AIリスク上位20職種の15が女性集中。事務職を通じた構造的偏り

AIに最も代替されやすい職種の大半に、女性が集中している。複数の国と国際機関のデータが、同じ偏りを指し示し始めた。

AIリスク上位20職種の15が女性集中。事務職を通じた構造的偏り

AIに最も代替されやすい職種の大半に、女性が集中している。複数の国と国際機関のデータが、同じ偏りを指し示し始めた。


自動化スコアが映す職種分布

オーストラリアの政府機関ジョブズ・アンド・スキルズ・オーストラリア(Jobs and Skills Australia)は、各職種の業務をAIがどの程度代替できるかを数値化した「自動化リスクスコア」を公開している。クイーンズランド工科大学のレオノーラ・リッセ(Leonora Risse)准教授らは、このスコアにジェンダーの分布を重ねた分析を発表した

自動化スコアの上位20職種のうち15が、女性が多数を占める職種だった。うち5職種は女性比率80%以上にあたる。キーボードオペレーター(スコア0.81)、テレマーケター(0.81)、人事事務(0.76)、経理事務(0.71)、秘書(0.67)、受付(0.66)。男性優位の職種は20位までに1つだけ(金融ディーラー)で、残り4つはジェンダーバランス型だった。

逆に、自動化リスクが最も低い20職種のうち17が男性優位だった。コンクリート工(0.10)、左官(0.12)、鉄道線路工(0.12)、板金工(0.11)。女性集中の職種は3つしか含まれていない。

オーストラリアの事務・管理職は従事者の70%以上が女性で、女性の就業者全体の約5人に1人がこのカテゴリに属している。

求人が先に減っている

スコアは可能性を示しているに過ぎない。だがオーストラリアでは、高スコア職種の求人が実際に減り始めている。

同じくジョブズ・アンド・スキルズ・オーストラリアのインターネット求人データによると、2026年6月時点で秘書・パーソナルアシスタントと経理の求人は前年同月比約22%減少した。一般事務は約9%減。一方、労働市場全体の求人減少は約1.7%にとどまる。

自動化リスクの低い職種では逆の動きが出ている。コンクリート工の求人は5.5%増、電気技師は14.3%増だった。

オーストラリアの求人変動率(2026年6月、前年同月比)
※2026年6月の前年同月比。オーストラリアのインターネット求人データに基づく

オーストラリア雇用・職場関係省が2026年7月に公表した報告書「AI and Employment in Australia」(AIとオーストラリアの雇用)も、この傾向を裏付けている。

2022年11月のChatGPT公開以降、自動化リスクが最も高い職種群の雇用は5.6%増にとどまった。最もリスクの低い職種群は9.5%増。報告書は「大規模な雇用喪失の証拠はない」としつつも、この差を「初期的なシグナル」と位置づけ、継続的な監視が必要だと述べている。

オーストラリアだけの話ではない

この構造的偏りは1カ国に限った現象ではない。

国際労働機関(ILO)が2026年3月に発表した調査報告は、84カ国のデータを分析し、女性優位の職種がAIに晒される割合は29%に達し、男性優位の職種の16%と比べてほぼ2倍だと結論づけた。最も自動化リスクが高い水準に限ると、女性優位の職種は16%、男性優位はわずか3%。差はさらに開く。

ILOはその原因を「職業分離」(occupational segregation)に求めている。秘書、受付、給与事務、経理補助。定型業務が中心のこうした職種に女性が集中し、建設、製造、運輸といった身体的な判断力と器用さが求められる職種に男性が集中している。AIは前者を後者よりはるかに容易に処理できる。

ブルッキングス研究所が2026年1月に発表した分析は、米国のデータで同じ構造を確認した上で、さらに踏み込んだ指摘をしている。AIリスクが高く、かつ転職への適応力も低い労働者は約610万人。その86%が女性だった。適応力の低さは、蓄えの少なさ、転用可能なスキルの狭さ、年齢の高さが重なった結果だと報告書は分析している。

日本は構造が同じ

日本の労働力調査(2024年平均、総務省)を見ると、事務従事者は男性558万人に対し女性861万人。女性就業者全体の27.9%を占め、職業カテゴリ別で最大だ。一般事務従事者に限れば男性408万人、女性618万人。事務職が女性の最大の雇用基盤であることは、オーストラリアと変わらない。

AIリスクと女性集中の関係:各国・機関の調査
調査主体核心データ
海外の調査
オースト
ラリア
自動化リスク上位20職種の15が女性優位
事務・管理職の70%超が女性
ILO(84カ国)女性優位の職種がAIに晒される割合は29%
男性優位は16%
米国高リスク・低適応力の労働者約610万人のうち
86%が女性
日本
労働力調査事務従事者861万人のうち女性618万人
女性就業者全体の27.9%
※オーストラリア: Jobs and Skills Australia。ILO: 2026年3月報告書。米国: ブルッキングス研究所2026年1月。日本: 2024年平均、2025年1月公表 総務省

第一生命経済研究所の推計は、AIの普及によって一般事務・総合事務・会計事務などの事務系で大幅な余剰が生じる一方、介護・医療・建設・調理といった現場系は需要増と代替困難が重なり不足が続くと指摘している。

「事務は余り、現場は足りない」。オーストラリア、米国、ILOのデータが示すパターンと同じだ。代替しやすい定型的な認知業務に女性が偏り、代替しにくい物理的な業務に男性が偏る。職業分離そのものがリスクの偏りを生んでいる

問われているのは技術ではない

AIが事務職のタスクを処理できること自体は、2023年以降の進歩を見れば予測の範囲内だろう。書類の分類、データ入力、スケジュール管理、定型的な顧客対応。生成AIとワークフロー自動化の組み合わせが、これらの業務を着実に圧縮している。

だが、誰がその影響を受けるかの分布には、あまり目が向けられてこなかった。AIリスクの議論は「どの仕事が消えるか」を軸に進んできた。複数の国のデータが今指し示しているのは、消える仕事の多くに女性が集中しているという事実だ。

ILOの報告書は、AI関連の職種で働く女性の比率が2022年時点で約30%に過ぎないことも指摘している。リスクが高い職種に女性が集中し、AIがもたらす新しい機会がある職種には女性が少ない。この二重の偏りが放置されれば、AIは男女間の経済格差を縮めるどころか広げる方向に作用する。

事務職で培ったスキルの中には、他の職種に移せるものがある。対人調整、文書の構成力、業務の段取り。だがそれを移すには、移す先が用意されていなければならない。

AIの影響は性別中立だという前提のまま政策を組めば、最もリスクの高い層が視野の外に出る。データはすでにそう示している。

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