NVIDIA Vera CPU、初出荷 4社に副社長が手渡し

NVIDIAが自社設計の初カスタムCPU「Vera」の量産出荷を開始した。最初の納入先はAnthropic、OpenAI、SpaceXAI、Oracle。副社長が1台ずつ手渡しで届けた先に見えるのは、エージェントAI時代のCPU勢力図の書き換えだ。

NVIDIA Vera CPU、初出荷 4社に副社長が手渡し
NVIDIA

NVIDIAが自社設計の初カスタムCPU「Vera」の量産出荷を開始した。最初の納入先はAnthropic、OpenAI、SpaceXAI、Oracle。副社長が1台ずつ手渡しで届けた先に見えるのは、エージェントAI時代のCPU勢力図の書き換えだ。


Veraが研究所に届いた日

NVIDIAのカスタムCPU Veraが、量産品として初めて顧客の手に渡った。

2026年5月16日金曜日、NVIDIAでハイパースケール・HPC部門の副社長を務めるイアン・バック(Ian Buck)が、サンフランシスコのAnthropicオフィス、ミッションベイのOpenAI本社、パロアルトのSpaceXAIオフィスの3拠点にVera CPUサーバーを直接届けた。週明け月曜日にはサンタクララのOracle AI Customer Excellence Centerにも納入している。

副社長が自ら配送するという演出は、単なるパフォーマンスではない。「発表から量産へ」の節目を、NVIDIAが全社を挙げて示した。

CEOのジェンスン・フアン(Jensen Huang)が2026年3月のGTC San Joseで「次の数十億ドル規模のビジネス」として紹介したVera CPU。発表からわずか2か月で実機が動き始めた計算になる。

GPUだけでは足りない──Veraが生まれた理由

AIエージェントが実際に仕事をするとき、負荷の大部分はGPUではなくCPUにかかる。

ツール呼び出し、サンドボックスの管理、オーケストレーション、長いコンテキストの検索──これらはすべてCPU側の仕事だ。従来のサーバーCPUはコア数を積み上げる設計で、こうした並列かつ低遅延が求められるエージェント処理に最適化されていなかった。

イアン・バックはこう説明している。

AIモデルが質問を受けたとき、答えはあらかじめ用意されているわけではない。正しい答えにたどり着くために、モデルは実際にPythonコードを生成しなければならない。だからCPU需要が急増している。

Veraはこの現実に向き合うために設計された。NVIDIA独自のArm系アーキテクチャ Olympus を88コア搭載し、メモリ帯域幅は 1.2TB/s。フルロード時のコアあたり性能は従来比 50%向上、エネルギー効率は 2倍 を実現する。

要するに、Veraは「たくさんのコアを詰め込む」ではなく「1つ1つのコアを速くして、エージェントの応答を待たせない」設計思想で作られている。

4社の反応──それぞれの狙い

Anthropic:エージェントワークロードの加速

Anthropicでコンピュート責任者を務めるジェームズ・ブラッドベリー(James Bradbury)は、バックからサーバーを受け取った。

ブラッドベリーは「コンピュートの拡大はモデル成長の重要な加速要因だ。エージェントワークロードの解決にVeraがエコシステムの有望な一部として登場したことに期待している」と述べた。

OpenAI:コンピュート基盤の増強

OpenAI本社のバルコニーで行われた引き渡しでは、コンピュート基盤責任者のサチン・カッティ(Sachin Katti)がサーバーを受領。バックはドライバーを取り出し、その場でサーバーの蓋を開けて内部構造を見せる場面もあった。

SpaceXAI:強化学習とシミュレーション

パロアルトのSpaceXAIでは、イーロン・マスク(Elon Musk)自身がシステムの説明を受けた。マスクはコア構成、メモリレイアウト、冷却について質問を重ねたという。SpaceXAIは強化学習ワークロードとエージェントベースのシミュレーションパイプラインでVeraの評価を進める。

Oracle:数十万台規模の導入を計画

Oracle AI Customer Excellence Centerでは、OCI製品管理のカラン・バッタ(Karan Batta)がVera CPUシステムを確認した。

バッタは「OCIは2026年から 数十万台 のNVIDIA Vera CPUを導入する計画だ。エージェントAIは大規模な持続的パフォーマンスを要求するため、Veraのアーキテクチャがその要件に合致する」と語った。OCIはVeraをハイパースケールで展開する最初のクラウドプロバイダーとなる。


Vera Rubinプラットフォームとの関係

Veraは単独のCPUサーバーとしても動作するが、NVIDIAが3月に発表したVera Rubinプラットフォームの中核でもある。

NVL72ラックでは72基のRubin GPUと36基のVera CPUがNVLink-C2Cで接続され、1.8TB/sのコヒーレント帯域幅を実現する。これはPCIe Gen 6の7倍にあたる数値だ。GPU側の演算能力をフルに引き出すために、CPU側のデータ移動とオーケストレーションを高速化する──Veraの役割はそこにある。

また、256基のVera CPUを液冷で集積したCPU専用ラックも発表済みで、1ラックで 2万2500以上 の同時CPU環境を維持できる。エージェントのサンドボックスや強化学習環境を大量に並列実行する用途を狙ったものだ。

NVIDIA CPU世代比較:Grace → Vera
Grace
(2023)
Vera
(2026)
CPUコア 72
Arm Neoverse V2
88
NVIDIA Olympus
メモリ帯域幅 500GB/s 1.2TB/s
NVLink-C2C 900GB/s 1.8TB/s
コアあたり
性能
+50%
(Grace比)
電力効率 2倍
(Grace比)
設計思想 HPC・クラウド
汎用
エージェントAI
特化
※ メモリは両世代ともLPDDR5X。Grace単体チップ(72コア)とVera単体チップ(88コア)の比較。NVIDIA公式発表値

IntelとAMDの牙城に、NVIDIAが踏み込んだ

データセンターのCPU市場は長らくIntelのXeonとAMDのEPYCが支配してきた。NVIDIAは2023年にGrace CPUでArm系サーバーCPUに参入したが、市場での存在感は限定的だった。

Veraで状況が変わる可能性がある。IntelとAMDが最適化してこなかった「エージェントAI」という新しいワークロードに特化し、しかも最初の顧客がAnthropic、OpenAI、SpaceXAI、Oracleという布陣だ。

エージェントAIのワークロードは、SQLクエリ、コード生成、ツール呼び出しなど、GPUではなくCPUが処理する作業で構成される。この領域でVeraが実績を積めば、従来のサーバーCPU市場そのものを侵食する可能性がある。

ただし、まだベンチマークは公開されていない。NVIDIAの主張する性能が実環境でどこまで裏付けられるかは、今後の検証次第だ。AMDのInstinct MI300Aのように、CPUとGPUを1パッケージに統合するアプローチも競合として存在する。


「発表から量産」の速度が意味するもの

GTC 2026での発表から約2か月でVera CPUが顧客の手元に届いた。パートナー経由の一般提供は2026年後半を予定しており、すでに80社以上のエコシステムパートナーが製造に携わっている。

NVIDIAがGPUで築いた支配的地位を、CPU市場でも再現できるか。その答えはまだ出ていない。ただ、副社長が自ら1台ずつ届けて回ったという事実は、NVIDIAがこの製品にどれだけの賭けを置いているかを物語っている。

エージェントAIの時代に、CPUが担う仕事は増え続ける。その最前線に、Veraは確かに到着した。


参照元

関連記事

この記事を共有する