TSMCの値上げ、7nm含む全先端ノードに拡大
3nm限定と見られていた値上げ交渉が、7nmまで含む全先端ノードに広がった。5〜10%の引き上げはTSMCのウェハー売上の74%に及ぶ。AI需要の逼迫と過去最高の粗利益率66.2%を背景に、NVIDIA・AMD・Apple・Qualcommなど主要顧客の製造コストが上昇する。メモリ高騰と重なり、GPU・CPU・スマートフォンの価格に反映される。
3nm限定ではなかった
TSMCが先端プロセスの値上げを進めている。年初に3〜10%の引き上げ、5月下旬には3nmで最大15%の追加値上げ。ここまでは台湾メディアが伝えてきた通りで、対象は3nmが中心だった。
6月23日の独立メディア報道で、景色が変わった。TSMCが顧客に伝えたのは、「すべての先端ノード」で値上げに備えよというものだった。7nmまで含む。幅は5〜10%。一部ではすでに適用が始まっており、まだ適用されていない顧客にも高いコスト構造を購買計画に織り込むよう指示が出ている。
範囲の広がりが重い。2026年第1四半期の決算では、3nmがウェハー売上の25%、5nmが36%、7nmが13%。TSMCが「先端技術」と定義する7nm以下の合計はウェハー売上の74%だ。値上げの対象は、同社の受託製造収入のほぼ4分の3に及ぶ。
| プロセス | 売上構成比 |
|---|---|
| 5nm | 36% |
| 3nm | 25% |
| 7nm | 13% |
| 7nm超 | 26% |
3nmだけなら、影響は最新のハイエンド製品に限られた。7nmまで広がれば射程が変わる。7nmはもはや最先端ではないが、量産ノードとしては現役だ。プロセッサ、GPU、ネットワーク向け半導体、FPGAまで幅広い製品が今も7nmで製造されている。歩留まりが安定し設計も成熟しているため、あえて新しいノードに移行しない顧客は多い。だからこそ裾野が広い。
「戦略的であり、日和見ではない」
TSMCは「価格についてはコメントしない。当社の価格戦略は戦略的であり、日和見的ではない」と声明を出した。顧客と緊密に連携し、価値を提供し続けるとしている。
否定しなかった。
6月4日の株主総会で、シーシー・ウェイ(C.C. Wei)会長兼CEOはすでに布石を打っている。新竹で開かれた総会でウェイ氏は「顧客の需要に応えられるようになるまで、まだ長い時間がかかる」と述べ、メモリ業界のような急激な値上げは避けると明言した。「彼らの80%の粗利益率はうらやましいが、絶対にそうはしない」。翌週にはCFOもBBCのインタビューで値上げの可能性を否定せず、「4倍、5倍にはしない」としつつ「我々は自分たちの価値を反映する」と語った。
ウェイ氏が株主に伝えたかったのは、供給不足は構造的で短期では解消しないこと、そして値上げは行うが顧客を脅かすやり方はしないということだ。段階的に、予測可能な形で。
ただ「段階的」を積み上げた結果を見る必要がある。年初に3〜10%。下半期に3nmで最大15%。そして今度は7nmまで含む全先端ノードで5〜10%。1回ごとは穏当に見えても、年間の累積は軽くない。
66.2%の粗利益率が持つ意味
第1四半期の売上高は359億ドル。粗利益率66.2%、営業利益率58.1%。いずれもガイダンスの上限を超えた。前年同期比の売上成長率は40.6%で、通期では30%超の増収見通しを示している。設備投資は520〜560億ドルの上限付近になる見込みだ。
66.2%という粗利益率は、半導体製造業として異例の水準にある。CFOは決算説明会で、3nmの粗利益率が2026年後半には全社平均を上回ると述べた。値上げが本格的に反映されるのはまさにこの下半期以降で、アナリストの一部は通期後半に68〜70%へ届く可能性を指摘する。
メモリ業界との対比が、TSMCの値上げ幅を「穏当」に見せている面はある。Samsung、SK hynix、Micronの3社は第1四半期にDRAM契約価格を90%前後引き上げたとされ、粗利益率を大幅に押し上げた。TSMCの5〜10%はそれに比べれば小さい。だがTSMCはメモリのような乱高下を必要としない。先端ノードがウェハー売上の4分の3を占め、その全域に数%の値上げを乗せるだけで、年間数十億ドル規模の増収になる。
Appleのティム・クック(Tim Cook)CEOは6月中旬、「残念ながら値上げは避けられない」と述べた。TSMCのウェハー価格上昇はその一因だ。
あなたの財布に届くまで
ウェハー価格が5〜10%上がっても、それがそのままGPUやスマートフォンの店頭価格に5〜10%反映されるわけではない。最終製品のコスト構造は、パッケージング、メモリ、基板、流通など多くの要素で成り立っている。
ただし、すべてが同時に上がっている。メモリ価格はAI向けHBM需要に引きずられて急騰し、パッケージング容量は逼迫が続き、PCBやプラスチック部材のコスト上昇も報じられている。ウェハーの値上げは、これら複数の上昇圧力に重なる。
TSMCが値上げできるのは、代わりがいないからだ。先端ロジック半導体の製造でTSMCに匹敵するファウンドリは存在しない。NVIDIA、AMD、Apple、Qualcomm、Broadcom、MediaTek。世界の主要チップ設計企業のほぼすべてがTSMCに依存しており、Samsung Foundryは歩留まりの問題が続き、Intelのファウンドリ事業は立ち上げ途上にある。
顧客にできるのは、上昇分を自社で吸収するか、最終製品に転嫁するかだ。株主への説明責任を負う上場企業が、マージンを削って吸収し続ける期間には限りがある。次世代のGPU、CPU、スマートフォン、ノートPCの価格に、この値上げはじわりと効いてくる。「TSMCが値上げしたから高くなった」と説明されることはない。だが複合的なコスト上昇の一要素として、確実に消費者に届く。
参照元:TSMC Clients Handed Price Hikes Across All Advanced Nodes