韓国の「AI配当」発言でKOSPI急落

韓国の大統領政策室長が、サムスン電子とSKハイニックスのAI半導体ブームから生じる超過税収を国民に「配当」として配るべきだと発信した。韓国総合株価指数は一時5.1%下落し、サムスンの労使交渉決裂と重なって市場を揺らしている。

韓国の「AI配当」発言でKOSPI急落

韓国の大統領政策室長が、サムスン電子とSKハイニックスのAI半導体ブームから生じる超過税収を国民に「配当」として配るべきだと発信した。韓国総合株価指数は一時5.1%下落し、サムスンの労使交渉決裂と重なって市場を揺らしている。


政策トップのSNS投稿でKOSPIが一時5%安

韓国の金容範(キム・ヨンボム)大統領政策室長は、5月11日夜に自身のフェイスブックに長文を投稿した。AIインフラ時代の超過利潤に着目し、その税収を国民に「国民配当」として配るべきだという内容だった。

翌12日朝、韓国総合株価指数(KOSPI)は寄り付き直後に節目の8000ポイント手前まで進んだが、その後急落して安値7421.71まで下げた。下げ幅は一時5.1%に達した。終値は前日比2.3%安となり、半日で投資家心理が反転した形となる。

主因は時価総額の重さだ。サムスン電子は2.28%安、SKハイニックスは一時3.62%安まで売られた。両社でKOSPI時価総額のおよそ半分を占めるため、両者の下落が指数全体を引きずった。

金氏はその後、新たな超過利潤税を企業に課すのではなく「超過税収を活用する案」だと釈明した。市場はこれを受けて下げ幅を縮小したが、「超過税収」の定義そのものが不透明なため、半導体株への警戒は完全には解けていない。

「国民配当」とは何を意味するのか

金氏が投稿で示した認識は、従来の韓国経済像を覆すものだった。韓国はもはや循環的な輸出経済としては動かず、構造的な希少性と持続的な超過利潤を伴う「技術独占型経済」に移行しつつある、というのが彼の見立てだ。

その上で金氏は、AI時代の果実は特定企業だけが生んだものではなく、半世紀かけて全国民が築いた産業基盤の上に成り立っていると書いた。だから果実の一部は制度として全国民に戻すべきだ、と続く。彼自身はこれを「国民配当」と仮称した。

具体的な使い道として挙がったのは、青年の起業資金、農漁村への基本所得、芸術家支援、高齢者年金の強化、AI時代の移行教育費といった項目だった。ノルウェーの石油由来のソブリンウェルスファンドにも言及している。半導体版の主権ファンドを構想している、と読める内容だ。

ここまでなら一つの政策論として穏当に映る。ただし投稿の翌朝、市場は別の読み方をした。


数字の背景 ── 半導体2社の法人税が国家税収に匹敵

なぜここまで市場が動揺したのかは、金額の桁を見ればわかる。

KB証券のアナリスト試算では、サムスン電子は2026年に営業利益およそ330兆ウォンを計上する見込みだ。SKハイニックスは239兆ウォンと予想されている。両社合計で約500兆ウォン規模に達する。

仮にこの予想通りに着地した場合、両社の法人税負担額の合計だけで100兆ウォンを超える計算になる。韓国政府が2026年の国内法人税総収入として見込んでいる規模も、おおよそ100兆ウォン前後だ。つまり「サムスンとSKハイニックスの2社で、国全体の法人税収を実質的に賄う」段階が視野に入りつつある。

この構造を前にして、半導体企業の株を持つ投資家も、給与で働く労働者も、納税者も、これまで誰も経験したことのない地形に立たされている。金氏のSNS投稿は、その地形をどう制度として設計し直すかという問いを、当事者の合意なしに公の場へ放り込んだ。

金氏は投稿の中でノルウェーのソブリンウェルスファンドを引き合いに出した。石油収入を原資にした北欧の仕組みと、半導体・AI由来の超過利潤を扱う韓国型の仕組みは性格が違うが、「構造的な超過利潤を社会的にどう制度化するか」という問いは共通する、と書いている。

