サムスン半導体、集会1日で生産18%減 AI特需下の労使衝突

4万人が工場を離れた1日で、半導体の生産ラインは目に見えて動きを鈍らせた。労組はその実数を自ら公表し、交渉のカードとして突きつけている。世界のメモリ不足が深刻化するなか、AI需要を一手に担う工場で何が起きているのか。

サムスン半導体、集会1日で生産18%減 AI特需下の労使衝突
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4万人が工場を離れた1日で、半導体の生産ラインは目に見えて動きを鈍らせた。労組はその実数を自ら公表し、交渉のカードとして突きつけている。世界のメモリ不足が深刻化するなか、AI需要を一手に担う工場で何が起きているのか。


集会1日で見えた工場の脆さ

サムスン電子の労組が4月23日に平沢(ピョンテク)キャンパスで開いた大規模集会を受け、同社の半導体生産が一日で目に見えて落ち込んだ。組合の「共同闘争本部」は翌24日、集会当日夜勤のメモリ工場の稼働率が18.4%下落したと発表している。参加者数は警察推定で約3万人、組合発表で約4万人と食い違いがあるものの、いずれにせよ同社半導体部門の従業員7万7000人の少なくとも4割前後に相当する規模だ。Seoul Economic Dailyが報じた数字である。

ファウンドリ(受託生産)ラインの落ち込みはさらに激しく、平均58.1%減。工場別に見るとS1(器興=キフン)が74.3%減、S3(華城=ファソン)が67.8%減、S5(平沢)が42.7%減と、ほぼ半減から4分の3減までのばらつきが並んだ。

自動化率の違いが数字を分けたとみられる。組合の説明によれば、メモリラインにはウェハー搬送の天井走行式自動搬送車(OHT)など工場内自動搬送が広く導入されているのに対し、ファウンドリは人の手に依存する工程がなお多い。人が抜けた瞬間、ラインは止まる。

数字の出どころは企業の決算短信でも証券アナリストのレポートでもなく、生産現場で実際にボタンを押している当事者たちの集計である。この種のデータが労使交渉の材料として直接開示される例は珍しい。

なぜ今なのか、AI特需下の空気

この動きを単なる賃金闘争として受け止めるのは、時期を見誤る。いま世界のメモリ半導体市場は、AI向けHBMへの生産集中で汎用DRAMが足りないという構造的な品不足に陥っている。Counterpoint Researchは2026年第1四半期のDRAM契約価格が前四半期比90〜100%上昇し、四半期ベースで過去最高の上昇率になったと指摘した。サーバ・PC・スマホのすべてに影響が波及し、Appleは2026年後半のメモリ価格影響を示唆し、任天堂の株価にも飛び火している状況だ。

その渦の中心にサムスンがいる。同社は2026年3月のNVIDIA GTCで、NVIDIAのVera Rubinプラットフォーム向け第6世代HBM4の量産開始を公式に発表したばかり。HBM3Eの供給でSK hynixに先行を許した同社にとって、HBM4こそが世代交代の切り札として位置づけられている。

半導体の需給がこれほどまで張り詰めた局面で、半日分でもラインが止まれば、供給計画はその分だけ後ろにずれる。組合がわざわざ稼働率の数字を開示したのは、経営側と市場の双方に「本当に止められる」というメッセージを同時に送るためだろう。

要求の中身

労組が求めているのは、運営利益の15%に相当する成果給の支給と、成果賞与の上限撤廃だ。サムスン電子の今年の運営利益予想は市場アナリスト集計で約298兆ウォン(約32兆1800億円)で、要求通りなら半導体部門の従業員7万7000人に平均約5億8000万ウォン(約6260万円)が行き渡る計算になる。

比較対象として持ち出されているのがライバルのSKハイニックスだ。同社は昨年9月に賞与上限を撤廃し、運営利益の10%を従業員に配分する方式に切り替えた。Seoul Economic Dailyによれば、2026年の運営利益予想が約230兆ウォンまで膨らむ見通しで、3万4549人の従業員1人あたりの平均賞与は約6億7000万ウォン(約7240万円)に達するとみられている。組合にしてみれば、同業がそこまで払うのになぜうちは払わないのか、という単純な問いかけになる。

経営陣は10%配分という対案を示したが、これは組合が既に拒否している。SKハイニックス並みの10%では、Samsung半導体部門の給与水準がライバルに追い抜かれたままになる、というのが労組の言い分だ。

5月21日に予告された18日間

要求が受け入れられない場合、労組は5月21日から6月7日まで18日間の全面ストライキを打つ構えだ。同組合の従来予想では、この期間の生産損失は30兆ウォン(約3兆2400億円)を超えうるとされていた。今回の集会当日の実数は、その予告の「試し撃ち」として提示されている。

それだけではない。超企業労組サムスン電子支部委員長のチェ・スンホ氏は同日、ストライキ初日である5月21日に、李在鎔会長の自宅前での集会を行う届出をソウル龍山警察署に出したと明らかにした。李在鎔(イ・ジェヨン)会長は2022年にサムスン電子の会長に就任したグループの経営トップで、工場の門前だけでなくトップの生活圏まで出向いて圧力をかける姿勢である。

さらに労組は、化学物質漏れを防ぐ「安全保護施設」の担当者もストライキに動員する方針を示している。これは産業安全の観点から議論を呼びうる部分で、実行されれば韓国の労使慣行においても前例のない領域に踏み込むことになる。

経営陣が抱える苦しい立場

サムスンの経営陣には、要求を丸呑みしにくい事情がある。15%配分だと支払い総額が約45兆ウォン(約4兆8600億円)にのぼり、株主還元や設備投資との綱引きが不可避となる。HBM4の量産拡張、平沢P4ラインの拡充、米テイラー工場の稼働準備と、資金を食う投資案件は並んでいる。

一方、押し切られれば他の大企業にも波及する前例をつくることになる。韓国の財閥系製造業において、人件費の上限設定は経営コントロールの根幹の一つとされてきた。これを外すか外さないかは、単なる今年度の決算の話ではない。

世界のサプライチェーンへの影響

TechCrunchは、サムスン電子の3万5000人超の労働者がストライキに入れば、その余波はシリコンバレーまで届く可能性があると指摘している。AIデータセンターが世界の高性能メモリの推定70%を消費する現在、同社1社の生産停滞はそのまま世界のAIサービスのコスト構造に跳ね返る。

DRAMは既にSamsung、SK hynix、Micronの3社で93%を握る寡占市場である。そのうち1社が18日間止まるという状況が現実になれば、需給の天秤はさらに片方へ傾くだろう。価格上昇はPC、スマートフォンゲーム機、自動車と、広範な業界に再び波及する。

数字が語るもの、語らないもの

集会1日の18.4%減とファウンドリ58.1%減という実数は、労組にとって強力な交渉材料だ。ただ、この数字にはいくつかの留保も付く。まず集会当日夜勤の数字であって、24時間の総減産ではない。そして発表主体が組合であり、サムスン経営陣からの独立した検証値は現時点で出ていない。

それでも、サムスンが数字そのものを公式に否定していない点は注目に値する。稼働率の実数を組合が把握できる立場にあること自体が、この労使関係の今の力関係を物語っているとも言える。

労使が互いに引かないまま5月21日が近づく。ストライキが実行されるのか、その前に妥協点が見いだされるのか、判断材料は限られている。確かなのは、AI特需という追い風のなかで、工場の「誰が動かしているのか」という古い問いが、確実に再浮上しているということだ。


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