SamsungスマホがAIのRAM独占で史上初の赤字危機へ

Galaxy S26は過去最高の予約を記録した。それでも赤字になるかもしれない。AIによるメモリ争奪が、スマートフォン産業の根幹を揺さぶっている。

SamsungスマホがAIのRAM独占で史上初の赤字危機へ

Galaxy S26は過去最高の予約を記録した。それでも赤字になるかもしれない。AIによるメモリ争奪が、スマートフォン産業の根幹を揺さぶっている。


Galaxy S26は売れている——だから余計に深刻だ

Samsungのスマートフォン・家電を担うMX(モバイルエクスペリエンス)事業部が、設立以来初の年間赤字に陥る可能性が浮上している。

韓国のメディア머니투데이(マネートゥデイ)が4月22日に報じたところによれば、ノ・テムン(Roh Tae-moon)Samsung電子DX部門長兼MX事業部長が、経営幹部に対して年間赤字の可能性への懸念を伝えた。MX事業部の出発以来、年間赤字は一度もない。

注目すべきはタイミングだ。Galaxy S26シリーズは韓国で予約注文の記録を更新し、米国でもGalaxy S25比 25% 増という好調な出だしを切っている。通常ならば好決算の年になるはずが、メモリコストの急騰がそれを帳消しにしようとしている。

「製品が売れているのに赤字になる」という事態は、通常の経営判断では対処しきれない構造的な問題を示唆している。

AIスーパーコンピューター1台が、スマホ4600台分のRAMを飲む

問題の核心は、AIインフラがスマートフォン向けの低消費電力メモリ「LPDDR(Low Power Double Data Rate)」を大量に吸収し始めたことにある。

LPDDR5Xはもともとスマートフォンに最適化されたメモリ規格だ。消費電力の低さから、Galaxy S26 Ultraには12GBのLPDDR5Xが搭載されている。ところが、AIデータセンターを運営するクラウド事業者がこの規格に目をつけた。電力と冷却コストが最大の悩みであるAIインフラにとって、省電力のLPDDRは理想的な選択肢だったのだ。

NVIDIAの次世代AI CPU「Vera」(ベラ)には、総量 1.5TB のLPDDR5Xが搭載される。Galaxy S26 Ultra換算で125台分に相当する。AIスーパーコンピューター「Vera Rubin NVL72」には36基のVera CPUが搭載されるため、1台あたりのLPDDR消費量はスマホ約4600台分に膨らむ。

スマートフォンに使われていたはずのメモリが、AIサーバーに向かっている。供給量が同じなら、スマホに回る分は必然的に減る。

テスラも次世代AIチップAI5」「AI6」にLPDDRを採用予定だ。構造的な需要の移動は、一企業の意思決定だけでは覆せない。

カウンターポイント・リサーチの試算によれば、800ドル(約12万7000円)以上のプレミアムスマートフォンにおけるDRAMの原価比率は、今年第2四半期に約 20% まで上昇する見通しだ。昨年第4四半期比で2倍の水準であり、これにNANDフラッシュの価格上昇が加わると、プレミアムモデルの消費者価格は150〜200ドル(約2万4000〜3万2000円)の値上げを余儀なくされると同社は予測している。

メモリ価格はどこまで上がるのか

1〜3月期のLPDDR価格は前四半期比で約2倍に跳ね上がった。市場では4〜6月期にさらに80%以上の追加上昇を見込む声も出ている。

通常、メモリの供給契約は四半期単位で締結される。昨年後半から続く価格上昇が製造原価に本格的に反映されるのは、今年4〜6月期からとみられる。つまりMX事業部にとって、最も厳しい局面はこれから訪れる。

Samsungの中で起きている矛盾

この状況で最も皮肉なのは、被害者と受益者が同じ会社の中に存在している点だ。

Samsung電子の半導体部門は2026年第1四半期に史上最高の業績を記録した。AI向けメモリの旺盛な需要が直撃し、同社全体の営業利益は前年同期比 8倍超 にあたる5兆7200億ウォン(約6兆2000億円)に達した。一方で同じ会社のMX事業部は、その恩恵どころかコスト圧力を受けている。

Samsungはすでにその移行を進めており、旧世代のLPDDR4の生産ラインを縮小し、より高付加価値なLPDDR5の増産に軸足を移しつつある。これはAI向けに利益率の高いメモリを優先する合理的な判断だが、自社のスマートフォン部門への供給を相対的に逼迫させることでもある。

垂直統合で「部品から完成品まで」を強みにしてきたSamsungが、自社内の部品を巡る優先順位に直面している。

QualcommCEO、クリスティアーノ・アモン(Cristiano Amon)氏も4月21日に訪韓し、Samsung電子と SKハイニックス(SK hynix)の経営陣とLPDDR確保策を協議したと伝えられている。サプライチェーンの最上流に座る企業たちでさえ調達競争に動き始めているという現実が、問題の深さを物語っている。

スマホ全体が飲み込まれていく

この危機はSamsung固有の問題ではない。

IDCのデータによれば、今年1〜3月期の世界スマートフォン出荷台数は前年同期比 4.1% 減だった。価格が上がれば需要は落ちる。需要が落ちればコストを回収する台数が減り、さらに採算が悪化する——という悪循環の入口にすでに入っている。

低価格帯への影響は特に深刻だ。Motorolaが「Moto G」シリーズの価格を約50%引き上げ、SamsungもGalaxy製品の複数モデルで値上げを実施した。フラッグシップ向けに起きたことは、必ず廉価帯にも波及する。廉価スマートフォンは一般に部品のコスト変動に対する緩衝材が薄いため、影響がより直撃する。

LPDDR供給不足の深刻さは、Samsung・SKハイニックスMicronが総力で増産に動いても、楽観的な見通しでさえ2027年の需給ギャップは 40% に達するとの予測が出ていることに表れている。今年の問題ではなく、少なくとも数年単位で続く構造問題だという認識が業界で広がっている。

AIインフラが世界を変えていく一方で、そのコストはスマートフォンという形で私たちに還ってくる。


参照元

関連記事

Read more

中国製コアを積んだロシア製CPU「イルティシュ」でウィッチャー3が動いた

中国製コアを積んだロシア製CPU「イルティシュ」でウィッチャー3が動いた

中国製コアを搭載しながら「ロシア産」を名乗るサーバー向けCPU「イルティシュ(Irtysh)」が、ゲーミングPCに搭載されてウィッチャー3を30FPS前後で動かすという映像が公開され、国際的な注目を集めている。制裁下のロシアにとって数少ない選択肢のひとつだが、その正体をよく見ると、実情はやや複雑だ。