MozillaがChromeのPrompt API搭載に反対、ウェブの中立性に懸念

Googleがブラウザに組み込もうとしているAI APIに対し、Mozillaが正面から反対の声を上げている。問題の中心は、Chromeにすでに搭載され検証段階にあるPrompt APIだ。

MozillaがChromeのPrompt API搭載に反対、ウェブの中立性に懸念
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Googleがブラウザに組み込もうとしているAI APIに対し、Mozillaが正面から反対の声を上げている。問題の中心は、Chromeにすでに搭載され検証段階にあるPrompt APIだ。


MozillaがChromeのAI APIに反対を改めて表明

GoogleがChromeブラウザにAI機能を組み込む流れに対し、Mozillaが反対の立場を改めて表明している。問題視されているのは「Prompt API」と呼ばれる仕組みで、すでにChromeとMicrosoft Edgeで検証段階に入っている。それでもなお、Mozillaは「待った」をかけたい構えだ。

Mozillaのウェブ開発者リレーションズ・リードを務めるジェイク・アーチボルド(Jake Archibald)は、GitHub上のスタンダード・ポジション(Mozillaが各種ウェブ仕様への態度を表明する公式の議論の場)で、組織としての懸念を詳しく述べた。Prompt APIは、ローカルの機械学習モデルにプロンプトを送り、レスポンスを受け取る標準化された仕組みを提供する。

このAPIには引き続き反対する。ウェブプラットフォームの相互運用性、更新可能性、中立性に対して深刻な悪影響をもたらすと考えている。

これがアーチボルドの基本姿勢だ。ウェブの中立性が崩れるという危機感が、彼の言葉の根底にある。

Prompt APIとは何か、何が問題なのか

Googleの説明によれば、Prompt APIは「ウェブページがブラウザに組み込まれた言語モデルに直接プロンプトを送れるようにする」仕組みだ。Chromeに同梱されるGoogle独自の小型モデル「Gemini Nano」に対して、自然言語の指示を送れるようになる。

「小型」とはいえ、Googleは22GBの空き容量を推奨している。デスクトップ向けNano(v3Nano)の実体は約4.27GB。十分大きい。

GoogleがPrompt APIに掲げる利点は、ブラウザのセキュリティ機構を活用したローカル推論の実行、応答時間の短縮、オフライン利用、より低コストなAI統合だ。AIキーを持たないユーザーに無料のAIフォールバックを提供することもできる、と説明している。

利点を並べるとそれなりに筋が通っている。問題は、その筋がGoogleの土俵の上にだけ通っているという点だ。

ウェブ開発者がAIモデルを使う方法は、すでにいくらでもある。クラウドAPIを叩いてホスト型モデルにアクセスすることもできるし、JavaScriptランタイム、WASM、WebGPUを介してローカルモデルを動かすこともできる。OpenAIやPerplexityはホスト型AIを組み込んだ独自ブラウザをリリースしている。Mozilla自身もFirefoxにSmart WindowというAI機能を実装中で、AIモデル開発のためのツール群を整備している。

つまり、AIをウェブに持ち込む手段は十分にある。あえてブラウザのAPIとして規格化する必要はあるのか、というのがMozillaの問いだ。


アーチボルドが挙げた3つの懸念

アーチボルドの指摘は、大きく3つに分かれる。

第一の懸念:Gemini Nanoが事実上の標準になる

AIモデルの応答は決定論的ではない。同じ入力でも、モデルが違えば結果が変わる。開発者は「予測可能な動作」を求めるから、最初に普及したモデルに合わせてコードを書く。

その結果、Gemini Nanoのデファクトスタンダード化圧力がAppleやMozillaにかかる、というのがアーチボルドの読みだ。共通のユーザー体験のためという名目で、競合ブラウザはGoogleのモデルをライセンスせざるを得なくなる。

ウェブ全体が単一企業のモデルに依存する構造が、ブラウザの基盤レイヤーで固定されてしまう。これがアーチボルドが懸念する事態だ。

第二の懸念:Googleの利用規約への同意が必要になる

おそらくこちらの方が深刻だ。Prompt APIを利用するには、Googleの「Generative AI Prohibited Uses Policy(生成AI禁止利用ポリシー)」への同意が必要になる。

このポリシーは、必ずしも違法ではない活動も禁じている。たとえば「不快な」コンテンツの生成だ。法律ではなく、Googleの裁量で「ダメ」と決められた領域に踏み込めない。

