Appleが中国CXMTからのメモリ調達を政府に直訴。値上げの翌日に

Appleが中国CXMTからのメモリ調達を政府に直訴。値上げの翌日に

Mac・iPadの大幅値上げから一夜明けた6月26日、Appleがトランプ政権に対し、中国DRAMメーカーCXMT(長鑫存儲)からのメモリチップ購入許可を求めてロビー活動を展開していることが明らかになった。2月に浮上した中国メモリ調達の構想は、いまや米政府への正式な働きかけに変わっている。


値上げとロビー活動の時系列

Appleの動きには明確な段階がある。

6月17日、ティム・クック(Tim Cook)CEOがウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、メモリ価格の高騰を受けた値上げは不可避だと認めた。安全保障上の規制で米企業が中国メモリメーカーと取引しにくい現状を問われると、「あらゆる供給先を検討すべきだ」と踏み込んでいる。

6月25日、Appleは実際にMac・iPad・Apple Vision Proなどの価格を一斉に引き上げた。日本国内ではMacBook Air(M5、13インチ)が18万4800円から22万4800円へ4万円増、MacBook Pro 14インチは24万8800円から33万9800円へ9万1000円増と、値上げ幅が最も大きい構成では10万円近い上乗せとなった製品もある。iPhoneは今回の対象外だが、9月発売予定のiPhone 18シリーズでは大容量モデルを中心に価格上昇が見込まれている。

2026年6月25日 Apple製品値上げ額(最小構成)
※最小構成(Apple公式ストア)ベース。iPhoneは今回の対象外

そして6月26日、フィナンシャル・タイムズが報じた。Appleは約1か月前に商務省に接触し、その後ホワイトハウスへのロビー活動を拡大。事情に詳しい6人の関係者の話として、CXMTからのメモリチップ購入に対する許可を求めているという。

消費者に値上げを負担させた翌日に、その原因を取り除く手段を政府に求める。この順序そのものが、Appleが受けている圧力の大きさを伝えている。

「買えるが買えない」という構造

法的に見れば、AppleがCXMTやYMTC(長江存儲)からメモリを購入すること自体は禁止されていない。CXMTは商務省のエンティティリストには載っていない(エンティティリストに載っているのはYMTC)。

だがCXMTもYMTCも、国防総省が管理する「中国軍事企業リスト」(Section 1260H)に掲載されている。2月に国防総省がこのリストの更新版を公開した際、CXMTとYMTCの除外が記載されていたが、公開からわずか1時間で文書が撤回された経緯は以前報じた通りだ。

その後、6月8日に再公開された正式版では、CXMTとYMTCはリストに残された。2月の撤回版との最大の相違点がまさにこの2社の扱いだった。新たに65社が追加され、アリババ、バイドゥ、BYD、NIOなども含む計188社に拡大している。

1260Hリスト自体は制裁ではなく、民間取引を直接禁止するものではない。だが6月30日から国防総省との直接契約が禁止され、2027年6月からは間接調達も制限される。掲載された企業は取引先からの信用を失う。リスト入りそのものが、将来のより厳しい規制の前触れと見なされるからだ。Appleが「許可」を求めているのは、法的義務というより政治的な安全を確保するためだろう。

Micronは逆方向にロビー活動している

Appleが中国メモリの調達に道を開こうとする一方で、米国唯一の大手DRAMメーカーであるMicron(マイクロン)は真逆の方向に動いている。

Micronは米議会に対し、中国メモリメーカーへの半導体製造装置の輸出をさらに制限するMATCH法案を推進してきた。4月に下院外交委員会で採決に進んだこの法案は、CXMTやYMTCの工場で使われる装置の輸出規制を強化し、ASMLなど海外メーカーにも米国と同等の規制を求める内容だ。Micronのサンジェイ・メロートラ(Sanjay Mehrotra)CEOは議員らと非公開の会合を重ね、中国が太陽光パネル産業で起きたのと同じ形でメモリ市場を支配することへの警鐘を鳴らしている。

つまり、いまワシントンでは2つのロビー活動が衝突している。Appleは「中国から買わせろ」、Micronは「中国に作らせるな」。同じメモリ不足という現実に対して、買い手と作り手が正反対の解を求めている。

米政府は板挟みだ。規制を緩めればMicronの市場シェアと米国の技術優位が脅かされる。締め上げれば消費者製品の価格が上がり続け、有権者の不満がトランプ政権に向かう。6月17日にロイターが報じたところでは、商務省はCXMTやDeepSeekを含む100社以上のエンティティリスト追加を保留しており、2025年10月以降、新規の追加は一切行われていない。外交的配慮と産業的圧力のはざまで、規制は動けなくなっている。

CXMTには余力があるのか

仮にAppleが購入許可を得たとして、CXMTにAppleの需要を満たす生産余力があるかは別の問題だ。

CXMTは2026年第1四半期に売上高508億元(約75億ドル)を計上し、前年同期比で700%超の増収を記録した。上海証券取引所の科創板へのIPOを申請中で、295億元(約40億ドル)の資金調達を目指している。上場すれば時価総額は2950億元(約1000億ドル規模)に達するとの観測もある。

だがCXMTの売上の97%は中国・香港市場からのものだ。AI需要によるメモリ価格高騰は中国国内でも同様に起きており、国内顧客への供給で手一杯という見方もある。また、技術面ではサムスン、SKハイニックス、Micronの3社との格差が残っている。CXMT自身もIPO申請書類の中で、製品が業界大手3社にはまだ及ばないと認めている。

消費者が支払っている代償

この一連の動きを、消費者から見直す。

メモリ価格が高騰した原因は、AIデータセンターの爆発的な需要拡大だ。サムスン、SKハイニックス、Micronの大手3社は利益率の高いHBM(AIサーバー向け高帯域メモリ)に生産能力を集中させ、PCやスマートフォン向けの汎用メモリの供給が圧迫された。Appleは「これほど急激かつ大幅な部品価格の上昇はかつてなかった」と説明している。

結果として、MacBook Airを買おうとしていた人は数日前より4万円多く払うことになった。Mac Studioの大容量メモリ構成は販売自体が打ち切られている。Appleの行動が「ブラフ」から「本気」に変わったのだとすれば、消費者と同じようにApple自身も価格に追い詰められているからだ。

2月の時点で、Appleの中国メモリ調達は「検討」の段階にあった。4か月後、それは商務省とホワイトハウスへのロビー活動になっている。メモリ不足が解消に向かう見通しは2027年以降まで立っておらず、Appleの次の一手がどこに向かうのか、iPhone 18の価格設定とともに注目される。

参照元

Financial Times - Apple lobbies Trump administration to buy memory chips from blacklisted Chinese company

他参照

Reuters - Apple seeks approval to buy chips from blacklisted Chinese company(Yahoo Finance)

9to5Mac - Apple asks Trump admin to approve Chinese RAM after product price increases

CNBC - Memory crisis hits such extremes that 'even Apple can't be safe'

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