New Glenn 3号機、再使用は成功 衛星は喪失

Blue Originが初のブースター再使用を成し遂げた同じ飛行で、顧客衛星が運用できない軌道に置かれている。BlueBird 7は大気圏で焼ける運命が確定した。再使用の快挙と、任務の失敗。同じロケットが、両方の見出しを持ち帰った一日だ。

New Glenn 3号機、再使用は成功 衛星は喪失

Blue Originが初のブースター再使用を成し遂げた同じ飛行で、顧客衛星が運用できない軌道に置かれている。BlueBird 7は大気圏で焼ける運命が確定した。再使用の快挙と、任務の失敗。同じロケットが、両方の見出しを持ち帰った一日だ。


ブースターは戻った、しかし衛星は戻ってこない

New Glenn 3号機は米東部時間4月19日午前7時25分、ケープカナベラルの発射場を離れた。約3分半で1段目(GS-1、通称「Never Tell Me the Odds」)が分離し、10分ほど後には大西洋上のドローン船「Jacklyn」に降り立った。Blue Originの社員は歓声を上げ、ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)は着陸映像を、あろうことかイーロン・マスク(Elon Musk)のXに投稿した。西側企業として軌道級ブースターの再飛行に成功したのは、SpaceXに続く2社目。

ここまでは、勝利の一日だった。

問題は、その上で起きていた。1段目の切り離し後、2段目は単独で顧客衛星を目的の軌道へ運ぶ仕事が残っていた。そして、この2段目が仕事をやり損ねた。打ち上げから約2時間後、Blue OriginはXで「ペイロードは想定外の軌道(off-nominal orbit)に投入された」と短く認めた。続報は、AST SpaceMobile側から出た。

BlueBird 7は打ち上げ機の上段によって計画より低い軌道に投入された。衛星は分離し電源も入ったが、高度が低すぎて搭載スラスターでは運用を維持できず、デオービットされる。

つまり、衛星は地球を周回しながら大気に削られ、いずれ燃え尽きる。2400平方フィートの巨大フェーズドアレイアンテナを持つ、低軌道民間衛星として過去最大級の通信装置が、だ。


「低い軌道」が意味するもの

BlueBirdシリーズはただの通信衛星ではない。AST SpaceMobileが目指すのは、地上の基地局を経由せず、手持ちのスマートフォンが直接空を見上げて電波を受け取る世界だ。そのために衛星は巨大なアンテナを展開する必要がある。重く、かさばり、1機あたりの打ち上げコストが跳ね上がる構造を、同社は最初から受け入れている。

この設計思想が、今回の結果を残酷にする。BlueBird 7に搭載されていたのは電気推進(electric propulsion)方式のスラスターで、燃費こそ良いが推力は小さい。化学推進のような瞬発力はない。当初計画より低い軌道に置かれた瞬間、その差を埋め切れないことはほぼ運命づけられていた。

電気推進スラスターは少ない推進剤で長期的な軌道維持に向くが、短時間で大きく軌道を上げる用途には原理的に不利だ。重いアンテナを抱えた衛星ほど、投入時の軌道のズレに対して無力になる。

保険で金銭的損失は埋められる、とAST SpaceMobileは明言した。3月のSEC提出書類によれば、打ち上げ保険料は衛星の保険価額の3〜20%の範囲とされている。ドルは戻ってくる。しかし、衛星そのものは戻らない。そして、スケジュールも戻らない。


年末45機、という約束

AST SpaceMobile CEOのエーベル・アベラン(Abel Avellan)は3月の決算説明会で、2026年末までに45機から60機のBlueBirdを軌道に並べると投資家に語っていた。その計画は、New Glennブースターが30日で再利用されること、そして1回の打ち上げで3機から8機をまとめて運ぶことを前提としていた。

BlueBird 7は、その加速カーブの始点だったはずだ。

現実はどうか。BlueBird 6はインドのロケットで2025年末に軌道に入った。そこから今回のBlueBird 7喪失まで、AST SpaceMobileはコンステレーションに1機も加えていない。New Glennは調査のため数ヶ月止まる可能性が高い。年内に残された月数で、45機という数字をどう積み上げるのか。

