サムスン半導体ボーナス、株主が「違法」と提訴予告

サムスン電子の半導体部門で1人平均6360万円のボーナス支給が決まった。AI特需が生んだ巨額利益の分配を巡り、株主は「商法違反だ」として法廷闘争を予告している。

サムスン半導体ボーナス、株主が「違法」と提訴予告

サムスン電子の半導体部門で1人平均6360万円のボーナス支給が決まった。AI特需が生んだ巨額利益の分配を巡り、株主は「商法違反だ」として法廷闘争を予告している。


株主団体が「違法」と断じた労使合意

サムスン電子と労働組合が5月20日夜、暫定的な賃金合意に達した。AIブームに沸く半導体事業の利益を従業員にどう還元するかを巡って半年以上もつれてきた交渉が、ストライキ予定日の前夜にようやくまとまった形だ。

ところが翌21日、株主団体「韓国株主運動本部」が首都ソウルの中心部、サムスン電子会長イ・ジェヨン(李在鎔)氏の自宅前で集会を開き、合意の内容を「違法」と断じた。彼らはこの合意を取締役会で承認することがあれば、無効確認訴訟と差止仮処分を申し立てる構えだ。

「税引前営業利益の12%を積み立てて分配する合意は違法だ。株主総会の決議手続きを経ない限り、法的に無効である」(韓国株主運動本部の声明)

株主運動本部代表のミン・キョングォン(Min Kyung-kwon)氏は、合意が韓国の商法に違反する可能性があると主張している。税引前の営業利益から先にボーナスを取り分けることは、本来なら税金・投資配分・株主への分配可能利益を計算した後でしか動かせない資金に手を付ける行為だという論理である。

1人平均6360万円という規模

合意の中身を見ると、株主の反発も理解できなくはない。

サムスン電子は半導体(DS)部門の従業員約7万8000人に対し、今年だけで 約40兆ウォン (約4兆2400億円)のボーナス原資を確保する。連合ニュースの試算では1人当たり平均5億1300万ウォン(約6360万円)、別の韓国メディアの試算では6億ウォン(約7440万円)に達する。

参考までに、サムスン電子の従業員の2025年平均報酬は1億5800万ウォン(約1670万円)だった。今年のボーナスだけで、平均給与の 4倍近い金額 が振り込まれる計算になる。

合意の核心は2階建ての構造だ。既存の業績連動ボーナス(OPI)から営業利益の1.5%、加えて新設された「特別経営成果ボーナス」から10.5%。合わせて営業利益の12%が原資となる。上限なし、つまりキャップなし。会社の利益が膨らめば膨らむほど、従業員の取り分も上振れていく。

半導体部門の特別ボーナスは10年間継続される。ただし無条件ではない。2026〜2028年は半導体部門が年間200兆ウォン、2029〜2035年は年間100兆ウォンの営業利益という高水準の業績目標を達成することが支給の条件となる。(韓国メディアによる合意内容の整理)

株主が突きつける商法上の疑問

韓国株主運動本部の主張は、突き詰めれば1つの問いに行き着く。誰の金か、ということだ。

会社が稼いだ営業利益は、税金を払い、再投資に回し、残りを株主への配当や内部留保に振り分けるのが商法の建前だ。その前段階で「営業利益の12%」を従業員ボーナスとして自動的に切り分けてしまえば、株主が本来受け取るはずだった分配可能利益が目減りする。株主運動本部はそう読んでいる。

利益を分配する権利は会社の株主にある。こうした決定は株主総会を経て行われるべきだ(韓国株主運動本部)

団体はさらに、取締役会がこの合意を承認・実行すれば、取締役が忠実義務・善管注意義務に違反したとして責任を追及される可能性があると警告している。組合員投票で合意が否決され組合がストライキに踏み切った場合は、組合幹部や参加者に対して損害賠償請求も辞さない構えだ。

社内では他部門の従業員が不満

株主だけが反発しているわけではない。サムスン電子の社内でも、半導体部門以外の従業員から不満が漏れている。

サムスン電子はざっくり言えば、半導体を扱うDS部門と、スマートフォン・家電・テレビを扱うDX部門の2本柱で動いている。DX部門の今年の営業利益は約4兆ウォン(約4240億円)と見込まれており、決して悪い数字ではない。だがDS部門の300兆ウォン規模に比べれば1.3%程度に過ぎない。

同じ会社で働き、同じ社員バッジを首から下げているのに、ボーナスの桁が2つ違う。今回の合意でDX部門には600万ウォン(約64万円)相当の自己株式が「協力の証」として支給されることになったが、半導体部門の人間が6000万円を超える金額を持ち帰る隣で、 64万円 を渡されて納得できる人間がどれだけいるか。

合意発表前から、組合内部ではDX部門の組合員5万人が脱退すれば、組合員数は7万8000人のDS部門の半分以下になるという観測が流れていた。

下請けと農家まで波及

問題はサムスン電子の社内にとどまらない。

韓国メディアの報道によると、サムスンと取引する下請け企業や農家からも、自分たちにも「分け前」を寄越せという声が上がり始めている。半導体製造装置を納める部品メーカー、ウエハーの原材料を供給する化学メーカー、果ては社員食堂に食材を卸す生産者まで、サムスンが生み出す利益のエコシステムに連なる事業者は数知れない。

サムスン電子の今年の営業利益見通しは約300兆ウォン(約31兆8000億円)。これはAI向け高帯域メモリ(HBM)の爆発的な需要が生んだ、半導体産業始まって以来の数字だ。AIインフラへの投資が世界中で加速する中、メモリ価格は今年第1四半期だけで前期比約90〜95%上昇した。サムスンと SKハイニックス の合計営業利益は今年、約500兆ウォンに達すると見込まれている。

これだけの利益が1社の従業員と株主の間だけで分配されることに、韓国社会全体が違和感を募らせている。今回のボーナス合意は、その違和感に火を付けた格好だ。

韓国の半導体産業の成功は誰のものか。会社か、従業員か、株主か、それとも社会全体か。韓国の食卓で最近交わされている最大の議論は、戦争でも住宅価格でもなく、半導体ボーナスの分配となっている。(Bloombergによる韓国国内の論争の総括)

組合員投票で覆る可能性

暫定合意は最終確定ではない。組合員による批准投票が5月23日から28日まで実施される。投票で否決されれば、合意は白紙に戻り、ストライキ再開の可能性が浮上する。

実は組合の当初要求は 営業利益の15% 。今回の合意は12%で着地しており、組合内部の強硬派から見れば「妥協が過ぎる」と映る可能性は十分にある。一方で、株主団体は「投票で否決された場合にストライキに突入するなら、それは違法ストライキにあたる」とも牽制している。

サムスン電子の株価は合意発表を受けて21日、前営業日比8.51%急騰し、終値で過去最高値を更新した。市場は当面のリスクが消えたことを歓迎している。

ただ、この急騰は労使の不安定な合意の上に立っている。組合員投票、株主の訴訟、社内他部門の不満、下請けや農家の取り分要求。AIブームが生んだ前例のない利益は、それを誰がどう分けるかという、誰も解いたことのない問題を、サムスン電子の経営陣に突きつけている。

韓国の半導体産業が稼ぎ出した記録的な果実を、誰がどこまで持ち帰るのか。法廷と投票所の両方で、その答えが出ようとしている。


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