Sony、シングルプレイヤーのPC移植を正式撤回

PlayStation独占が"6年間の実験"に幕を引く。God of WarもSpider-ManもPC版は過去の話になった。対象はナラティブ系に限定されるが、PCゲーマーにとっては実質的な決別宣言だ。

Sony、シングルプレイヤーのPC移植を正式撤回

PlayStation独占が"6年間の実験"に幕を引く。God of WarもSpider-ManもPC版は過去の話になった。対象はナラティブ系に限定されるが、PCゲーマーにとっては実質的な決別宣言だ。


ハルストが社内で語った「独占回帰」

PlayStationが、シングルプレイヤーゲームのPC展開を打ち切る方針を正式に固めている。

2026年5月18日(現地時間)、PlayStation Studios CEO ヘルメン・ハルストが社内タウンホールミーティングの場で、ナラティブ系シングルプレイヤーゲームを今後PlayStation独占にすると宣言した。Bloombergのジェイソン・シュライアーがこの情報をBlueskyで速報している。

ハルスト曰く、今後リリースされるナラティブ・シングルプレイヤーはPlayStation独占とする。3月のBloomberg報道が公式に追認された形だ。

この発言は、数か月にわたる噂と報道を一気に決着させた。2月下旬にリーカーのNateTheHate2が「PCに届くシングルプレイヤーは減る。PCサポートから離れる判断は昨年(2025年)に下された」と明かしていた。3月にはBloombergが正式に報じ、Ghost of YōteiのPC版計画が中止されたことも伝えられていた。

今回のタウンホール発言は、その流れを社内的にも確定させたものになる。


対象は「ナラティブ・シングルプレイヤー」に限定

ハルストの発言には、注目すべき線引きがある。

独占の対象はナラティブ系に限定された。マルチプレイヤーやライブサービス系のタイトルは引き続きPCを含むマルチプラットフォームで展開される。BungieのMarathon、Guerrilla GamesのHorizon Hunters Gathering、そしてMARVEL Tokon: Fighting Soulsはすべて予定通りPCでもリリースされる。

つまりSonyが閉ざしたのは、God of War、The Last of Us、Ghost of Tsushima、Marvel's Spider-Man──PlayStation体験の代名詞となってきた大型シングルプレイヤー作品のPC展開だ。今後のGhost of Yōtei、Saros、Insomniac GamesのMarvel's Wolverine、Naughty DogのIntergalactic: The Heretic ProphetはPS5独占のまま据え置かれる。

「ナラティブ系」という区分がどこまで厳密に運用されるかは未知数だが、少なくとも大型シングルプレイヤータイトルがSteamに届く時代は終わった。

6年間のPC展開、数字が語る「不十分」

なぜSonyはPC路線を引き返したのか。数字を見ると、その判断には根拠がある。

2020年のHorizon Zero DawnのPC版を皮切りに、God of War、Marvel's Spider-Man Remastered、Ghost of Tsushima Director's Cut、The Last of Us Part II Remasteredと、次々にPlayStation独占タイトルがSteamに並んだ。PC移植の専門スタジオNixxes Softwareを2021年に買収するほど、Sonyは本気だった。

しかし結果は期待に届かなかった。SteamDBのデータによれば、InsomniacのMarvel's Spider-Man Remasteredの同時接続ピークは約 6万6000人。Ghost of Tsushima Director's Cutが約 7万7000人 でシングルプレイヤー最高記録を更新した一方、Marvel's Spider-Man 2は約 2万8000人 にとどまり、前作から大きく後退した。Horizon Forbidden Westは約4万人、The Last of Us Part II Remasteredは約3万人にとどまっている。

PlayStation PCタイトル Steam同時接続ピーク
※ SteamDB記録ベース。Helldivers 2(約45万8000人)はマルチプレイヤー専用のため除外

PC移植がSony全体の売上に占める割合は 約1.5% という数字も報じられた。コンソールとPCのリリース間隔が長いため、PC版が出る頃にはセール落ちのコンソール版と自社バックログが競合相手になる。盛り上がりのピークを逃した移植作は、投資に見合う数字を残せなかった。