AST SpaceMobileはプレスリリースで反論の姿勢を示した。打ち上げプロバイダーはBlue OriginだけでなくSpaceX Falcon 9、インドのLVM3と複数社と契約済み。2026年中は平均して月1〜2回のペースで打ち上げられる、という主張だ。BlueBird 8から10は約30日で出荷可能、生産はBlueBird 32まで進行中だという。数字の上では、まだ成立する余地を残している。

ただ、保険がカバーできないものがある。2026年というタイミングそのものだ。直接スマホ接続サービス市場では、SpaceXがStarlink経由のDirect to Cellを既に展開している。先行者は毎月先に進む。後発が止まるたび、埋めるべき距離は長くなる。


再使用の瞬間は、本物だった

ここで一度、New Glennそのものに視点を戻したい。誤った軌道の話だけで締めるのは、このロケットに対して公平ではない。

1段目の再使用は、SpaceX以外の企業が軌道級ロケットで初めて成し遂げた成果だ。しかも、わずか3回目の飛行での達成である。SpaceXがFalcon 9で同じマイルストーンを刻んだのは32回目の打ち上げだった。Blue Originは社内テスト・リファービッシュ体制を前倒しで証明してみせた。

もっとも、エンジン7基は新品に交換されている。Dave Limp CEOは4月13日のX投稿で、初回リファービッシュでは全エンジンを入れ替え、熱防護システムのアップグレードを試験したと明かした。構造の再使用とエンジンの再使用は、厳密には別々のマイルストーンとして整理されている。設計目標は1機あたり25回の飛行だが、そこに至る道筋はまだ見えていない。

ブースターに付けられた「Never Tell Me the Odds」という名前は、映画『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』でハン・ソロが口にしたセリフから取られている。勝算なんか聞きたくない、という意地。皮肉なことに、再使用ブースターは自分の担当を完璧にこなし、勝算を黙らせた。担当外の2段目が、別の物語を書いてしまった。

1段目が完璧で2段目が失敗する事例は珍しくない。SpaceXも2015年と2016年にFalcon 9でペイロードを失った時期があった。ただし当時のSpaceXはまだ試験段階とはいえない商用運用に入って久しく、Blue Originのようにわずか3回目の飛行で再使用に成功した状況とは文脈が違う。

月、Kuiper、そして次に控える荷物

今回の失敗が本当に痛いのは、New Glennが背負う予定の荷物リストが長いからだ。

Blue Originは今年、無人の月着陸機Blue Moon Mark 1をNew Glennで打ち上げる計画を維持している。夏から秋にかけての想定だ。さらにAmazonのLeo(旧Project Kuiper)ブロードバンド衛星の大量配備も控えており、次のNew GlennはKuiper衛星48機を運ぶ予定になっている。NASAアルテミス計画では、より大型の月着陸機Blue Moon Mark 2が将来的に宇宙飛行士を月面へ送る役割を担う。

Dave Limpはかつて、月への復帰を早めるために「天地をひっくり返す」と語った。その天地の片側、つまり上段が今回きちんと動かなかった。原因究明の結果次第で、月面着陸の期限に影響が及ぶ可能性は否定できない。トランプ政権はBlue OriginとSpaceXの両社に対し、大統領2期目中に着陸機を月面へ送ることを求めている。政治のカレンダーは、エンジンの調子を待ってはくれない。


再使用と信頼は、別の帳簿に記録される

ロケットを再使用できることと、ロケットを信頼して荷物を預けられることは、別々の帳簿で評価される。SpaceXは両方を何百回と積み上げて今の立ち位置にいる。Blue Originは再使用の帳簿に記録的な速度で数字を刻み、同じ日に信頼の帳簿から残高を引いた。

顧客衛星を預ける段階にある企業が、試験機のように振る舞う余裕は本来ない。だがBlue Originはあえて、早期から商用ペイロードを載せる道を選んできた。NG-2ではNASAの火星探査機を運び、NG-3では民間通信衛星を運んだ。この自信がSpaceXに対抗するためには不可欠だった。そして今回、その自信が一度だけ、ユーザーに請求書を回した。

ドローン船上に降り立ったブースターの映像は美しかった。大気圏で焼け落ちるBlueBird 7の軌跡は、誰のカメラにも映らない。同じ一日に、両方の物語が並んでいる。どちらを記憶するかは、次のNew Glennがどこへ、何を、どう運ぶかで上書きされていく。


参照元

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