紅の砂漠が西側を制した。Pearl Abyss決算

紅の砂漠が西側を制した。Pearl Abyss決算
Pearl Abyss

韓国産AAAが北米・欧州で売上の80%を取った。Pearl Abyssの四半期売上は前年比+420%、営業利益は+2,585%。アジア発のシングルプレイヤー大作が「アジアでしか売れない」という前提を覆している。


アジア発タイトルが西側80%という異常値

Pearl Abyssが5月12日に発表した2026年第1四半期決算は、韓国のゲーム業界で見たことのない数字を並べている。連結売上は3,285億ウォン(約2億2,000万ドル、約345億円)で前年同期比+419.8%。営業利益は2,121億ウォン(約1億4,200万ドル、約223億円)で前年同期比+2,584.8%。純利益は1,700億ウォンに達した。

押し上げたのは2026年3月20日に発売されたオープンワールド・アクションアドベンチャー「紅の砂漠」(Crimson Desert)だ。発売からわずか12日で四半期を締め、それでもPearl AbyssのQ1売上の81.2%を単独で稼いだ。

数字を分解するともっと興味深い事実が出てくる。「紅の砂漠」の地域別売上構成は、北米・欧州が81%、アジアが13%、韓国国内が6%。プラットフォーム別ではPCが59%、コンソールが38%、モバイルが3%という内訳になっている。韓国のスタジオが作ったシングルプレイヤー大作で、西側比率が8割を超えるケースは過去に例がない。

販売推移も急峻だった。発売日に200万本、4日で300万本、12日で400万本、26日で500万本という階段を駆け上がった。

26日で500万本という速度は、新規IPとして異例の数字だ。既存ファンベースを持たないオリジナルタイトルが、発売直後にSteamのトップセラーチャートを席巻したことの意味は重い。
「紅の砂漠」販売累計の立ち上がり(2026年3月)
※ Pearl Abyss 2026年Q1決算開示。発売日2026年3月19日からの累計販売本数。

PCとコンソールの売上比は約50:50に近い。前作にあたる「黒い砂漠」(Black Desert)が長らくPC中心だったことを思うと、これも転換点の一つだ。Pearl Abyssは伝統的にPC MMOで知られたスタジオで、コンソールは後追いだった。シングルプレイ前提の新規IPで、最初からPlayStation 5・Xbox Series X|S・PCを並列に取りに行き、結果としてコンソール比率を一気に押し上げた。


「西側で売れない」前提が崩れている

韓国・日本・中国のゲーム会社にとって、北米と欧州は長らく「届かない市場」だった。MMOやモバイルゲームでは局所的に成功しても、コンソール中心のシングルプレイヤー大作で西側AAAタイトルと正面から並ぶケースは少ない。

「紅の砂漠」のメタスコアは78点で、批評家から手放しの絶賛を受けたわけではない。それでも発売初日にSteamのトップセラーチャートを席巻し、26日で500万本を売り切った。批評より発見性が勝った例として、今後しばらく研究対象になりそうだ。

Pearl Abyssの戦略は明快だった。The Game Awardsでの度重なる露出、PlayStationのショーケースへの登場、長期にわたる体験版・先行プレイの仕込み。発売前から「次のウィッチャー4」と並べて語られる状況を作り出し、新規IPながら認知の壁を初日から越えた。

「紅の砂漠」Q1売上の地域別構成
合計 2,665億ウォン
北米・欧州 81%
アジア 13%
韓国国内 6%
※ Pearl Abyss 2026年Q1決算開示。「紅の砂漠」の地域別売上構成。合計2,665億ウォン(約1億7,890万ドル)。
「紅の砂漠」単独の四半期売上は2,665億ウォン(約1億7,890万ドル、約281億円)。これは発売後12日間の数字に過ぎない。

日本での実売価格を見ておくと、PS5通常版が価格.com最安値で8,220円、デラックスエディションが14,080円。日本でもPLAIONが流通を担当し、CERO「Z」指定で発売されている。日本のSteamレビューは賛否両論(66%)と、世界的なヒット作にしてはやや厳しい評価が並んでいるのが面白いところだ。


