RTX 4090偽造、ついに分解しても見抜けない段階へ

修理に持ち込まれたASUS ROG Strix RTX 4090が、コアもメモリも完全偽装の精巧なニセモノだった。表面を物理的に削り、レーザーで本物のマーキングを再刻印する手口は、訓練された修理技術者の目すら欺くレベルに達している。

RTX 4090偽造、ついに分解しても見抜けない段階へ
Northwest Repair

修理に持ち込まれたASUS ROG Strix RTX 4090が、コアもメモリも完全偽装の精巧なニセモノだった。表面を物理的に削り、レーザーで本物のマーキングを再刻印する手口は、訓練された修理技術者の目すら欺くレベルに達している。


「これまで見た中で最高の詐欺だ」

中古市場のRTX 4090がもはや本物と区別できない領域に入った。米国の修理ショップNorthwest RepairがYouTubeで公開した今回のケースは、技術者本人が「これまで見た中で最高の詐欺」と評するほど精巧な偽造品だった。

問題のカードは中古ASUS ROG Strix RTX 4090として流通していたもので、出品者はAmazonのパレット販売(返品商品の一括卸売)から仕入れたと説明していた。修理依頼を受けたNorthwest Repairが基板を開封したところ、表面には焼け跡もフラックスの残留もなく、コアの周囲を封止する充填剤も完備されていた。一見すると工場出荷時のまま、改造の痕跡が見当たらない。

Amazonの返品商品が一括卸売業者を経由して中古市場に流れる「Amazon return pallet」は、買い取った業者が中身を検品せずに転売するケースが多く、近年は偽造GPUの流通経路として悪用される事例が増えている。

ところが顕微鏡で観察すると、はんだパッドの一箇所がウィッキング(吸い取り)で削られていた。基板全体には超音波洗浄でついたとみられる微細な筋もあった。決定打はメモリチップだった。表面が物理的に研磨され、その上から レーザーで偽のGDDR6X刻印 が打ち直されていたのだ。

工場レベルの偽装作業

コアの刻印は本物のRTX 4090と同じ「AD102-300-A1」となっていたが、実物はまったく動作しなかった。Northwest Repairによれば、コアもメモリと同じ手順で表面を研磨され、レーザー刻印で偽装されている。中身が何のチップなのか、外観からは特定できない。

AD102はRTX 4090に搭載されるNVIDIAのAda Lovelace世代の最上位GPUダイ。GA102は前世代Ampereの最上位ダイで、RTX 3090 Ti/3080 Ti/3080に搭載される。両者はダイサイズがほぼ同じ(AD102が608mm²、GA102が628mm²)で、ピン配置も互換性を持つ。

このピン互換性を悪用してGA102をAD102に偽装する詐欺は、2024年から複数のリペアショップで報告されている。過去のケースは多くの場合、QRコードの位置ズレや基板の色味の違い、表面研磨の粗さといった痕跡を残していた。今回はその痕跡がほぼ消えている点が新しい。

Northwest Repairは動画の固定コメントで「個人や一般的な修理工場でこの精度の偽装は不可能だ。工場規模の作業だ」と指摘している。GPUを取り出してAI用基板に移植する中国の闇工場が、廃棄された筐体と基板を流用して偽装品を製造しているとの見方を示した。

レーザー刻印自体は古い手口だが、品質がここまで高いケースは珍しい。Tom's Hardwareは、こうした手法は返品検査をすり抜けるために設計されており、最終ユーザーは動かないことですぐ気づくため、本当の標的は店舗側の検品だと分析している。

なぜ今、偽装が加速しているのか

背景にあるのはAIブームによるメモリ需給逼迫だ。米中半導体規制で中国はNVIDIAの最新GPUを正規ルートで入手できず、消費者向けGPUからAD102とGDDR6Xを剥ぎ取ってAI用基板に載せ替える業者が急増している。GPUを抜き取られてLEDだけ光る空の基板は中国の中古市場に大量に出回り、日本のハードオフなどリユース店に動作未確認品として持ち込まれる事例も2024年11月から国内で報告されている。

DRAM市場全体も極端な供給不足に陥っている。OpenAIStargateプロジェクトが世界のDRAM生産能力の約4割を確保する契約を結び、SamsungSK HynixMicronの3社がHBMサーバー向けDDR5の生産を優先した結果、消費者向けメモリの価格は1年で2〜3倍に高騰した。AI用途で評価されているRTX 4090は、生産終了後も需要が衰えず、中古の平均落札価格は2025年末から2026年初頭にかけて37〜40万円まで跳ね上がっている。24GBのVRAMを搭載するこのカードは、新品時の価格を超える水準で取引され続けている。

需要過多と高単価という条件が揃ったことで、偽造のコストパフォーマンスが破格に高まった。

個人取引の構造的リスク

Northwest Repairは動画後半で、街中での個人取引について強い警告を発している。RTX 4090やRTX 5090「対面取引で買うな」というのが結論だ。動画では、対面で動作確認をした直後、買い手が代金を取り出す数秒の間に売り手がすり替えた事例が紹介されていた。家に帰ると中身は空っぽの基板だったという。

こうした被害が泣き寝入りで終わるケースは多い。Tom's Hardwareの読者コメント欄でも、当局は大企業の損失でない限り動かず、消費者は99%の場合泣き寝入りだ、との諦観が複数寄せられている。Northwest Repairはそれでも警察への被害届提出を強く勧めている。報告が一定数集まれば捜査が始まる可能性があるからだ。

日本の中古市場でもリスクは無視できない。メルカリやヤフオクで37〜40万円のRTX 4090を購入する場合、出品者の身元は確認できず、開封・通電後の返品も受けられないことが多い。買い手が損失を一方的に被る構造は変わらない。香港の事例では、地元の警察に相談しても「個人間の中古取引は追跡が困難」として捜査を断られている。

どう自衛するか

完全な対策は難しいが、リスクを下げる手段はいくつかある。

ひとつは新品保証つきの正規ルートを選ぶこと。価格は中古より高くなるが、メーカー保証と販売店の検品が入るため、偽装品をつかむ確率は大幅に下がる。中古でしか入手できないなら、検品体制のある専門業者(ソフマップ、リコレ等)を経由する選択肢がある。今回のような工場レベルの偽装は専門業者の検品もすり抜ける可能性があり、絶対の保険にはならない。

個人取引でどうしても買う場合は、対面で動作確認をしたその場で受け渡しを完結させ、目を離さない。取引の様子を録画しておく、ナンバープレートが見える公共駐車場を指定するといった保険もNorthwest Repairは推奨している。

今回のケースは動作確認の段階で電源すら入らなかった。一方、「動かないAI用ジャンク」を「動作未確認の中古」として流す手口は確立されており、知識のないリユース店ほど騙されやすい。買い手にできる最大の防衛は、AIメモリ争奪戦が落ち着くまで中古ハイエンドGPU市場全体に距離を置くことかもしれない。

詐欺の精度はもう、知識量で防げる段階を超えつつある。


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