていない。Rewrite、Summarise、書き出しの生成。これらはすべて、以前と同じAI処理で動いている。違うのは看板だけだ。
つまりマイクロソフトは、デスクトップ上で「Copilot」を生活ブランドにする試みをやめ、AIを目に見えない道具に戻そうとしている。「Writing Tools」という機能名でラベルを上書きするのは、ユーザーが求めているのは便利なソフトであり、見張り役の話す相棒ではないという認識への転換だ。
これは敗北というより、訂正だ。Copilotブランドの過剰な露出が、機能の有用性そのものを覆い隠していた。看板を下ろせば、機能は息をしはじめる。
「すべてにCopilot」と、2025年のWindows危機
Copilotが登場した当初、評価は悪くなかった。生成AIへの期待が広がる中で、マイクロソフトはOpenAIへの数十億ドル規模の投資の見返りを取りに行った。社内には「とにかく全員にCopilotを使わせろ」という号令が下った。
そしてマイクロソフトは、信じられないことを始めた。
Office 365はMicrosoft 365 Copilotに改名された。Windowsのタスクバーは、Copilotアイコンに占拠された。EdgeはCopilot色に染まり、丸みを帯びた角と派手なアクセントカラーへとデザインを寄せていった。
問題はタイミングだった。
2001年のTablet PC、2010年のWindows Phone UI、2016年のHoloLens、2020年のSurface Duo。マイクロソフトの歴史は、技術ではなくタイミングを誤った製品で埋め尽くされている。Copilotの押し付けも、その系譜に並んだ。
2025年は、Windowsにとって近年で最悪の開発年の1つだった。セキュリティ更新のせいで業務用PCが起動しなくなり、ファイルエクスプローラーは重く、ダークモードは壊れていた。OSが軋みをあげている真っ最中に、ナデラはマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)との対談で、自社リポジトリのコードの20〜30%がすでに「ソフトウェアによって書かれている」と誇らしげに述べた。
ユーザーの中で、点と点がつながった。Windows 11は壊れている。マイクロソフトはコードをAIに書かせている。だからCopilotがWindowsを壊している。論理として成立しているかではなく、感情として抗いがたかった。
Copilotブランドはあらゆるシステム障害、クラッシュ、不具合のスケープゴートになった。やがてコミュニティは「Microslop」という蔑称を生み出し、これがあまりに広まったため、マイクロソフトは公式Discordで単語そのものをフィルター対象に登録するに至った。フィルターは即座に「Microsl0p」のような変種を呼び込み、運営は対応に追われ、最終的にはサーバー全体を一時的にロックダウンする事態となった。
ストライサンド効果。隠そうとしたものほど広く知られる。Copilotブランドは、消費者層の中で取り返しのつかないほど毒されていた。
エンタープライズでは「20Mシート」を達成し、別の顔を持っている
ここで疑問が立ち上がる。Copilotがそこまで嫌われているなら、なぜマイクロソフトは投資をやめないのか。
答えは、別の戦線で勝っているからだ。
ナデラは4月29日のFY26 Q3決算発表で、Microsoft 365 Copilotの有料エンタープライズシートが2000万を突破したと明らかにした。1月の1500万から3カ月で500万増、伸び率は前年比250%に達する。
アクセンチュア(Accenture)は74万シート、Bayer、Johnson & Johnson、メルセデス、Rocheはそれぞれ9万シート以上をコミットした。週間利用頻度はOutlookと同水準にまで達した、とナデラは決算発表で主張している。
社内スプレッドシートを要約し、PRメールを起草する道具としてのCopilotは、企業の現場でほぼ習慣化している。
つまり、Copilotには2つの顔がある。一般PCユーザー向けのパーソナルアシスタントとしては失敗作であり、企業のホワイトカラー業務向けには静かなヒット作だ。マイクロソフトが消費者向け製品から看板を下ろしているのは、AIを諦めたからではない。儲かる戦線に資源を集中するためだ。
MacBook Neoという、もう1つの圧力
エンタープライズで稼げているのなら、消費者向けWindowsはどうなっても良い、とは言えない事情があった。アップルが、低価格帯に降りてきたのだ。
3月4日、アップルは599ドル(日本では9万9800円)の「MacBook Neo」を発表した。iPhone 16 ProのA18 Proチップを搭載し、教育機関向けは499ドル。アップル史上最も安価なMacであり、エントリーレベルのMacBook Airより500ドル下のラインを引いた。
ASUSのCFO、ニック・ウー(Nick Wu)はこれを「PCエコシステム全体に対するショック」と表現し、マイクロソフト、インテル、AMDを含むPCベンダー各社が「真剣に対応を議論している」と述べた。
古いWindows 10マシンにしがみつき、Copilot膨張やバグへの嫌悪からWindows 11への移行を拒んでいた数百万のユーザーにとって、MacBook Neoは渡り船になりうる――アップルへ。
これがダブルリのコミットメント表明を押し出した、経営の根を揺さぶる圧力だった。バグを潰し、AIを引っ込め、OSの基礎性能を立て直さなければ、消費者市場のシェアが恒久的に削られる。マイクロソフトはようやくその計算を理解した。
「コパイロット」ではなく「飛行士」を求めるユーザー
Copilotとマイクロソフトの行き先は、明確に分岐していく。
消費者向けWindowsは修理班に委ねられる。Windows InsiderリードのMarcus Ash、Windows ShellのHead of ProductであるTali Rothらは、SNS上でユーザーフィードバックに応え、ファイルエクスプローラーの遅延、メモリリーク、起動の遅さといった具体的な不具合を一つずつ潰している。
一方でCopilotは、企業の裏方としての地位を確立しに行く。マイクロソフトは独自の音声・テキスト書き起こしモデル群を投入し、自社製の第2世代画像モデル「MAI-Image-2」を公開した。Microsoft 365 Copilotにはサードパーティモデルとしてアンソロピック(Anthropic)のClaude Opus 4.7のサポートも開かれた。エージェント機能はドキュメントとワークフローを横断するマルチステップ業務を担う方向へ伸びている。
奇妙なのは、トップが沈黙していることだ。Windows部門のエンジニアたちが日々ユーザーと対話しているのに、ナデラ自身はWindowsについて何カ月も公の発言をしていない。彼の関心はエンタープライズAIとクラウドインフラに向いている。状況を考えれば、それは悪いことではないのかもしれない。
Copilot+ PCを「消費者にとって必須のもの」として売り込む時代は、ブランドだけ残しつつ静かに終わりつつある。Windowsの上のAIは、やがてスペルチェッカーや電卓のように、目に見えないツールへ戻っていく。メモ帳で「Writing Tools」が必要になったときだけ顔を出し、それ以外の時間は黙っている。
OSにおいて、ユーザーは隣で口を出す副操縦士ではなく、自分で操縦桿を握ることを求めていた。マイクロソフトはそれを、苦い経験を払って学びつつある。
参照元
- Asha Sharma - X (5月5日のCopilot廃止投稿)
- Pavan Davuluri / Windows Insider Program Team - "Our commitment to Windows quality"
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