2026年通期見込みと「ハーフビリオン」の射程

Pearl Abyssは2026年通期見通しも公表した。連結売上は8,790億〜9,754億ウォン(約5億9,000万〜6億5,400万ドル、約927億〜1,027億円)のレンジ。営業利益は4,876億〜5,726億ウォンを想定し、前年比+1,414%〜+1,678%の増益見込みとなる。

このうち「紅の砂漠」単独で6,441億〜7,348億ウォン(約4億3,200万〜4億9,200万ドル、約678億〜773億円)の貢献を見込む。上振れすれば、新規IP単独で年間5億ドル に迫る水準だ。ウィッチャー3が累計5,000万本超のレジェンドである点を考えれば、まだ初年度の比較ではないが、立ち上がりの速度としては破格と言っていい。

ただし、Pearl Abyss自身がQ2以降の売上減速を予告している。パッケージゲームの売上は発売直後に集中する性質があり、Q1がピークになるのは自然な動き。同社は「継続的なパッチとアップデートで安定したパフォーマンスを維持する」と説明している。実際、ほぼ週次でゲーム性に踏み込むアップデートを投入する運用を続けており、Ver.1.06ではクマやトラといった野生動物まで騎乗対象に加えるなど、ユーザー要望への反応速度は速い。

DLCについては「検討中」とのみ表明し、具体的な計画は示していない。前作「黒い砂漠」が拡張型のサービス運営で長期収益を作ってきたモデルとは、明確に距離を置く構えだ。


DokeV最優先、Plan 8は7年目のコンセプト段階

決算と同時に、Pearl Abyssは今後のリリース戦略も更新した。新作タイトルは2〜3年に1本のペース。韓国スタジオがハイペース開発を標榜することで、フランチャイズの寿命より新規IPの投入速度を優先する姿勢が見える。次に動くのはDokeVで、すでにプリプロダクション段階へ移行し、社内最優先プロジェクトに位置づけられた。

DokeVは2019年のG-STARで「紅の砂漠」と同時発表された、生き物を集めるアクションゲーム。発表から7年が経ち、ようやく本格的な開発フェーズに入ったことになる。

同じ2019年に発表されたPlan 8は、7年経ってもなおコンセプト開発段階に留まっている。

一方、エクソスーツMMOシューターとして2019年に発表されたPlan 8は、いまだ「コンセプト開発段階」と説明された。DokeVを優先するため、当面は本格的なリソース投入を見送る方針だ。発表から7年目のコンセプト段階にとどまっている現状は、AAA開発の長期化を象徴している。

また、傘下のCCP Games(EVE Online開発元)を5月6日に売却したことも改めて確認された。CCP Gamesは独立後にFenris Creationsへ改名し、Pearl Abyssの連結対象から外れた。アイスランド発のMMOスタジオとの10年近い関係に区切りがついた形だ。


アジア発AAAの座標が動いた日

「紅の砂漠」の数字が突きつけているのは、地理ではなくゲーム性で勝負する時代に入ったという事実だ。韓国のスタジオが作ったシングルプレイヤー大作が、北米と欧州で売上の8割を持っていく。批評で頭一つ抜けたわけではない作品が、500万本を26日で売り切る。

中国のmiHoYo、日本のフロム・ソフトウェアやカプコン、韓国のPearl AbyssやKRAFTON。アジア発のスタジオが西側AAAと同じ土俵で戦う状況は、もう例外ではなくなりつつある。プレイヤーは出身国を見ていない。見ているのは、自分の時間を投じる価値があるかどうかだけだ。

次の問いは、Pearl Abyssがこの勢いを維持できるかどうかになる。DokeVがいつ姿を見せるか。「紅の砂漠」のアップデートが失速しないか。そして、アジア発でも世界で売れるという前提が業界全体で当たり前になったとき、競争はもう一段厳しくなる。


参照元

関連記事

この記事を共有する