SIE西野CEO、PC移植を「否定しない」。内部では「曖昧さはない」

SIE西野CEO、PC移植を「否定しない」。内部では「曖昧さはない」

PlayStationがシングルプレイヤー作品のPC移植から撤退する。3月のBloomberg報道、5月の社内タウンホールと続いた一連の流れは、もうほぼ既定路線として受け止められていた。そのなかで、SIEの西野秀明社長CEOがメディアのインタビューでこの話題に初めて触れた。だがPCゲーマーが待っていた「明確な回答」は出なかった。


「ケースバイケース」か、そうでないか

海外のゲーム翻訳者Genki氏が投稿したことで、内容は瞬く間に海外コミュニティに広まった。西野氏の発言の骨子はこうだ。タイトルごとの特性に基づいてプラットフォームを選定してきた。PC展開がゲーム体験を最大化するなら、今後も検討する。ただし現在の基本方針として、ファーストパーティのシングルプレイヤー作品はPlayStationで提供できるゲーム体験の価値をさらに磨くことに注力する。ライブサービス作品はオンラインマルチプレイを通じてできるだけ多くの人に届けたいから、PS5とPCの両方でリリースを続ける。

PCを完全に切り捨てるとは言わない。だが「シングルプレイヤーをPCに出す」とも言わない。隅々まで計算された言葉だ。

この発言を読んだとき、「ケースバイケースなのか」と受け取る人がいてもおかしくない。実際、そう解釈するコメントはフォーラムでも散見された。

「曖昧さはない」

その解釈を即座に否定したのが、Bloombergのジェイソン・シュライアー(Jason Schreier)氏だ。西野氏の発言が拡散された直後、ResetEraのスレッドにこう書き込んでいる。表立っては言わないだろうが、戦略に曖昧さはない、と。

シュライアー氏が引いたのは、5月中旬のタウンホールでハーマン・ハルスト(Hermen Hulst)氏がスタッフに語った内容だ。シングルプレイヤーのナラティブ作品はPlayStation専用にする。PC展開は一貫性に欠けていた。十分な収益も上がらなかった。自社IPは自社プラットフォームに集約したい。シュライアー氏はその場にいた2人から裏取りしたうえで、「ケースバイケースではない」と断じた。

表立っては言わないだろうが、戦略に曖昧さはない。「ケースバイケース」ではない。

シュライアー氏は3月の報道と5月のタウンホール情報を改めて裏付けた。そしてこの書き込みは、西野氏の発言が意図的にぼかされたものだという見方でもある。経営トップが公式の場で「可能性は否定しない」と語り、スタジオ部門のトップが社内では「シングルプレイヤーはPlayStation専用」と断言する。この温度差が、今回の話の核心にある。

表の言葉と内の論理

西野氏がなぜ明言を避けたのかは推測するしかないが、背景には合理的な理由がある。

「二度とPCに出さない」と公言すれば、将来の方針転換は「前言撤回」になる。ゲーム産業の時間軸は長い。PS5世代の残り期間とPS6世代では市場環境が変わりうるし、タイトルの性質によっては例外を設けた方が合理的な場面もある。だから西野氏は、現時点での基本方針を示しつつ、扉を完全には閉じなかった。

ハルスト氏が社内で明確な方向性を示したのは、制作現場に迷いを残さないためだろう。PC移植の可能性を残したまま開発を進めれば、設計段階から最適化の対象が広がり、コストとスケジュールに跳ね返る。「PC版はない」と決まれば、PlayStation専用に振り切れる。

公式発言と内部方針がずれているのではなく、それぞれが別の受け手に向けて最適化されている。ユーザーへは選択肢の余地を残し、開発チームへは明確な指針を出す。

PCゲーマーにとっての意味

この話題でもっとも宙ぶらりんにされているのは、God of WarやGhost of TsushimaをきっかけにPlayStationのシングルプレイヤー作品を楽しんできたPCゲーマーだ。

すでに報じられている通り、Ghost of YōteiやSarosのPC移植計画は白紙になったとされる。Marvel's Wolverineは9月15日にPS5独占で発売予定で、PC版のアナウンスはない。今回の西野氏の発言は、こうした既報を公式に否定するものではなかった。

ただし注目すべきは、西野氏が言及したのは「ファーストパーティ」作品だという点だ。Kena: Scars of KosmoraやPhysintのように、PlayStation Studios名義でも外部スタジオが手がけるタイトルは、この方針の射程外にある可能性がある。PC移植がすべて消えるのではなく、自社スタジオのフラッグシップに限った独占回帰。現時点ではそう読むのが最も正確だろう。

フォーラムではシュライアー氏の投稿に対する反応も割れている。「これで決着だ」と受け止める声がある一方、「状況はいつでも変わりうる」と見る向きもある。どちらも正しいのかもしれない。今の方針に曖昧さはないが、それが永遠に続く保証もない。ソニーは言葉を慎重に選ぶ企業であり、その慎重さが今回も発揮された。

参照元

関連記事

この記事を共有する