reCAPTCHA新認証、ストックフォト1枚で突破される
Googleがテスト中のハンドジェスチャー認証は、ボットを排除するために利用者のカメラを要求する。だが技術文書が公開されてから3週間と経たないうちに、手を振るストックフォト1枚と無料ソフトだけで認証を通過できることが判明した。ボットは素通りし、カメラを差し出すのは利用者だけ。その構造がテスト段階で露呈した。
カメラに向かって手を振れ
Googleが新たにテストしているreCAPTCHAは、従来の画像選択やパズルとはまったく異なる。ブラウザがカメラへのアクセスを求め、利用者に手を振る動作か、手のひらを見せる動作を指示する。短い動画が撮影され、GoogleのMediaPipeモデルが手の関節21箇所の3D座標を抽出する。その座標の動きから「画面の前に本物の人がいるか」を判定する仕組みだ。
Googleによれば、動画はユーザーのIDと紐づかず、音声の録音もない。認証が終わった時点で即座に削除されるという。この認証はGoogle Cloud Fraud Defense(reCAPTCHAの上位製品)の一機能として提供され、技術文書は2026年6月11日に更新された。
AI搭載のボットが画像認識型CAPTCHAを突破するようになり、信号機や横断歩道を選ばせる認証が機能しなくなった。身体の動きそのものを認証に使えば、ボットとの差を維持できる。発想としては筋が通る。
だが、テスト公開から間もなく、その前提は崩れた。
ストックフォトで突破できた
あるユーザーが、OBSの仮想カメラ機能を使って手を振るストックフォトをカメラ入力として流し込んだところ、認証を通過した。これが発端だった。
BREAKING: google introduces new captcha entirely bypassable using stock images 👀 https://t.co/dPWiy5GwTL pic.twitter.com/nMQQPDqIqG
— PatRyk (@Patrosi73) June 28, 2026
これを受けて追試が行われた。複数のストックフォトで試行し、画像内の手の位置を調整する必要はあったものの、静止画像だけで認証を突破できることが確認された。動画は不要だった。AI生成のアニメーションも不要だった。汎用の手の写真と、無料で入手できるOBSの仮想カメラ機能、それだけで済んだ。
Googleのシステムが見ているのは「21箇所の関節座標が検出できるか」だ。静止画であっても、手の形状がMediaPipeの検出範囲に入っていれば座標は出力される。つまり「実際に動いているか」の検証が、現時点では組み込まれていないか、十分に機能していない。
| 利用者(正規) | ボット(バイパス) | |
|---|---|---|
| 必要なもの | Webカメラ | ストックフォト+OBS |
| 操作 | カメラ許可→手を振る | 画像を流し込む |
| 提供するデータ | カメラ映像 | なし |
| 自動化 | 不可能 | 数分で構築可能 |
| 認証結果 | 成功 | 成功 |
静止画で通るなら、自動化までの距離は極めて短い。ストックフォトを読み込み、仮想カメラ経由でブラウザに流すだけの処理は、スクリプトで数分もあれば構築できる。CAPTCHAはボットを防ぐための仕組みだが、ボットにとってこの認証は手間ですらない。
利用者が払う代償
突破される認証のために、利用者は何を差し出すのか。
カメラへのアクセスだ。Webページを閲覧するだけの行為に、カメラ映像の提供が条件として課される。Googleは「関節座標だけを処理し、映像はすぐ消す」と説明するが、利用者の端末でブラウザがカメラにアクセスする事実は変わらない。その通信経路のどこで何が起きるか、利用者には検証する手段がない。
法的にも整理されていない。米国イリノイ州のBIPA(生体情報プライバシー法)は、手や顔の形状のスキャンを「生体識別子」として定義し、収集には書面での事前告知と同意を義務づけている。違反した場合の損害賠償は、過失で1件あたり1000ドル、故意で5000ドルだ。この認証がBIPAの対象になるかどうか、判例はまだない。ただ、手の関節座標の抽出がBIPAの定義する「手の形状のスキャン」に該当しうるという指摘は、セキュリティ・法務の両面からすでに出ている。
Webページを読むために、カメラに向かって手を振らなければならない。
冷静に考えると、かなり踏み込んだ要求だ。テスト段階であり、すべてのサイトで発動するわけではない。代替の認証手段(画像選択や音声チャレンジ)も残されている。それでも、「ボット対策」という名目でカメラ映像の提供が選択肢に入ること自体が、認証の在り方として一つの転換点だ。
カメラがない人はどうなるのか
もう一つ、見過ごせない問題がある。Webカメラを搭載していないデスクトップPCは珍しくない。ノートPCであっても、プライバシーシャッターで物理的にカメラを塞いでいる利用者はいる。障害によって手の動作が困難な人もいる。
Googleの技術文書によれば、ジェスチャー認証を利用できない利用者には、従来の視覚・音声チャレンジが引き続き提供される。認証できない利用者が完全に排除されるわけではない。だが、この認証方式が広がった場合、カメラを持たない・使わない利用者は常に「代替手段」を経由する二級の導線に置かれることになる。
何を突きつけているのか
AIボットの高度化は事実であり、従来のCAPTCHAが限界を迎えているのも事実だ。Googleが新しい認証手段を模索する動機は理解できる。
ただ、この認証が突きつけている問題は、バイパスされたこと自体よりも深い。認証を強化するたびに、負担が増えるのは利用者だけだという構造そのものが問題だ。画像パズルは利用者の時間を奪い、ハンドジェスチャーは利用者のカメラを要求する。攻撃者は、そのどちらも回避できる。ストックフォト1枚で突破されるなら、なおさらだ。
テスト段階の機能であり、Googleが今後静止画の検出精度を上げ、仮想カメラの注入を検知するようになる可能性はある。ただし、仮想カメラの検知はブラウザとOS両方の協力が必要で、単純ではない。AI動画生成がここまで進んだ今、静止画を弾いたところで本質的な耐性が確保される保証もない。
利用者にとっての選択肢は、カメラを差し出すか、あるいは「ロボットではありません」のチェックボックスが返ってくるのを待つか。テスト段階の今だからこそ、Googleには立ち止まって問い直してほしい。セキュリティの負担は、誰が引き受けるべきなのかを。
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