豪16歳未満SNS禁止、6割が抜け道で継続利用
オーストラリアが世界に先駆けて踏み切った16歳未満のソーシャルメディア禁止が、施行から4ヶ月で骨抜きになっている。10代の6割は、母親の顔認証を借り、Temuで買ったメッシュマスクで顔認識を欺き、平然とアカウントを使い続けている。
オーストラリアが世界に先駆けて踏み切った16歳未満のソーシャルメディア禁止が、施行から4ヶ月で骨抜きになっている。10代の6割は、母親の顔認証を借り、Temuで買ったメッシュマスクで顔認識を欺き、平然とアカウントを使い続けている。
「世界初」の実験は、最初の3ヶ月でほころびた
2025年12月10日、オーストラリアは16歳未満のSNS利用を国家規模で禁じる初の国となった。Instagram、TikTok、Snapchat、X、YouTube、Facebookなど主要10プラットフォームが対象で、未成年のアカウント保有を防ぐ「合理的な措置」を取らなかった企業には最大4950万豪ドル(約56億円)の罰金が科される。子どもや保護者には罰則がない、企業の責任に絞った設計だ。
ただし、施行を進める過程でオンライン・セーフティ委員会は「これは禁止ではなく、アカウント保有の延期」と表現を整えてきた経緯がある。子どもを罰するための法ではなく、プラットフォーム側に責任を寄せた設計、という建前だ。
施行から4ヶ月。英国の自殺予防団体モリー・ローズ財団(Molly Rose Foundation)が2026年3月に12〜15歳の1050人を対象に行った調査結果は、この実験の前提を揺るがすものだった。禁止前にアカウントを持っていた子どもの61%が、いまも1つ以上のアカウントにアクセスできている。TikTokは53%、YouTubeも53%、Instagramは52%が「禁止対象であるはずのアカウント」を使い続けている。
注目された規制は、技術的にも運用的にも、最初の数ヶ月で抜け穴だらけになった。
14歳の少女が語った、最も合理的な抜け道
ニューサウスウェールズ州に住む14歳のエブリンは、施行直前の2025年12月にワシントン・ポストに対し、母親のFace IDを使ってSnapchatとInstagramにログインするつもりだ、と語った。これは技術的には何も難しくない。一緒に住んでいる母親の顔がそこにあれば、生体認証は通る。
Redditでは、より低コストな手段が共有されている。Temuで買えるプリント済みのメッシュ製マスクを顔にあてれば、アプリの顔認識スキャンを欺けるという。表情を変える、化粧をする、照明を調整する──そして最も多用されているのが、位置情報を偽装するVPNだ。さらに、年齢認証を一度通過した子が、友人や家族のために自分の顔を「貸す」ケースまで報告されている。
ただ、最もインパクトが大きいのは技術的な抜け道ではない。「そもそも回避すら不要だった」という事実のほうだ。モリー・ローズ財団の調査では、禁止前のアカウントを使い続けている子どもの大半は、特別な工夫をしていなかった。プラットフォームが既存アカウントを検出・削除しなかったから、ただ使い続けられただけ──そう答えている。
YouTube利用者の64%、Snapchat利用者の61%、InstagramとTikTok利用者の各60%が、自分のアカウントについてプラットフォーム側から「何のアクションも取られていない」と回答している。
10代がVPNを駆使して国境を越えるより、企業が削除義務を果たさなかった、という構図のほうが重い。
「効果はあるかもしれないが、運用は失敗している」
調査では、禁止前にこれらのプラットフォームを使っていた子どもの51%が、ネット上の安全性は「変わらなかった」と回答している。14%は「むしろ安全でなくなった」と答えた。法律の目的だった「子どもの心身の保護」は、少なくとも当事者の感覚としては実現していない。
ただ、ここで注意したいのは「だから禁止は間違いだった」と即断する話ではない、ということだ。ブラウン大学のジャクリーン・ネシ助教(精神医学・人間行動学)はFortuneに対し、SNS利用と若年層のメンタルヘルスを巡る研究は複雑で、一つの答えには収束していないと指摘した。
価値観や政治的判断と、研究データから出る結論は、必ずしも一致しない。社会として何を守りたいかは、研究では決められない領域だ。
ネシ助教の見立て:「これは間違った選択だ、ということではない。今のやり方が機能していない、というだけだ」
5社が捜査対象、企業側に回る監視の眼
オーストラリアのオンライン・セーフティ委員会(eSafety Commissioner)は、3月に公表した報告で、Snap、TikTok、Meta(FacebookとInstagram)、YouTubeの5社の遵守状況を調査中であると明かした。委員会は2026年中頃までに執行措置を判断するとしており、違反通告書の発行、裁判所による差し止め命令、そして最大4950万豪ドルの民事制裁金まで、選択肢は揃っている。
オーストラリアが「実験台」になっている、という構図は、もはや比喩ではない。ギリシャ、フランス、インドネシア、オーストリア、スペイン、英国が同様の規制を検討中で、米国でも8州が未成年者向けの何らかのガードレール法案を議論している。デンマークは15歳未満を対象にした禁止案を提出済みだ。
モリー・ローズ財団のCEOアンディ・バローズは、英国がいま同じ道をたどるのは「子どもの安全に関する高リスクの賭け」だと釘を刺した。財団が求めているのは、表面的な禁止ではなく、企業に体系的な「ケアの義務」(Duty of Care)を課す規制の強化だ。
「禁止」が解決しないもの
オーストラリアの児童権利タスクフォースは、別の角度からの懸念を示している。禁止が徹底されると、企業は「未成年はそもそもいない」前提で動けるため、子ども向け安全機能を実装するインセンティブを失う、というロジックだ。建前と現実の乖離が続けば、子どもは規制の網の外──より検証されていないネットの暗部──に押し出される可能性がある。
ネシ助教も同じ点を指摘していた。子どもがSNSを求める理由は、自律性、探索、娯楽だ。それを取り上げるなら、代わりに何を提供するのか。法律はそこに答えていない。
「10代がVPNを駆使して国境を越える」より、「企業が削除義務を果たさなかった」。この力点の違いが、次の規制設計の出発点になる。
オーストラリアの実験は、SNSと子どもをめぐる議論を「禁止か、放任か」の二択から少し前に進めた。少なくとも、禁止が単独では機能しないことは、施行4ヶ月のデータがはっきり示している。残るのは、技術と制度設計、そして家庭の役割のどこに線を引くかという、より厄介な問いだ。
世界初の規制は、世界に「やってみたら、こうなった」という最も貴重な情報を渡したのかもしれない。
参照元
- Molly Rose Foundation - More than 60% of Australian children still using social media
- eSafety Commissioner - Social media age restrictions
他参照