Temuで20ドルの4TB外付けHDD、中身はホットボンド

20ドルで4TBの外付けHDDが届くと信じる人はいない。それでも「ハズレでもネタになる」と財布を開く人はいて、開封すると、プラスチック箱の中にはmicroSDカードリーダーがホットボンドで貼られていただけ。Redditの反応層が、本題を浮かび上がらせる。

Temuで20ドルの4TB外付けHDD、中身はホットボンド
Raw_Stank

20ドルで4TBの外付けHDDが届くと信じる人はいない。それでも「ハズレでもネタになる」と財布を開く人はいて、開封すると、プラスチック箱の中にはmicroSDカードリーダーがホットボンドで貼られていただけ。Redditの反応層が、本題を浮かび上がらせる。


「ネタで20ドル」が生んだ典型的な詐欺サンプル

Redditのr/pcmasterraceに投稿された画像が、海外の技術系メディアにも取り上げられて広く拡散した。

I got a 4TB external drive off Temu and this is what they sent lmao
by u/Raw_Stank in pcmasterrace

投稿者のRaw_Stankは、Temuで20ドルの「4TB外付けドライブ」を買った。「20ドルだったから『まあいいか、買ってみるか』と思った。理由は今わかった。何か悪意のあるものだろうけど、これが実際なんなのか誰か知ってる? 不審なくらい簡単に返金された」と本人は書いている。

開封画像にうつるのは、空っぽのプラスチックケースの裏側に、ホットボンドでくっつけられたmicroSDカードリーダー基板。それだけだ。

20ドルで4TBは、誰がどう見ても成立しない値段ではある。ちなみにWestern Digital My Passportの4TB版はAmazonで719.99ドルで売られている。本物の3%以下の価格で、本物が届くわけがない。

ここまでなら、よくある「Temuで詐欺商品を買った話」で終わる。

本題はコメント欄にあった

この投稿が18万件近いupvoteと1700件以上のコメントを集めた理由は、もう一つ別の場所にある。コメント欄で交わされた、技術的にも文化的にも厚みのある議論だ。

最初に注目を集めたのは、barillamanilaolivesによる投稿だ。彼は「これは実際には全容量を保持していない。OSをだまして、保持しているように見せかけているだけだ。実は、これにはいくつかの用途がある」と書いた。

すかさずmyopinionstinksが「2つの好きな用途を教えてくれない? 興味津々で」と返す。barillamanilaolivesの答えは、技術者の視点を踏まえたものだった。

テストや書き込みシミュレーションをするとき、データが書き込まれる際のバッファウィンドウを見たいことがあるかもしれない。でも、実際にはそのデータを全部書き込むのに必要な4TBは持っていない。

myopinionstinksは「4回読み直して、ようやく理解できた。共有してくれてありがとう」と素直に返した。次の瞬間、コメント欄が爆発する。

Sounds like you saw your buffer window.(バッファウィンドウが見えたみたいだね)

pumpkin-head7617の一言。「バッファウィンドウ」を見た、という言葉遊び。続いてVektor0が刺す。「I've never seen a buffer window, but I have seen a window buffer.(バッファウィンドウは見たことないが、ウィンドウバッファなら見たことある)」

これが100以上のupvoteを集める形となった。技術用語の語順をひっくり返しただけのジョークが、なぜここまで支持されるのか。Redditのコメント文化の特質がよく出ている。

技術論の真剣さの隙間に、軽くタックルしてくる遊び心。FoundTheSpacebarは別のスレッドで、もう少し丁寧に解説してくれている。

彼らはディスクに4TBのデータを書き込めるプログラムを作りたい。書き込み中の様子(バッファウィンドウ)も見たい。でも、テストのために4TBの空き容量を本気で確保したくはない。だから、OSに「ここに4TBの空き容量がありますよ」とウソをつかせる。実際にはそんな空きはない。

つまりこの偽ドライブは、開発者向けの**「空き容量の偽装ツール」**として、ある種の用途を持っている。詐欺商品が思わぬ実用性を帯びるあたりは、確かに面白い。

ROFLとPS2と「図書館に持って行け」

コメント欄のもう一つの層は、似た経験の記憶だ。

ItsFridaySomewheresが上位コメントで放った「同じ20ドルをSteamの恋愛シミュレーションに使ってくれてたら、まだマシな評価をしたのに」というジョークは3800のupvoteを獲得。続いて「ROFL」(Rolling On the Floor Laughing、笑い転げる)というインターネット黎明期のスラングが懐かしいと盛り上がり、AAアートの「ROFL COPTER」(ローフルコプター)まで投下された。10年以上前のミームが、20ドルの詐欺ドライブを巡って蘇る瞬間だ。

実害の証言もあった。yaboi_ahabは子どもの頃、PS2が偽装16MBメモリーカードに書き込もうとしてセーブデータが全て破損した経験を共有した。容量偽装は、PS2時代から続く古典的な手口なのだ。

Castunの友人も8〜9年前に同じ目に遭っている。「いいやつを見つけた」と1TBか2TBのUSBサムドライブを買ってきて、容量が偽装されていると教えても信じなかった。実際にデータで埋めてみるまで。