与野党とも温度差 ── 「個人的見解」と切り離す大統領府

KOSPIが下げを拡大した直後、大統領府は火消しに動いた。金氏の投稿は「個人的見解」であり、大統領府内で公式に議論された案ではないと記者団に説明した。

野党「国民の力」のパク・スヨン議員はフェイスブックで反論した。「配当が欲しい人は株主になればいい」「誰でもAIや半導体の恩恵を受ける企業の株を買って、業績に応じたリターンを受け取れる」と書き、政府の役割は税収の管理であって企業利益の再分配ではないと指摘した。

与党「共に民主党」のチョン・チョンレ党代表も慎重な姿勢だった。同氏は記者会見で、金氏の提案は「時期尚早」だとし、政策化の前に学術的な検討と国民的議論が必要だと述べた。金氏は党側にも事前相談していなかったと明かしている。

翌13日、李在明(イ・ジェミョン)大統領自らがX(旧Twitter)に投稿した。金氏の発言を「企業の超過利益を国民に配当する案」と歪めて報じた一部メディアに対し、「フェイクニュース」だと反論する内容だった。大統領は「金氏が言ったのは、企業の超過利益から発生した超過税収を国民配当として国民に分配する案だ」と明確化した。

サムスン労使交渉と重なった発信タイミング

問題は内容そのものよりも、発信のタイミングだったとも見える。

サムスン電子では現在、政府主導の労使調停が大詰めを迎えている。5月11日に世宗市の中央労働委員会で11時間に及ぶ交渉が行われたが合意に至らず、翌12日も継続された。そして金氏の投稿の波紋が広がるなか、5月13日にはついに交渉が決裂した。労組は予定通り21日からの全面ストライキ突入を表明している。

労組が要求しているのは、営業利益の15%を成果給として配分することと、既存の上限撤廃、そして基本給の7%引き上げだ。ライバルのSKハイニックスは昨年、営業利益の10%を成果給に充てる仕組みを労使で合意済みで、サムスン労組はそれを上回る制度の恒常化を求めている。

経営側は営業利益の10%配分を提示し、特別報奨パッケージも併せて示した。しかし「比率を団体協約に固定する」ことは半導体事業の高い業績変動を理由に拒否した。労組側はこの恒常化の拒否こそ問題だとし、両者の隔たりは埋まらないままに終わった。

ストの試算インパクトも小さくない。4月の1日ストライキでは、ファウンドリ夜勤シフトの生産量が58%減まで落ち込んだ。今回のストには労組約3万6000人が参加する見通しで、JPモルガンは年間営業利益を40兆ウォン超押し下げる可能性があると試算した。

労組がAIブームの利益分配を求めて闘っている最中に、政府側の人物が「果実は全国民のものだ」と発信した。労使だけでなく株主や外資にも、解釈の混乱を呼ぶには十分な状況だった。


残された問い ── 超過税収はどこで定義されるのか

最も曖昧なのは「超過税収」の輪郭だ。金氏が想定する財源は、新たな税率を上乗せして得る増収分ではなく、現行制度のもとで「予想を超えて入ってきた分」を指すと説明された。

しかし税収の予測値そのものは、その年の予算編成で政府が決める。基準を低く置けば、いつでも超過税収は生まれる。AI業界関係者は「超過税収という限定をつけても、税率を上げれば超過税収はいくらでも作れる」と疑念を語った。市場の警戒が完全に消えない理由はそこにある。

それでも、論点そのものは韓国だけの話ではない。AI半導体の利益が一握りの企業に集中する構造は、米国でもエヌビディアを中心に同じ形で進行している。日本でも生成AI関連の上場企業が時価総額を急膨張させ始めた。利益の集中を社会全体にどう還元するかという問いは、いずれどの国でも避けて通れない。

韓国の場合、その問いがSNS投稿一本で国家規模の市場を動かす段階まで来ている。半導体2社の納税額が国家予算と肩を並べてしまった以上、再分配の議論を経済政策の周縁に置き続けるのはもう難しい。金氏の言葉が個人的見解にとどまるのか政策の前触れになるのかは、近い将来に判明する。


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