VideoLAN、AV2デコーダdav2dを仕様確定前に公開

VideoLAN、AV2デコーダdav2dを仕様確定前に公開

AV2の仕様がドラフト状態のなか、VideoLANがAV2デコーダ「dav2d」を公開した。AV1普及の立役者dav1dの後継として、すでに「production-ready」を謳う。仕様より先に実装が走り出す、その意味とは。


仕様より早く動き始めた実装

AV2の仕様書はまだドラフト状態にある。本来であれば2025年末に正式リリースされる予定だった次世代の映像コーデックが、いまだ確定版に至っていない。にもかかわらず、VideoLANはそのデコーダ実装である「dav2d」を週末にひっそりと公開した。

これは少し奇妙な順序だ。普通は仕様が固まり、その上で実装が始まる。dav2dの場合、仕様の最終形がまだ動く可能性のある段階で、コードは「battle-tested and production-ready(実戦投入レベルで磨き上げた、商用に耐える)」とまで宣言されている。AOMediaのAV2仕様書は 2026年1月5日付 でドラフト状態にあり、開発者は最終リリースまでに修正される既知の問題を警告している。

VideoLANの開発陣はもう何ヶ月も前から、この「先回り」の作業を進めてきた。dav2dという名前そのものが過去の成功体験を引き継いでいる。AV1のオープンソースデコーダ「dav1d」が、どれほどの存在になったかを思い出せばわかる。

dav1dという成功体験の重み

dav1dはAV1の普及に決定的な役割を果たした。VideoLANのdav1dはAndroidAppleに採用され、Safari、ChromeEdgeFirefoxといったあらゆるブラウザで使われ、Android、iOSmacOSWindowsLinuxの大半のOSで動作する最も使われるAV1デコーダになった。

なぜそんなことが可能だったのか。理由はシンプルで、ハードウェアデコーダが普及する前に「ソフトウェアで現実的に再生できる」状態を作り出したからだ。AV1規格は2018年に確定したが、対応するiGPUが市場に出るのは数年後の話だった。その空白期間を埋めたのがdav1dであり、結果としてAV1は「ハードウェアを待たずに使える」コーデックとして一気に広がった。

dav1dはAV1のクロスプラットフォームなデコーダであり、オープンソースで、速度と正確性を重視する。すでに実戦テスト済みで、商用品質に達している。

VideoLAN本人がdav1dをこう自己評価する。dav2dの説明文も、ほぼこの構文をなぞっている。「fastest AV2 decoder on all platforms」つまり、すべてのプラットフォーム上で最速のAV2デコーダ。野心的な宣言だ。

dav1dが採用された主要プラットフォーム
カテゴリ 採用先
ブラウザ Chrome / Edge / Firefox / Safari
デスクトップOS Windows / macOS / Linux
モバイルOS Android / iOS
主要採用元 Google / Apple
(モバイル・OS両者で採用)
コードの位置づけ battle-tested
production-ready
出典: Alliance for Open Media公式インタビュー(VideoLAN/dav1d)

なぜ仕様確定前に出すのか

AV2の進捗は、ハードウェアデコーダの登場までさらに数年を要する。AV1の最終仕様が2018年3月に固まり、それに対応する最初のiGPUがIntelで2020年(Tiger Lake)、AMDで2020年末(RDNA 2)に登場した経緯を踏まえると、AV2のハードウェアサポートが揃うのは2027年以降になる可能性が高い。

その間、AV2のコンテンツを再生する手段は事実上ソフトウェアデコードしかない。ここに先行投資の意味がある。ハードウェアが間に合わない時期を、CPU最適化された軽量デコーダで埋める。dav1dと全く同じ戦略だ。

dav2dも基本姿勢は引き継がれている。クロスプラットフォーム対応、速度と正確性の両立、そしてC言語ベースの実装。開発陣はC実装の完成と使えるAPIの提供、そして主要プラットフォームへの移植を進めており、AVX2やARM・RISC-Vなどの命令セット向けの性能最適化も残っている。

ARMとRISC-Vを並列に挙げているところに、想定する利用領域の広さが見える。スマホ・組み込み・低消費電力サーバまで、CPUベースのデコードが現役で求められる領域は広い。

AV2の正式リリースは延期されている

ここで一つ整理しておきたい。AV2は当初、2025年末の正式リリースを予定していた。それが現在もドラフト状態だという事実は、コーデック規格の標準化作業が依然として複雑で時間がかかることを示している。

AOMediaは以前、AV2は2025年末に正式リリースされ、ハードウェア実装は2026年に登場する予定だと発表していた。しかし2026年3月時点でAV2はドラフト状態のままだ。CES 2026では、開発中のVLC 4が通常のラップトップでAV2を再生するデモが披露されている。

つまり仕様は固まっていないが、再生はもう動いている。CES 2026の段階で、VideoLAN側はAV2の再生を見せている。これがdav2dベースの実装かは公式には明言されていないが、技術系譜から考えれば自然な推測だ。

AV1とAV2の主要スペック比較
項目 AV1 AV2
仕様の状態 2018年3月確定 ドラフト
ビットレート
削減率
基準 最大40%減
対応色深度 8 / 10 / 12 bit 8 / 10 bit
(12bit予約)
クロマ
フォーマット
4:2:0 4:2:0 / 4:2:2
4:4:4
プロファイル数 3 6(Main)
VideoLAN
デコーダ
dav1d dav2d
出典: Alliance for Open Media「AV2 Bitstream & Decoding Process Specification」(2026年1月5日付ドラフト)

ドラフト先行のリスクと意義

仕様確定前にコードを書くことは、リスクを伴う。AOMediaが最終仕様で構文要素を変更すれば、dav2dも追随して書き直さなければならない。

AV2仕様には、Restricted Switch Frame OBUの扱いや、YUV 4:2:2クロマフォーマットでの4x64ブロックサイズなど、最終仕様で修正される予定の既知の問題が複数残っている。

それでもVideoLANが先行した理由は、おそらく時間の経済性にある。仕様確定を待ってから書き始めれば、ハードウェアが普及するまでの空白期間に間に合わない。dav1dが成功したのは、AV1規格確定から数年内に「実用品質のソフトウェアデコーダ」を提供できたからだ。同じことをAV2でやるなら、いまから動いていなければ間に合わない。

商用品質に達したと宣言するコードを、仕様がまだ動く時期に公開する。これは技術的な賭けであり、同時にコーデック普及戦略でもある。

dav2dはまだC実装の完成途上で、APIも整備中だ。それでもリポジトリを「public」にした判断は、コミュニティからのフィードバックを早期に取り込み、仕様の最終調整にも影響を与えるという意図を含んでいる可能性がある。

ハードウェアを待たない時代の作法

このニュースが映し出しているのは、現代のオープンソースコーデック開発の作法そのものだ。仕様の権威ある確定を待つのではなく、参照実装と並走しながら商用品質のコードを育てていく。dav1dがその先例を作り、dav2dがそれを再演する。

AV2が約束する40%の帯域削減が現実のものになれば、ストリーミング業界全体のコスト構造が変わる。

AV2は同等画質でAV1より最大40%の帯域削減を実現し、AOMediaのテストでは平均で38%少ないビット数で同等の知覚品質を達成した。

NetflixYouTubeのような巨大プラットフォームにとって、この差は単なる技術改善ではなく経営指標に直結する。

そのために、いまdav2dは公開された。コードが、仕様にもハードウェアにも先立って動き出している。


参照元

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