フォード、ベテラン技術者350人を再雇用。AI品質管理の失敗を認める

フォード、ベテラン技術者350人を再雇用。AI品質管理の失敗を認める
フォード

自動車の品質を守ってきたのは、設計要件書でもアルゴリズムでもなかった。何十年もラインに立ち、不具合の予兆を体で覚えた技術者だった。フォードがその事実を認めるまでに、リコールの山と数十億ドルの損失が必要だった。


AIだけで品質は作れなかった

フォードのチャールズ・プーン(Charles Poon)車両ハードウェアエンジニアリング担当副社長は現地時間6月25日、報道関係者へのブリーフィングでこう述べた。「AIを導入して設計要件を取り込めば、それだけで高品質な製品が生まれると考えていた。それは間違いだった」。

過去3年間で、フォードはベテラン技術者350人を採用し直した。元社員の復帰、サプライヤーからの引き抜き、社内の昇格を合わせた数字だ。クマール・ガルホトラ(Kumar Galhotra)最高執行責任者(COO)は、彼らが「品質改善の中核にいる」と説明した。この350人は、部品が工場のラインに届く前に故障の原因を潰す作業を主導し、若手の指導とAIツールの再訓練を担っている。

問題の本質は、AIそのものの欠陥ではない。フォードが自動化を進める過程で、経験豊富な技術者が退職したことにある。数十年にわたる開発サイクルを経験し、「この設計はこういう条件で壊れる」という判断を体に染み込ませた技術者が、その知識をAIに移す前にいなくなった。結果、AIは不完全な訓練データをもとに動き続け、設計上の欠陥を検出するどころか、弱い入力をそのまま増幅した。

「AIがホワイトカラーの半分を置き換える」と言った本人の会社で

この話にはもうひとつの層がある。フォードのジム・ファーリー(Jim Farley)CEOは2025年夏のアスペン・アイデアズ・フェスティバルで、「AIはアメリカのホワイトカラーの文字通り半分を置き換える」と発言した。そのフォード自身が品質危機を公に認めたのは、発言から1年後のことだ。

フォードは2020年のピーク時から、事務系・技術系の職員を大幅に削減してきた。2019年には全世界で7000人のホワイトカラーを整理し、2020年にはさらに1400人の早期退職を募り、2022年以降も複数回のレイオフを実施した。その過程で、何十年分もの暗黙知が社外へ流出した。

プーン氏は「何度もの製品サイクルをくぐり抜けてきたベテラン技術者の知見に、十分な注意を払っていなかった」と認めた。「AIは素晴らしいツールだが、訓練に使う情報の質を超えることはない」。

数字が語る改善と、残る矛盾

再雇用の成果は、6月25日に発表されたJ.D.パワー2026年米国初期品質調査(IQS)に表れた。フォードは量販ブランドで首位となり、100台あたりの不具合指摘件数は152。2023年の15位から3年で頂点に立った。前年比で41ポイントの改善は、量販ブランドで最大の伸び幅だ。F-150、マスタング、スーパーデューティは2年連続でセグメント最優秀を獲得し、テスト対象10モデル中7モデルがセグメント上位3位に入った。

ただし、初期品質調査は納車から90日以内の不具合を測るものだ。長期的な信頼性を示すものではない。

リコールの数字は、この成功談とまったく別の現実を映す。フォードは2025年に153件のリコールを実施し、米国自動車メーカーの年間最多記録を更新した。2026年もすでに51件、対象は1100万台を超え、2位のクライスラー(19件)を大きく引き離している。2025年のリコール対象車両の90%は、ファーリー氏がCEOに就任する2020年以前に設計されたモデルだという。新しい車両に改善が反映されるまでには、さらに時間がかかる。

フォードはこの状況に対し、40人の専任ソフトウェア品質保証チームを新設し、10万件を超えるAI自動テストを追加した。エッジケースの発見とソフトウェアのストレステストを自動化することで、開発終盤のソフトウェア変更にも即座に全検証を再実行できる体制を整えている。つまり、AIを捨てたのではない。AIを正しく使うために、人を戻したのだ。

「経験」はデータ化できるか

フォードの失敗が示しているのは、AIの限界ではなく、組織の判断の限界だ。

自動化で人を減らす決定は、多くの場合、コスト削減の数字が先に来る。減らされる側が持っている知識の価値を、誰も数字にしない。フォードの場合、その「数字にならなかった知識」が品質そのものを支えていた。

ガルホトラCOOは、過去数年間で産業システム部門の上級リーダーの約3分の2を入れ替えたことも明らかにしている。エンジニアリング、サプライチェーン、製造の各部門を横断した大規模な人材刷新だ。AIの失敗だけでなく、組織の構造そのものを作り直している。

AIの出力は訓練データの質を超えない。訓練データの質は、それを作った人の経験で決まる。この連鎖を軽視した企業が、1年間で153件のリコールという形で代償を払った。そしてその代償を払った後、ベテランを呼び戻し、AIを再訓練し、J.D.パワーの首位を取った。

品質の改善とリコールの山が同時に存在する。この矛盾は、フォードが今まさに「古い設計の負債」と「新しい品質基準」の境目にいることを示す。ベテラン技術者を呼び戻したことで品質の底は上がった。その底上げが外から見えるようになるのは、過去の負債がラインから完全に消えた後だ。

参照元

Ford Named Top Mainstream Brand in 2026 JD Power Initial Quality Study

他参照

Ford rehired 350 engineers to fix what its AI systems got wrong

2026 U.S. Initial Quality Study (IQS)

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