韓国ダヌリ、Falcon 9月面衝突の前後を撮影。史上初の即時記録
月にクレーターを刻んだロケットの残骸を、そのロケットで打ち上げられた探査機が撮っていた。
月にクレーターを刻んだロケットの残骸を、そのロケットで打ち上げられた探査機が撮っていた。
「予定外の月面着陸」
SpaceXのFalcon 9上段が現地時間8月5日午前2時35分(米国東部時間)、月の裏側にあるアインシュタインクレーター付近に衝突した。時速約8,700km。月には大気がない。約4,900kgの金属の筒が減速なしで地表に叩きつけられた。
このFalcon 9上段は2025年1月15日に打ち上げられた。Firefly AerospaceのBlue Ghost Mission 1とアイスペースのRESILIENCEという2機の月着陸船を月へ送るためのロケットだった。
通常、Falcon 9の上段は地球の大気圏で燃え尽きる。だが月遷移軌道へのミッションでは、ペイロードを月へ送るために推進剤のほぼすべてを使い切る。制御された廃棄に回す燃料が残らない。
太陽活動と月・地球の重力が18か月かけてこの残骸の軌道を変え、月面への衝突コースに載せた。天文学者のビル・グレイ(Bill Gray)氏がProject Plutoのソフトウェアで最初にこの衝突を予測し、NASAのジェット推進研究所も衝突確率100%と確認していた。
衝突を撮った探査機
衝突から2日後の現地時間8月7日、韓国航空宇宙庁(KASA)が画像を公開した。
2022년 8월 5일 달로 향했던 대한민국 달 궤도선 다누리,
— 우주항공청 KASA (@with_KASA) August 6, 2026
2026년 8월 5일 스페이스X 팰컨9 발사체 상단부의 달 표면 충돌 전·후 포착!
※ 현재 온라인에서 확산 중인 충돌 영상은 다누리가 촬영한 영상이 아니며, 다누리는 충돌 전·후 관측 이미지를 확보했습니다.#우주항공청 #KASA #다누리 pic.twitter.com/iZZ0OTn3yl
月周回衛星ダヌリが、衝突地点の前後を撮影していた。
ダヌリは衝突の約30分前から観測を開始し、衝突後も含めて計8回の撮影を行った。高解像度カメラLUTI(Lunar Terrain Imager)で撮った画像には、衝突前には存在しなかった暗い痕跡が鮮明に写っている。中央には明るい点があり、新しいクレーターの形成を示唆している。
広角偏光カメラPolCamも同じ地域の反射率と偏光の変化を捉え、噴出物の分布や粒子の密度を分析するデータを提供した。
撮影時、ダヌリは衝突地点の上空約340〜350kmを秒速1.5kmで通過していた。KASAはこの撮影の難度を「ソウルの上空150kmを移動しながら、釜山での衝突を撮影するようなもの」とたとえている。
人工物が月面に衝突する瞬間の前後を、軌道上の探査機が即時に記録したのは史上初だ。2022年3月に中国の長征3Cロケットの残骸が月面に衝突した際は、NASAの月周回偵察衛星LRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)が数週間後にクレーターを発見した。今回は数時間以内に前後の比較画像が得られている。
2025年1月 Falcon 9打ち上げ Blue Ghost 1とRESILIENCEを月へ送る。上段は軌道に残留 18か月間 太陽活動と重力で軌道変動 制御不能のまま月面への衝突コースへ 2026年8月5日 月面に衝突 アインシュタインクレーター付近、時速約8700km 同日 VLTがプルームを分光観測 ナトリウムとリチウムのスペクトル線を検出 2026年8月7日 KASAが画像を公開 ダヌリが衝突の前後を計8回撮影。史上初の即時記録 2026年8月11日 LROが上空を通過予定 ダヌリのデータと合わせた共同分析へ 2028年3月 ダヌリ自身が月面に衝突予定 |
地上からも成果
衝突の瞬間を地上から捉えるのは困難だった。月の昼間の領域で起きたため、閃光は望遠鏡では確認できなかった。だが、チリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTが、衝突プルームの分光観測に成功した。
VLTは衝突で巻き上げられた塵の中から、ナトリウムとリチウムのスペクトル線(元素固有の光の波長パターン)を検出した。プルームは5〜10分間にわたって観測可能で、数十kmの規模に広がった。観測を率いたボストン大学のカール・シュミット(Carl Schmidt)氏によると、ナトリウムは月の土壌由来、リチウムはロケット上段の機体由来とみられるという。
NASAが予測したクレーターの規模は、幅約18m(60フィート)、深さ約3.6m(12フィート)。LROが8月11日前後に衝突地点の上空を通過する予定で、ダヌリのデータと合わせた共同分析が計画されている。
反応と弁明
SpaceXは衝突当日に声明を出した。
On January 15, 2025, Falcon 9 successfully deployed Firefly Aerospace’s Blue Ghost Mission 1 and ispace’s RESILIENCE lunar landers on a trajectory to the Moon from pad 39A in Florida.
— SpaceX (@SpaceX) August 5, 2026
For most of our missions, we plan a controlled deorbit of the Falcon second stage so it safely… pic.twitter.com/SVkYSnEsi7
月遷移軌道のような高エネルギーミッションでは、推進剤の大半をペイロード投入に費やす。上段の制御廃棄が常に可能とは限らないと説明し、NASAと最適な廃棄方法について連携したと述べている。
NASAのジャレッド・アイザックマン(Jared Isaacman)長官も同日にコメントし、NASAがアポロ時代に地震研究目的で使用済みロケット段を意図的に月面に衝突させてきた歴史に触れた。
For those interested in a spent booster impacting the lunar surface, this rare occurrence has decades of history, going back to the Apollo era, when NASA intentionally crashed spent stages into the Moon for science and seismic research. The reality is that meteoroids strike the…
— NASA Administrator Jared Isaacman (@NASAAdmin) August 5, 2026
同等のエネルギーを持つ隕石が約6日ごとに月面に衝突しているという数字も示している。
ただ、隕石は避けようがないが、ロケットの残骸は設計時に対処できる。2025年11月のEscaPADEミッションでは、SpaceXがFalcon 9上段を太陽周回軌道に投入する廃棄方法を採用した。設計段階で廃棄用の推進剤を確保すれば、月面衝突は回避できる。ただし、それはペイロードの輸送能力を削ることを意味する。
2回目の「前例」
意図しないロケット残骸の月面衝突は、これが2例目だ。2022年3月、中国の長征3Cロケット(2014年の嫦娥5号T1ミッションで使用)の残骸が月の裏側に衝突し、約29mの二重クレーターを形成した。中国は残骸の大気圏再突入を主張したが、米宇宙軍はそれを否定し、研究者が長征3Cと特定した。二重クレーターの原因は未公表の追加ペイロードだったとみられている。
月面に蓄積された人工物の総質量は209トンを超える。アポロ計画の着陸船下段、各国の探査機、意図的に衝突させたロケット段、そして今回のような制御不能の残骸。NASAがアルテミス計画で月面基地を計画し、中国も2030年までに有人月面着陸を目指す中、月周辺の交通量は増える一方だ。
ダヌリ自身にも終わりの日が来る。KASAの計画では、2028年3月にダヌリを月面に意図的に衝突させることになっている。そのとき月面に刻まれるクレーターの前後を、誰かが撮っているだろうか。