Xboxの「逆」を行く戦略転換

Sonyのこの判断には、ゲーム業界全体の地殻変動が絡んでいる。

Microsoftが自社タイトルのマルチプラットフォーム化を加速し、事実上のプラットフォーム境界を溶かしているのと真逆の方向だ。Xbox陣営が「どこでも遊べる」を掲げる中、Sonyは「PlayStationでしか遊べない」を武器に据え直した。

2026年4月のBloombergインタビューで、ソニーグループCEOの十時裕樹は「PlayStationはプレイするのに最高の場所であるべきだ」と述べている。エンターテインメント部門がソニー全体の売上の 60% 以上を占め、その中核がPlayStationである以上、プラットフォームの求心力を維持する判断は経営的には合理的だ。

SteamマシンやValveのハードウェア展開、PCの「テレビ下」市場への進出も、Sonyにとって見過ごせない脅威だったと考えられている。PlayStation独占タイトルがSteamに並ぶことで、コンソールを買う理由そのものが薄まる。長期的に自社のハードウェア販売とエコシステムを守るためには、目先のPC売上を捨てるほうが得策だという判断だ。


Nixxes Softwareの行方

この方針転換で、もっとも影響を受ける存在がある。

Sonyが2021年に買収したPC移植専門スタジオNixxes Softwareだ。Marvel's Spider-Man、Ghost of Tsushima、Horizon Forbidden WestなどのPC版を手がけ、直近ではDeath Stranding 2: On the BeachのPC版もNixxesが担当した。

シングルプレイヤーの新規PC移植が止まれば、Nixxesの存在意義が根本から揺らぐ。Sonyは2026年2月にBluepoint Gamesを閉鎖したばかりで、「買収したスタジオを閉じる」前例ができてしまっている。

ライブサービスタイトルのPC対応やレガシー作品のメンテナンスに回されるとの見方もあるが、Nixxesの専門性を活かせる仕事がどれだけ残るのかは不透明だ。

PlayStationの公式スタジオ紹介ページでは、Valkyrie EntertainmentやXDevからPC関連の記述が削除される一方、Nixxesの紹介文には「PC移植のエンジニアリングに特化」という文言が残されている。PC移植を全面廃止したわけではないという含みなのか、単に更新が追いついていないだけなのかは分からない。


最後のPC移植組、Death Stranding 2の位置づけ

方針転換の「境界線」をまたぐタイトルも存在する。

2026年3月19日にPC版がリリースされたDeath Stranding 2: On the Beachは、この戦略変更の影響を受けなかった数少ない作品だ。小島プロダクションがIPを保有しており、ファーストパーティタイトルとは異なる扱いを受けている。ただしPC移植はNixxesが担当し、パブリッシャーはPlayStationだ。

Ghost of Yōteiはかつて「PC版の開発がかなり進んだ段階」にあったと複数の関係者が明かしているが、計画は完全に中止された。HousemarqueのSarosについても、開発元はPC版についてのコメントを拒否している。Marvel's Wolverineは2026年9月リリース予定だが、PS5独占で確定した。

PCゲーマーにとってDeath Stranding 2は、PlayStationからSteamに届いた「最後の大型シングルプレイヤー」になる可能性が高い。

問われるのは「誰のための判断か」

6年間かけて築いたPC展開を畳む決断は、簡単ではなかったはずだ。

PCゲーマーの視点では、待望の移植を期待していた層が梯子を外された形になる。特にSteamでPlayStationタイトルの購入履歴を積んできたユーザーにとっては、「いずれ来る」という前提が崩れた。

一方で、PlayStation陣営のファンの間では支持の声が大きい。Push Squareの読者投票では、PC移植廃止に 70%以上 が賛成と回答した。独占タイトルの存在がコンソール購入の動機になっているユーザーにとって、PC展開は自分の選択の価値を下げる行為に映る。

Sonyの判断は、1.5%の売上を捨て、エコシステムの求心力を取り戻すという賭けだ。しかし業界の関係者がBloombergに語ったように、ゲーム業界は常に変化しており、Sonyの計画も「絶えず変わりうる」ものだという。

PCとPlayStationのあいだに引き直された線が、5年後にも同じ場所にあるかどうかは、誰にも分からない。


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