そしてBusy_Librarian_3467の「自分のPCはもちろん、隣人のPCにも繋がない。図書館に持って行け、LOL」という投稿には1474のupvote。Patrickrkが「速報: 不明なデバイスがネットワークをクラッシュさせて、地域の図書館がインターネット圏外に」と続けると、「グランドラピッズ公立図書館は2日前にランサムウェア攻撃を受けたけど、何してたの2日前は?」というOilheadRiderの返しが300近いupvoteを集めた。

Z0MBIE2が締める。「Take it to the library, LOL.(図書館に持って行け、LOL)」を引用しながら、「おい、図書館のPCを破壊しに行くな! 自分の好奇心は自分のドライブで満たせ!」

笑いの中に、共有された警戒心がある。

反応層が示したもの

このスレッドが面白いのは、Redditのコメント欄という**「集合知の遊び場」**が、20ドルの詐欺商品を多面的に解剖してしまった点にある。

技術解説層(barillamanilaolives、FoundTheSpacebar)、実害証言層(yaboi_ahab、Castun)、文化的記憶層(ROFLコプター、Steam恋愛シム)、そして警告層(Busy_Librarian_3467、Z0MBIE2)。これらが互いに連鎖して、単なる「Temuの詐欺ドライブ」が、ストレージ詐欺の歴史と今を映す資料になった。

トップ寄りのコメントの一つ、rienholtの投稿はシンプルだ。

If it reads as 4TB it will lose your data. Test it for shits and giggles.(4TBと表示されるなら、データは消える。冗談で試してみろ)

そして添えられたリンクが、GRC(Gibson Research Corporation)のValiDriveだった。

ValiDriveとH2testw、検証ツールの存在

ValiDriveは、セキュリティ研究者スティーブ・ギブソン(Steve Gibson)が手がけたフリーウェアだ。USBストレージの全領域を576地点でスポットチェックして、容量偽装を検出する。

ギブソンはこのツールを公開する際、AmazonでテキトウなUSBドライブを12本購入した。結果は12本中12本がすべて偽装ドライブだった。Amazonですらこの状況なのだから、Temuの20ドル4TBに何を期待できるかは推して知るべしだ。

もうひとつのツール、H2testwも長年知られている。テストデータをドライブに書き込み、それを読み戻して整合性を検証する仕組み。書いてから読み返すという、シンプルだが容赦ない方法だ。

容量偽装ドライブの典型的な手口は、ファームウェアでOSに対して「4TBあります」とウソをつき、実際には数十GB程度の領域しか持たない。バッファウィンドウとして機能する程度の小さな領域に、書き込まれたデータをループで上書きしていく。古いデータは音もなく消え、ファイルが数GBを超えた時点で破損が始まる。

写真を保存した。重要書類をバックアップした。気づいた時には、すべてが消えている。

AIバブルが偽ドライブを増やす

ここで、もう一つの背景が効いてくる。

2026年現在、ストレージ価格は歴史的な水準まで高騰している。TrendForceの調査によれば、NAND Flashの契約価格は2026年第2四半期に前期比70〜75%の上昇が見込まれている。これは2024年比で2倍から3倍の水準だ。

理由は単純で、AI向けのデータセンターがNAND生産能力を吸い上げている。エンタープライズSSDが世界のNAND生産の約60%を占めるようになり、消費者向けには「お余り」しか残らない。サムスンSKハイニックスマイクロンの3社は、利益率の高いHBMやエンタープライズ向けに生産をシフトしている。

価格が上がれば、相対的に「安すぎる本物っぽい詐欺商品」の魅力が増す。20ドルで4TBがあり得ないのは誰でもわかるが、200ドルで2TBの「ブランド品」と称するものが出てきたら? 100ドルで1TBの新興ブランドSSDが「期間限定セール」と謳ったら?

dorkimoeのコメントが本質を突いている。「Temuで電子製品を買うやつなんていないだろ」。本来そうあるべきだった。だが、AI需要で価格が3倍になったストレージ市場で、その常識はどこまで通用するか。

残されたもの

スレッドの最終的な教訓は、Castunが語ったことに集約される。「これは長年存在してきた問題で、USBサムドライブですら、広告された容量を表示するが実際にはずっと小さく、その実容量を超えようとすると失敗する」

20ドルのおもちゃをネタで買うのは自由だ。ただ、その「おもちゃ」は数十GBのSDカードを内蔵し、4TBと偽る。OSの容量表示を信じてバックアップを取れば、データは静かに上書きされて消えていく。

Reddit上で1700件以上のコメントが交わされたのは、この詐欺がもはや「ありふれた笑い話」になっているからだろう。Z0MBIE2の警告は、笑いを伴いながらも本気だ。図書館に持って行くのも、自分のPCに繋ぐのも、どちらも害がある。

容量を疑うこと。検証ツールを通すこと。そして、AI需要で価格が高騰した2026年では、「安すぎる本物」は、ほぼ間違いなく本物ではない。

今回は20ドルで済んだのが運が良かっただけだ。次はそうとは限らない。


参照元

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