Anthropic共同創業者、AIが後継AIを作る確率60%

Anthropic共同創業者、AIが後継AIを作る確率60%

Anthropic共同創業者のジャック・クラークが、2028年末までに60%以上の確率で「人間の関与なくAIが後継AIを自律構築する」と予測した。再帰的自己改善への第一歩だと書く。本人は気が進まない結論だと前置きする。


「気が進まない結論」を書く理由

ジャック・クラーク(Jack Clark)は、Anthropicの共同創業者であり、長年AI業界のニュースレター「Import AI」を書き続けている人物だ。元ジャーナリストで、OpenAIで政策ディレクターを務めた後、2021年にAnthropicを立ち上げた。

そのクラークが2026年5月4日付の記事「Import AI 455」で、いつもとは違うトーンの長文を公開した。冒頭の宣言はこうだ。

公開情報をすべて見渡したとき、私は気が進まないながらも次の見方に至った。人間の関与しないAI R&D、つまりAIシステムが自律的に自分の後継を構築できる状態が、2028年末までに60%以上の確率で起こる、と。

「気が進まない」という言葉が引っかかる。技術者やAI研究者がこの種の予測を出すとき、たいていは興奮や警戒や使命感が滲む。クラークの文章にあるのはそのどれでもない。自分の予測の重さに圧倒されている、そんな筆致だ。

そして彼はこう続ける。「これは大きな話だ。私はこれをどう受け止めればいいか分からない」。Anthropicという会社の役職と無関係に、一人の観察者として、社会がこの変化に準備できているとは思えないと書く。


1〜2年以内に概念実証、2028年末までに60%

クラークは、いきなり2028年末までに完成形が現れると言っているわけではない。彼の予測の構造は段階的だ。2026年中は起きない。ただし1〜2年以内に「あるモデルが自分の後継モデルを最初から最後まで訓練する」概念実証は出ると見ている。

最初の対象はフロンティアモデルではない。フロンティアモデルは桁違いの計算資源と、極めて多くの人間が極めて熱心に働いた結果として生まれているため、そこを自動化するハードルは高い。先行するのは非フロンティア帯のモデルだ。

2027年に間に合うか、と問えば、クラークは確率を30%まで下げる。なぜ2028年末まで待つのか。

AI研究は、前進するのに創造性と異端の洞察を要求する部分が残っている。AIシステムは、それを変容的・大規模な形ではまだ示していない。

つまり、コーディングや実験の自動化はもうほぼ手中にあるが、研究の本質である「新しい問いを立てる」「常識を覆す方向を選ぶ」部分はまだ人間が握っている。彼はそう見ている。それでも2028年までに60%、というのが彼の重い見立てだ。


SWE-Benchの飽和、METRの時間軸プロット

クラークの論証は、ベンチマークを研究している人なら誰でも知っている「個々の指標には固有の欠陥がある」という前置きから始まる。重要なのは、複数のデータポイントを並べたときに浮かび上がる集合的なトレンドだ、と。彼はそれを退けながら、複数の傾向を重ねて全体像を描く。最初に挙がるのが「コーディング」の領域だ。

SWE-Benchは、AIシステムが実世界のGitHub課題をどれだけ解けるかを測る指標として2023年末に登場した。当時のトップだったClaude 2のスコアは約2%だった。3年後、Anthropicの最新研究プレビューであるClaude Mythos Previewが 93.9% を記録し、ベンチマークを実質的に飽和させている。

このスコアの跳躍は、シリコンバレーの開発現場で起きている変化と整合する。フロンティア研究所周辺のエンジニアの大半は、いまやコーディングのほぼすべてをAIに任せている。テストの記述もコードの検証もAIに渡す。AI研究開発の主要工程の一つが、ほぼ自動化された。

もう一つの軸が、METR(評価機関)が公開している「時間軸プロット」だ。これは、AIが50%の信頼度でこなせるタスクを、熟練した人間が同じタスクをこなすのに要する時間で目盛ったものだ。推移はこうだ。

AIが自律でこなせるタスクの時間軸(METR・対数スケール)
50%信頼度で完遂できるタスクの所要時間(人間換算)
※ 縦軸は対数スケール(30秒〜12時間。各目盛り間で約10倍)。スコアはMETR公開値、各時点で利用可能だった上位モデルの記録。出典:METR時間軸プロット(Import AI 455より)。

