「消しても戻るAI」にEUは介入できるか

「消しても戻るAI」にEUは介入できるか

自分の端末から、入れた覚えのないソフトウェアを消す。それだけのことが、なぜこれほど難しくなったのか。

FSFE(Free Software Foundation Europe、欧州フリーソフトウェア財団)が6月15日、欧州委員会に意見書を提出した。デジタル市場法(DMA)に基づくAndroid相互運用性コンサルテーション(事件番号DMA.100220)への正式な回答だ。要求は明快で、ユーザーがAI関連機能を端末から完全に削除できること。そして開発者がGoogleとの契約や登録なしに、Androidの相互運用性にアクセスできること。


消しても消えないAIモデル

FSFEが意見書で名指しで取り上げたのは、5月にプライバシー研究者のアレクサンダー・ハンフ(Alexander Hanff)氏が公表した調査結果だ。Google Chromeがユーザーの同意なく、Gemini Nanoと呼ばれる約4GBのAIモデルをデスクトップ端末にダウンロードしている。OptGuideOnDeviceModelというフォルダにweights.binとして置かれるこのファイルを削除しても、Chromeは再起動時に同じものをもう一度ダウンロードする

Googleは2月から設定画面での無効化・削除オプションを提供し始めたと説明している。無効にすればモデルは再ダウンロードされないとも。だがそもそも、4GBのバイナリをユーザーに断りなくディスクに書き込み、消したら黙って書き戻す設計を出荷した事実は消えない。

DMAは、Googleのようなゲートキーパーに対して、プリインストールソフトウェアのアンインストールを認めるよう義務づけている。DMAがアンインストールを義務づけている以上、削除してもGoogleが無断で復元するなら、その義務は空文になる。

FSFEは今回の意見書で、ユーザーがAIコンポーネントを完全に削除でき、占有されていたストレージを回復できることを求めた。そしてユーザーの明示的な事前同意なしには、いかなる再インストール・再有効化・アップデートも許されないこと。

この主張は突然出てきたものではない。FSFEは2025年7月にも、他の市民社会団体とともにAndroid端末でのアプリ適切なアンインストールの欠如について欧州委員会に正式苦情を申し立てている。今回のコンサルテーションを、その保護範囲をAI機能にまで広げる機会と位置づけた。

相互運用性と開発者検証の切り離し

意見書のもう一つの柱は、9月に迫るAndroid開発者検証制度への異議だ。

Googleは2026年9月30日からブラジル、インドネシア、シンガポール、タイの4か国で開発者検証を施行する。認定Android端末にアプリをインストールするには、開発者がGoogleに実名を登録し、身分証明書を提出し、25ドルの手数料を払わなければならない。ADBや開発者モード経由は対象外だが、普通のユーザーがAPKをインストールするにはこの検証を通る必要がある。2027年以降、対象はグローバルに拡大する。

FSFEが指摘したのは、欧州委員会のDMA措置案にある盲点だ。措置案は相互運用性ソリューションへのアクセスが「無料で、技術的に健全で、不要な障壁のない形で」提供されるべきだと定めている。だが、そのアクセスの前提条件としてGoogleアカウントの保有や開発者プログラムへの契約を禁止していない。

FSFEは意見書で第139項の修正を求め、「Alphabetは、いかなる相互運用性ソリューション、またはその実装に必要な技術リソースへのアクセスも、Googleアカウントの保有、あるいはAlphabetまたはその関連会社との商業、貢献、開発者プログラム契約の締結を条件としてはならない」との文言の追加を提案した。

ルーカス・ラソタ(Lucas Lasota)FSFE法務プログラムマネージャーは「相互運用性は開発者検証手続きから切り離されなければならない。ゲートキーパーによる回避を防ぎ、相互運用性が実際に機能するための明確で精密で包括的なルールが必要だ」と述べている。

この問題は、法律の文言をどう読むかという技術論に見える。だが実態は、Google Play Storeの外でAndroidアプリを配布してきた開発者の存在そのものにかかわる。F-Droidのようなフリーソフトウェアの配布プラットフォームは、Googleのエコシステムから意図的に距離を置くことで成り立っている。身分証明書の提出とGoogleとの契約を強いることは、非民主的な環境にいる開発者にとって監視と報復のリスクを意味するとFSFEは意見書で明記した。

7月27日、そして9月30日

欧州委員会はDMA.100220の最終決定を7月27日までに下す。この決定はAlphabet(Google)に対して法的拘束力を持つ。FSFEの意見書がどの程度反映されるかは不透明だが、論点自体は欧州委員会の関心領域と重なっている。

委員会は1月に手続きを開始した際、Android上のAIサービスとの相互運用性を焦点に据えた。ウェイクワードによるAIサービスの起動、アプリとの連携によるコンテキスト理解とタスク実行、AIサービスが安定して動作するためのハードウェア・ソフトウェアリソースへのアクセス。いずれもGeminiが占有し、ChatGPTやClaudeには開放されていない領域だ。

FSFEが求めたのは、この相互運用性の議論にAI機能のアンインストール権と開発者検証の問題を持ち込むことだった。GoogleがAndroidにAIを黙って埋め込み、それを消す権利も保障しないなら、「公平な競争環境」も何もない。

DMA.100220 Android相互運用性手続きの経緯
2026年1月
欧州委員会が手続き開始
DMA第6条(7)に基づくAndroid相互運用性手続き
2026年4月
暫定措置をAlphabetに通達
AI相互運用性の技術要件を提示
2026年5月
コンサルテーション締切
第三者からのフィードバック受付終了
2026年5月
Gemini Nano無断インストール発覚
Chromeが約4GBのAIモデルを同意なく配布
2026年6月
FSFEが意見書を提出
AI削除権と開発者検証の切り離しを要求
2026年7月
欧州委員会の最終決定期限
Alphabetへの法的拘束力のある措置を確定(7月27日)
2026年9月
Google開発者検証の施行
ブラジル等4か国で開始(9月30日)、2027年以降グローバル拡大
※ 欧州委員会最終決定期限は手続き開始から6か月(2026年7月27日)。Google開発者検証は9月30日にブラジル・インドネシア・シンガポール・タイで施行開始

注視すべきは7月の欧州委員会決定と、9月のGoogle開発者検証施行のタイムラインだ。法が動くより先に、Googleの仕組みが動き出す。

参照元:FSFE - DMA: Protecting Device Neutrality in Android Devices

他参照:FSFE意見書全文(Zenodo)欧州委員会 DMA.100220コンサルテーションページ

EdgeのAIモデル自動取得をレジストリで止める手順
Chromeが4GBのGemini Nanoを無断でPCに書き込んでいた騒動は記憶に新しい。その同じ仕組みがEdgeにも仕込まれていることが、Microsoft公式のポリシードキュメントから明らかになった。ユーザーは事前にブロックできる。

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