中国SINKERが64GB DDR5サーバーメモリ量産達成
サムスンとSKハイニックスがHBM増産でDDR5供給を絞るなか、中国Jiahe Jinwei傘下のSINKERが64GB DDR5 RDIMMの量産と出荷を達成した。空いた席に、座りに来た者がいる。
大手が席を立った市場に、別の顔ぶれが現れた
中国深センのJiahe Jinwei(嘉合勁威)が、子ブランドSINKERのDDR5メモリで重要な節目を迎えた。年初に発表していたDDR5 Registered DIMM 64GB 5600MT/sサーバー専用メモリが、複数の大手メーカーによる厳しい検証を通過し、量産と出荷の段階へ正式に入った。
製品ラインはサーバー向けのRDIMMに加え、デスクトップ向けUDIMM、ノートPC向けSODIMMもそろう。容量は最大64GB、速度は4800MT/sまたは5600MT/sに対応する。
タイミングが、ただごとではない。
サムスン電子とSKハイニックスは2026年に入り、AI向けHBM(広帯域メモリ)の増産にDRAMウェハーを大量に振り向けている。Tom's Hardwareによれば、両社は2027年以降も供給不足が続くと警告しており、メモリ需要の充足率は過去最低水準まで落ち込んだ。マイクロンに至っては、コンシューマー向けブランド「Crucial」から事実上撤退する動きを見せ、エンタープライズとAI向けに資源を集中させた。
その結果、標準的なDDR5の供給が世界的に細っている。秋葉原のショップでは、2026年1月に DDR5-6400 64GB×2枚組が一時31万円台、DDR5-5600 32GB×2枚組が10万9980円という記録的な水準まで跳ね上がった。コロナ前の3〜4倍である。
そこに、中国勢が動いた。
SINKERという「隙間」の戦略
SINKERはJiahe Jinweiの「信創」(情報技術応用イノベーション)専用ブランドだ。中国政府が推進する国産化政策に沿って、国産DRAMチップを使った産業向け・エンタープライズ向け製品を3年以上にわたって開発してきた。今回の発表でも、製品は2つのカテゴリーに分けられている。
ひとつは「DDR5純国産メモリモジュール」。中国国内市場専用で、UDIMM/SODIMM/RDIMMの3形態をそろえる。もうひとつは「DDR5産業用メモリモジュール」。こちらはグローバル向けで、サーバー・産業機器・組み込み機器を狙う。
仕様はJEDEC標準に沿っている。電圧1.2V、PCB高さはUDIMM/RDIMMで31.2〜31.3mm、SODIMMで30mm、ピン数はDIMMで288ピン、SODIMMで262ピン。RDIMMはREG ECC対応、UDIMMとSODIMMはNon-ECC Unbufferedと、用途に応じて分けている。
中国国産品の特徴として、低レベル製造プロセスの制約下でも安定供給を優先する設計思想がある。SINKERの仕様は最先端ではないが、JEDEC準拠で動作温度0〜85℃を満たし、PC・ノートPC・サーバー・データセンター・スマート端末・医療機器・教育システム・広告ディスプレイまで広い用途をカバーする。
| カテゴリ/形態 | 容量 | メモリ機能 | ピン数 | PCB高 |
|---|---|---|---|---|
| 純国産UDIMM | 16/32GB | Non-ECC Unbuffered |
288 Pin | 31.2mm |
| 純国産SODIMM | 16/32GB | Non-ECC Unbuffered |
262 Pin | 30mm |
| 純国産RDIMM | 16/32/64GB | REG ECC | 288 Pin | 31.3mm |
| 産業用UDIMM | 8/16/32GB | Non-ECC Unbuffered |
288 Pin | 31.3mm |
| 産業用SODIMM | 8/16/32GB | Non-ECC Unbuffered |
262 Pin | 30mm |
| 産業用RDIMM | 16/32/64GB | REG ECC | 288 Pin | 31.3mm |
Jiahe Jinweiが「DDR5に取り組む」と発表したのは2021年4月、つまり5年前にさかのぼる。当時はマイクロン製のDDR5 DRAMチップを使い、コンシューマー向けのAsgardブランドで4800MHzから始めた。今回のSINKERでの量産達成は、その流れの サーバー向けの到達点 にあたる。コンシューマー領域での実績を踏まえて、ようやくREG ECC対応のRDIMMをデータセンターに送り込めるところまで来た。
DRAMの主役が変わりつつある
Jiahe Jinweiは中国国内で「全産業チェーン内蔵モジュール最大の受託製造企業」を自認するメモリモジュールメーカーだ。傘下に光威(Gloway)、阿斯加特(Asgard)、酷兽(CUSO)、神可(SINKER)の 4ブランド を持ち、グローバルでもモジュール出荷量で上位に入る。ただし、これまでは「DRAMチップを買ってきてモジュールに組む」という立ち位置だった。