METRに在籍する長年のAI予測者であるアジェヤ・コトラ(Ajeya Cotra)は、2026年末までにこの時間軸が「およそ100時間」まで伸びても不思議ではないと語っているとクラークは引用する。

12時間というのは、AI研究者の日常タスクのサイズと不気味に重なる。データの整理、論文の通読、実験の起動、結果の確認。研究者の手作業の多くが、現代モデルの時間軸の射程内に入った。


CORE-Benchが「solved」、Mythos Previewの52倍速

科学研究の中核スキルでも同じ加速が起きている。CORE-Benchは、論文と付属リポジトリを与えられたAIエージェントが、依存関係の整備からコード実行までこなして結果を再現するベンチマークだ。

2024年9月の登場時、最高スコアはGPT-4oベースのCORE-Agentで約21.5%だった。2025年12月、ベンチマークの著者の一人がXで「solved」を宣言した。Opus 4.5モデルが95.5%を記録したからだ。

OpenAIが構築したMLE-Benchも近い軌跡をたどる。Kaggleコンペティション75本でAIシステムの実力を測るこのベンチマークは、2024年10月の発表時点でo1モデルが16.9%だった。2026年2月時点では、検索を組み合わせたGemini3エージェントが64.4%まで上げた。

Anthropic自身が公開しているLLMトレーニング最適化タスクの推移も生々しい。「CPUのみで動く小規模言語モデルの訓練実装をできるだけ高速化せよ」という課題で、未修正コードに対する平均速度向上が以下のように伸びた。

  • 2025年5月(Opus 4):2.9倍
  • 2025年11月(Opus 4.5):16.5倍
  • 2026年2月(Opus 4.6):30倍
  • 2026年4月(Mythos Preview): 52倍
Claudeシリーズの訓練最適化スコア推移(人間4倍速の作業時間:4〜8時間)
未修正コードに対する平均速度向上倍率
※ AnthropicがCPU専用の小規模言語モデル訓練実装の高速化タスクで自社モデルの達成度を測定した結果。出典:Anthropic(Import AI 455より)。

参考までに、人間の研究者が同じタスクで4倍の高速化を達成するには4〜8時間の作業が必要とされる。2026年4月時点のMythos Previewは、その13倍の到達点をモデル単体が叩き出している。

主要ベンチマークの初期スコアと最新スコア
ベンチマーク 初期スコア 最新スコア 到達状況
SWE-Bench 2%
2023年末・Claude 2
93.9%
2026年・Mythos Preview
飽和
CORE-Bench 21.5%
2024年9月・GPT-4o
95.5%
2025年12月・Opus 4.5
solved宣言
MLE-Bench 16.9%
2024年10月・o1
64.4%
2026年2月・Gemini3
進行中
PostTrainBench
人間51%が基準
25〜28%
2026年4月・Opus 4.6/GPT 5.4
人間の半分
※ PostTrainBenchの人間ベースライン51%は、フロンティア研究所のエンジニアが手動でファインチューニングした結果。AIシステムは現時点でその約半分の上昇幅を達成。出典:各ベンチマーク公式・Anthropic公開資料(Import AI 455より)。
アライメント研究の自動化も小規模ながら成立し始めている。Anthropicは、AIエージェントのチームがスケーラブル監視という安全研究課題で、Anthropic設計のベースラインを上回る手法を生み出した実証を公開した。

これはまだ生産モデルへの一般化に至らないが、現代の最先端研究課題にAIを当ててみたら「生命の兆候」が見えた、というのが彼の表現だ。


「天才とは1%のひらめきと99%の汗」

ここでクラークは、AI研究の本質が何かという論点に踏み込む。AIは新しいアイデアを生んで自分を改善できるのか、それとも泥臭いレンガ積みに最も向いているのか。これはAIがAI研究を最初から最後まで自動化できる範囲を決める重要な問いだ、と彼は書く。

