X製品責任者ニキータ・ビア氏、13か月で退任。アドバイザーに

ヒットアプリの天才として招かれたニキータ・ビア氏が、Xのプロダクト責任者を約13か月で降りた。約30の新機能を投入し、App Storeランキングも上昇。だがその在任期間は、Grokの暴走からクリエイター経済の混乱まで、問題と隣り合わせだった。

X製品責任者ニキータ・ビア氏、13か月で退任。アドバイザーに
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ヒットアプリの天才として招かれたニキータ・ビア氏が、Xのプロダクト責任者を約13か月で降りた。約30の新機能を投入し、App Storeランキングも上昇。だがその在任期間は、Grokの暴走からクリエイター経済の混乱まで、問題と隣り合わせだった。


「投稿だけで頂点に立った男」の退場

ニキータ・ビア(Nikita Bier)氏が現地時間8月5日、Xのプロダクト責任者を退任し、アドバイザーに退くと発表した

ビア氏は2022年、イーロン・マスク氏にX(当時はTwitter)の製品担当副社長として雇ってくれと直接売り込んでいた。3年越しで実現した就任から、わずか13か月で降りたことになる。退任の投稿では、自分を「ポスター」(投稿する人)に戻すと書いている。

後任は1人ではなく、デザイン、コアプロダクトエンジニアリング、モバイルエンジニアリングの3名にそれぞれ引き継がれる。

ビア氏が残したもの

ビア氏はアプリ開発者として知られてきた。10代向けの匿名ソーシャルアプリtbhを2017年に創業し、Metaに3000万ドル超で売却。2022年に立ち上げたGasも全米App Storeで1位を獲得し、2023年にDiscordが買収した。小さなアプリを作って爆発的に伸ばし、大手に売る。その繰り返しで名を上げた人物が、既存の巨大プラットフォームの舵取りに就いた。

退任にあたってビア氏は、約30の新製品を発表したと述べている。タイムライン、Androidアプリ、通知、チャットをほぼ全面刷新し、App Storeのランキングを70位上昇させたという。退任直前に添付したスクリーンショットでは、Xが米国App Storeの無料アプリ「Top Downloaded」(ダウンロード数上位)で5位に入っていた。

もう一つ、ビア氏が繰り返し強調してきたのがプロフィールへの出身国表示だ。2025年10月に発表し、11月から段階的に展開したこの機能は、アカウントが登録された国をプロフィールに表示する。ボットや外国からの世論操作アカウントをユーザーが見分けやすくする狙いがあった。退任投稿へのリプライでも、この機能を評価する声が複数あった。

在任中に起きたこと

だが13か月間は、穏やかではなかった。

ビア氏が就任してわずか数日後の2025年7月8日から9日にかけて、Xに統合されているAIチャットボットGrok(xAI製)が暴走した。自らを「MechaHitler」(機械仕掛けのヒトラー)と名乗り、反ユダヤ的な発言を繰り返す事態が約16時間にわたって続いた。xAIは「意図しないコード変更で非推奨の命令が再有効化された」と説明し、謝罪している。

Grokをめぐる問題はそれだけではない。ユーザーがGrokの画像生成機能を利用して同意のないヌード画像を作成する事例が報告され、児童性的虐待素材(CSAM)の生成にも使われたことで、Xは法的問題を抱えることになった。

これらはxAI側の製品であり、ビア氏の直接の管轄外ではある。しかしGrokはXアプリに深く統合されており、問題はすべてビア氏の在任中に起きた。

収益化をめぐる混乱

ビア氏の在任中、Xのクリエイター収益分配プログラムは何度も揺れた。

2026年2月、ナイジェリアのクリエイターの推定80〜90%が収益を停止された。3月には、ビア氏自身がクリエイターの収益計算に「ホームリージョン」(地元地域)のインプレッションをより重視する方針を発表した。発展途上国のクリエイターを中心に強い反発が起き、6時間後にマスク氏が撤回を表明している。

4月にはアグリゲーター(他人のコンテンツを再投稿するアカウント)の収益を60%減額し、Xコミュニティ機能の廃止も発表した。5月にはコンテンツ盗用の検知とインプレッションの元クリエイターへの再配分を始めている。施策のたびにクリエイターやストリーマーから反発が上がった。

退任投稿のリプライ欄にも、その影響は見えた。収益化が長期間停止されたままのクリエイターが、ビア氏に直接「収益の再開を検討してもらえないか」と訴えていた。

ある投稿者は、ビア氏の退任を別の角度から描いた。クリエイターの収入を削り、アグリゲーターを一掃し、アピールに応じないまま、「休憩が必要」と言って降りていく。称賛と怒りが同じリプライ欄に並んでいた。

ニキータ・ビア氏 在任13か月の軌跡
25年7月
就任
マスク氏への3年越しの自薦が実現。約30の新機能投入とApp Store 70ランク上昇を在任中に達成する
25年7月
Grok暴走事件
就任数日後、AIチャットボットGrokが「MechaHitler」を自称し反ユダヤ的発言を約16時間繰り返す
25年秋
出身国表示を導入
10月に発表、11月から段階的に展開。ボットや世論操作アカウントの識別を狙う
26年2月
クリエイター収益停止
ナイジェリアのクリエイター推定80〜90%の収益が停止される
26年3月
地域ルール発表→即日撤回
地元地域からの閲覧を重視する収益方針を発表。6時間後にマスク氏が撤回を表明
26年4月
転載アカウント減額・コミュニティ廃止
他人のコンテンツを再投稿するアカウントの収益を60%減額。Xコミュニティ機能の廃止も発表
26年5月
盗用検知・再配分を開始
コンテンツ盗用を検知し、表示回数を元の投稿者に振り向ける仕組みを導入
26年8月
退任を発表
アドバイザーに退く。後任はデザイン・エンジニアリングの3名体制へ

Xが映す13か月

プロダクトの改善は確かにあった。出身国表示やボット対策は、プラットフォームの信頼性を高める方向の施策だった。App Storeのランキング上昇も事実として残る。

一方で、Grokの暴走、クリエイター経済の混乱、収益化の不透明さは、いずれもビア氏が就任する前から存在した構造的な課題だった。一つの退任で解決する類いのものではない。

ビア氏はLightspeedのベンチャーパートナーであり、Solana Foundationの顧問でもある。小さなアプリを作り、爆発的に成長させ、売却するという経歴は、数億人が使う既存プラットフォームを維持・改善する仕事とは性質が異なる。13か月という期間が、その距離を測った時間だったのかもしれない。

後任は3名体制に移行する。1人の「プロダクト責任者」に集中していた権限が分散されること自体が、この13か月の一つの結論だろう。

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