ここに、もうひとつの変数が加わる。CXMT(長鑫存儲)だ。
CXMTは中国最大のDRAM製造企業で、2024年末からDDR5の量産を開始した。2025年11月には自社開発のDDR5-8000とLPDDR5X-10667を発表し、UDIMM/SODIMM/RDIMM/CUDIMM/CSODIMM/MRDIMMまでフルラインナップで展開する計画を示した。Caixin Globalによれば、CXMTはすでにLenovoへのDDR5供給を始めており、2026年には96GBモジュールの量産も予定している。
ただし、CXMTの世界DRAMシェアは2025年第2四半期時点で4.9%にとどまる。サムスン・SKハイニックス・マイクロンの3社で93.4%を握る現状から見れば、依然として周辺プレーヤーだ。米国の輸出規制で先端製造装置の調達も制限されている。
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サムスン・SKハイニックス・マイクロン93.4%
HBM増産にウェハー資源を集中させる大手3社。標準DDR5の供給を構造的に絞っている。
CXMT・その他6.6%
CXMTを含む新興プレーヤー全体。SINKERのようなモジュールメーカーが、この外側でDDR5の量産を進める構図。
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それでも、空白を埋める動きとしての意味は小さくない。AI向けHBMが標準DDR5の3〜5倍の利益率を稼ぐ以上、サムスンもSKハイニックスもHBMに資源を投じ続ける合理性がある。標準DDR5の供給が構造的に細るなら、誰かがその穴を埋めなければPC・サーバー・産業機器の生産そのものが止まる。中国勢が動く余地は、まさにそこにある。
「中国DRAMが安く出回る」は短絡である
ここで注意したいのは、SINKERのDDR5が日本の店頭にすぐ並んで、価格が下がるという話ではない、という点だ。
第一に、SINKERのグローバル向け製品は 産業用 と位置づけられている。サーバー・データセンター・組み込み機器が主戦場で、コンシューマーPCの自作勢が秋葉原で買える棚に並ぶものではない。
第二に、今回の発表は「DRAMチップを調達してモジュールに組む」工程の話で、DRAMチップ自体の供給ボトルネックを直接解消するわけではない。チップがCXMT製なのか、海外大手の流通在庫なのか、製品ページには明示されていない。
第三に、中国DRAMの存在は、グローバルな価格動向に対しては「直接的な値下げ要因」というより「価格上昇への歯止め」として効く可能性が高い。秋葉原の店頭では2026年2月以降、DDR5の値下がり傾向が見え始めたが、これはHBM需要の一時的な調整やパニック買いの収束による側面が大きく、中国DRAMの寄与は限定的だ。
業界の見立てでは、サムスン・SKハイニックスは2026年第2四半期の契約価格を20〜40%引き上げ済みで、6月以降に卸価格へ反映される。夏にかけて再上昇するというのが大方の見方だ。
つまり、SINKERの64GB DDR5はDRAM不足という風景の 一部 であって、その風景そのものを終わらせるピースではない。だが、サムスン・SKハイニックス・マイクロンの3社寡占に風穴が空きはじめた、その兆しのひとつとして見るには十分な動きだ。
Jiahe Jinweiが立つ位置
Jiahe Jinweiは2012年創業の若い企業だが、過去5年で急速に存在感を増してきた。2023年12月にはシリーズCで 2億元(約42億円)を調達し、DDR5本格量産に向けた設備投資を進めている。2024年には龍蜥(OpenAnolis)コミュニティに加入し、中国国産OSとの最適化も進めた。SINKERブランドはまさに、その「中国の中で完結する」エコシステムの中核に据えられている。
その彼らが、DDR5 RDIMM 64GBという サーバー向けの本気の数字 を量産・出荷段階に持ち込んだ。
中国国内のデータセンター需要は、サムスンやSKハイニックスからの輸入だけでは満たせない局面に来ている。米国の輸出規制で、中国はAIアクセラレーターのみならず、それを動かすためのメモリも自前で調達しなければならない構造に追い込まれた。SINKERの製品ラインは、その要請に正面から応える内容になっている。
DRAM産業の地殻変動は、AIブームのもうひとつの顔だ。HBMに資源を集中させる大手3社、自前で穴を埋めにきた中国勢、その間で価格と供給に振り回される買い手たち。配役は固定されているように見えて、5年単位で書き換わってきた。今回の量産達成は、その書き換えの小さな1行にすぎない。だが、書き換えは確かに続いている。
参照元
他参照
- Tom's Hardware - Samsung and SK hynix warn AI-driven memory shortages
- Caixin Global - China's CXMT Takes Aim at Global Leaders With High-End DDR5