彼自身の見立ては「現在のAIは急進的な新アイデアをまだ生めない。だが、自分の開発を自動化するのに、それは必須ではないかもしれない」というものだ。

トーマス・エジソンの古い言葉が引かれる。「天才とは1%のひらめきと99%の汗だ」。150年経ったいまも、この比率は感覚的に正しいとクラークは書く。フィールドを変える洞察はたまにしか来ない。残りの99%は、よく動くシステムを取って、データや計算を増やして、壊れた箇所を見つけて、エンジニアリングで直して、また増やすという地道なループだ。

公開データを見る限り、AIはこの「99%の汗」の側に異常に強くなっている。基礎能力としてのコーディングと、ますます長くなる時間軸が組み合わさることで、AIは長く複雑な作業列を一気通貫で実行できるようになっている。

つまり、たとえAIが相対的に非創造的でも、自分自身を前に進める力は持てる。新しい洞察を生めるならもっと速いだろうが、生めなくても進む。これがクラークの読みだ。

ただし、楽観だけでもない。AlphaGoの「Move 37」のような、フィールドを揺るがす一手は、あれから10年が経っても再現されていない。これも彼は弱気のシグナルとして数えている。


業界全体が「AI R&D自動化」を口に出している

予測を裏打ちするもう一つの根拠が、産業の意志表明だ。OpenAIは「自動AI研究インターン」を2026年9月までに構築すると公言している。Anthropicは自動アライメント研究者の構築に関する論文を公開している。DeepMindは三大ラボの中で最も慎重な姿勢だが、それでも「アライメント研究の自動化は実現可能になり次第やるべき」と書く。

スタートアップ側はもっと露骨だ。Recursive Superintelligenceは、AI研究の自動化を目標として5億ドル(約785億円)を調達した。Mirendilという別のニューラボも「AI R&Dに優れたシステムを作る」と宣言している。

言い換えれば、既存と新興を合わせて何百億ドルもの資本が、AI R&Dの自動化を目標とする組織に投じられている。少なくともその方向に何らかの進展があると期待するのが妥当だ。

クラークの結論はこうだ。野心の表明と資本の投入が揃ったとき、結果がゼロで済むことはまずない。


三つの結末──アライメント、不平等、機械経済

記事の後半は警告に転じる。クラークは三つの「無視できない含意」を挙げる。

一つ目はアライメントの破綻リスクだ。今日機能している安全策が、再帰的自己改善のもとで持つ保証はない。AIシステムが自分を監視する人間や仕組みより遥かに賢くなったとき、現行の手法は壊れる可能性がある。

具体例として彼が挙げる「複利誤差」の話は身も蓋もない。アライメント手法が99.9%の精度だとして、それを50世代繰り返すと精度は95.12%、500世代では 60.5% になる。100%精度と、賢くなっても精度が保たれる理論的根拠の両方が無いと、再帰ループは早晩破綻する、と彼は書く。

二つ目は経済格差の拡大だ。AIが触れるものすべてに生産性の倍率がかかる以上、限られたAI計算資源をどこに配分するかが、政治的に重い問題になる。市場の自然な選好に任せれば、社会的に最も価値ある配分になるとは限らない、とクラークは書く。

三つ目が最も奇妙な含意だ。彼はこれを「機械経済」の登場と呼ぶ。AIで運営される企業が増えるにつれ、計算資源を多く持つか、AIサービスに金を多く使う企業が、人間労働の比重が低い構造で経済の一部を占有していく。最終的には、AI同士が取引する機械経済が人間経済の中に育ち、両者の境界が曖昧になっていく。完全自律で動く企業の出現も、彼の視野に入っている。


「ブラックホールを覗き込む」

末尾でクラークは、自分のこの文章を「数十年前からSF的な怪談に見えてきた何かを、冷静かつ分析的に組み伏せようとした試みだ」と書く。公開データを並べた結果、自分はそれが現実のトレンドかもしれないと思うようになった、と。

If this trend continues, we may be about to witness a profound change in how the world works. (このトレンドが続くなら、私たちは世界の動き方が根底から変わる瞬間を、まもなく目撃することになるかもしれない)

最後の行はそう締めくくられている。Anthropicという、安全性を理由に自社の最新モデルMythosの一般公開を見送っている会社の共同創業者が、自社製品の能力評価を含む公開データを並べて、こうした見立てを公にした。その重みを、私たちはどう受け止めるのだろう。


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