ウェブプラットフォーム上のAPIにとって、これはまずい方向だ。ブラウザ固有の利用ルールを持つAPIが今後増えるとしたら、看過できない前例となる。

ウェブAPIは伝統的に、特定の事業者のコンテンツポリシーに縛られない設計だった。アーチボルドの言葉を借りれば、「特定ベンダーのコンテンツ規約を受け入れることが前提のAPIで構築するなら、もはや開かれたプラットフォーム向けの開発ではない」ということになる。

第三の懸念:開発者の支持を誇張している

GoogleはBlinkの実装意図表明(intent to ship on blink-dev)の中で、開発者の反応を「強く肯定的(Strongly positive)」と書いた。アーチボルドはこの記述を疑っている。

「証拠として示されているexplainerの記述は、その主張に合致していないように見える」と彼は書いた。実際には、賛否が極端に分かれている「分極化(polarised)」した状態であって、強く肯定的とは言えない、というのが彼の見立てだ。

そして、たとえ開発者の需要が本当に強かったとしても、それだけで採用判断の基準を満たすわけではない、と続ける。問題は「このAPIが、特定ベンダーのモデルにプラットフォームを縛りつけずに、複数の実装にまたがって機能できるかどうか」だ。


Google側エンジニアの反応

Googleは当初、コメント要請に応じなかった。だが木曜日(米国時間)、Chromeのエンジニアでこの仕様の出荷責任者であるリック・バイヤーズ(Rick Byers)が、GitHub上の議論に書き込んだ。

興味深いことに、彼はMozillaの懸念を部分的に認めた

Chromiumへの出荷を承認するBlink APIオーナーの一人として、Mozillaのスタンダード・ポジションで述べられている懸念を共有していると認める。私が違う立場を取るのは、何が起きるかわからないという恐れからイノベーションを止める道よりも、実験と失敗からの学び、そして競争を促す道を選びたいという点だ。

バイヤーズはウェブコミュニティに対し、実害を裏付けるデータを集めるよう呼びかけた。彼が引き合いに出したのは、過去に物議を醸したEncrypted Media Extensions(EME)の議論だ。当時も「ウェブが閉ざされる」と警告されたが、結果は予測されたほど悲惨ではなかった、というわけだ。

しかし、データに目を向けると、Googleの立場は分が悪い。

ベンチマークが示す実態

2026年2月に作成された比較レポートによれば、Chrome(Gemini Nano)とEdge(Phi-4 mini-instruct)の両モデルをPrompt API経由で動かしたところ、結果はおよそ褒められたものではなかった。

生成タスク(文章作成、タグ付与など)では、Edgeの応答の24.29%、Chromeの応答の15.17%がタスクを完遂できなかった。これは5段階評価で2点以下を「失敗」と定義した場合の数字だ。分類タスクでは、Edgeの29.58%、Chromeの23.93%が入力を正しくラベル付け・分類できなかった。

接地性(groundedness)と正確性については、Edgeは17%の確率でハルシネーション(事実でない出力)を起こし、Chromeは6%だった。Chrome側の方が成績は良いが、それでも10回に1回近く誤った内容を出していると考えると心許ない。

このAPIはウェブにとって本当に良いものなのか。Chromeに尋ねてみてもいい。ただし、信頼できる答えが返ってくるとは限らない。


続報:Googleが声明を発表

その後、Googleは声明を出した。

オープンに作業することの一部は、議論と意見の相違を歓迎することだ。Mozillaのフィードバックを歓迎し、APIの改善に向けて、Mozillaおよびウェブコミュニティと引き続き協働していく。

外交的な定型文だ。実質的な譲歩には踏み込んでいない。

Mozilla自身もAIに踏み込んでいる、という事実

ここで一つ留意しておきたいのは、Mozilla自身もFirefoxにAI機能を組み込んでいる現実だ。Smart Window(以前はAI Windowと呼ばれていた)はFirefox 148で導入されたAIコントロールに続き、Firefox 149以降でベータ提供されている。Geminiを含む複数のモデルから選んで使える設計だ。

つまり、MozillaはAIそのものを否定していない。否定しているのは、「Googleのモデルを使うことが、ブラウザ標準APIの利用条件になる」という構造だ。AI機能を入れるかどうかと、AIをウェブ標準にどう乗せるかは、別の問題だと整理しているわけだ。

その整理が成り立つかどうかは、開発者やユーザーがどう受け止めるかにかかっている。GoogleはChromeのシェアを背景にデファクトを作る力を持つ。Mozillaのシェアは3%前後にとどまる。声を上げ続ける以外に、Mozillaがウェブの中立性を守る手段は多くない。

ウェブが誰のものなのか。Prompt APIをめぐる議論は、その古くて新しい問いを、AIという文脈で改めて投げかけている。


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