GoProが防衛分野へ、行き着いた先は身売り

GoProが防衛分野へ、行き着いた先は身売り

アクションカメラの代名詞だったGoProが、防衛・航空宇宙への進出を打ち出した。だが株価の急騰は数日で消え、今月、投資銀行を雇って会社の売却を含む選択肢の検討を始めている。


「防衛にピボット」が合言葉になった

いま市場で資金を呼び込んでいる動きには、いくつかの決まった型がある。データセンターを建てる。そのデータセンターを動かす電池を作る。そして、防衛分野へピボットする。

フォードの蓄電池事業はテスラに比べればまだ小さく、稼働も来年だが、それでも株価を久々の急騰へ押し上げた。電池リサイクルのRedwood Materialsは、データセンター向け蓄電へ事業を寄せてGoogleやNVIDIAから4億2500万ドル(約673億円)を調達した。AI半導体のCerebrasは2026年屈指のIPOを成功させた。防衛新興企業への投資も止まらず、Andurilは今週さらに50億ドル(約7900億円)を調達している。

政府との契約に少しでも望みがある企業は、こぞってその方向へ舵を切っている。「防衛」が万能の物語になりつつある、と言い換えてもいい。

そして、その流れにGoProの名前が並んだ。これは少し意味が違う。フォードもCerebrasも、いまの財務に大きな問題を抱えてはいない。GoProは違う。

アクションカメラの王者が立っていた場所

GoProは、長く生き延びてきた会社だ。2010年代には「GoProキラー」という言葉が「テスラキラー」「iPhoneキラー」と同じくらい飛び交った。TomTomのアクションカメラから、Googleが出してまもなく姿を消した小型カメラ「Clips」まで、いくつもの製品が「GoProを倒す」と言われた。

カテゴリーそのものを発明した会社を、誰もが倒したがった。それだけ強いブランドだった。

GoProは2002年の創業以来、一人称視点の映像という体験そのものを世界に広めてきた。スマートフォン時代の消費者向けハードウェアを象徴する一社だった。

ただ、生き延びることは成功と同じではない。ここ数年のGoProは苦しい。売上は落ち、損失は膨らみ、株価は2年前から1ドル前後で動かなくなった。スマホのカメラ性能が上がり、安価な競合が増えるなかで、単体のカメラを売り続ける難しさが数字に出ている。

数字が語る「あと数四半期」

苦境の度合いは、決算ではっきりした。第1四半期の数字は、コラム的な比喩を挟む余地を与えない。

2026年第1四半期の売上は9910万ドル(約157億円)。純損失は8080万ドルに膨らみ、前年同期の4670万ドルから倍近くに増えた。手元資金は4070万ドルまで減り、負債の元本は9990万ドル。資産より負債が多く、株主資本はマイナスに沈んでいる。

ここに一つだけ決定的な行がある。粗利率4.5%だ。1年前は32.3%だった。健全な消費者向けハードウェア企業は25〜40%の粗利で動く。一桁の粗利は、在庫を投げ売りしているか、大きな評価減を抱えているかのどちらかを意味する。

GoProの主要財務指標、1年でどう変わったか
指標 前年同期 2026年
第1四半期
粗利率 32.3% 4.5%
純損失 4670万ドル 8080万ドル
手元資金 4970万ドル 4070万ドル
株主資本 プラス マイナス
負債の元本 9990万ドル
※ 純損失・手元資金は前年同期との比較。手元資金は2025年末時点との対比。健全な消費者向けハードウェア企業の粗利率は25〜40%が目安。
監査法人は、損失の継続や部材コストの上昇、需要の弱さなどを理由に、GoProが今後1年間、企業として存続できるかに重大な疑義があると指摘した。残された時間は年単位ではなく、四半期単位で測られる段階に入っている。

会社の答えは、はっきりしていた。全従業員の約23%、およそ145人の人員削減。GoProの従業員数は2024年初頭には696人いたが、すでに631人まで減り、削減後は600人強になる。最盛期には1500人を抱えていた会社の、いまの姿だ。

GoProの従業員数、最盛期からの推移
最盛期の1500人から、削減完了後は600人強まで縮小する見込み
※ 削減後の数値は2026年内に完了予定の23%削減(約145人)を反映した見込み値。

「防衛」という物語の賞味期限

人員削減と並行して、GoProはコンサルティング会社Oliver Wymanと組み、防衛・航空宇宙市場の機会を探ると発表した。

この発想自体は、まったく筋が通らないわけではない。GoProのカメラは、トップクラスの画質と、バイクの転倒や宇宙からの落下にすら耐える頑丈さを両立している。その頑丈な撮像技術を政府や防衛の現場に持ち込めるなら、消費者向けの小売よりも長期で安定した契約につながる可能性はある。

実際、市場はこの発表に素早く反応した。株価は数日で2倍近くまで跳ね上がった。0.6ドル台で沈んでいた株が、4月半ばには1.2ドル台に乗った。

ただ、その上昇も地上へ戻ってきた。防衛というアイデアは、GoProのカメラほど頑丈ではなかった。具体的な契約も金額も時期も、何も発表されていない。物語はあるが、決算書に載る数字はまだない。投資家が一度は買った夢は、裏付けの薄さとともにしぼんでいった。

ここで、一つの疑問が浮かぶ。防衛への進出は、本当に成長戦略だったのか。それとも、買い手の関心を引くための看板だったのか。

行き着いた先は、身売りの検討

5月、GoProは投資銀行Houlihan Lokeyを財務アドバイザーに起用した。会社の「売却を含む戦略的選択肢」を評価するためだ。

取締役会は、防衛事業の発表のあとに「防衛・消費者・金融など複数の分野から、こちらが求めていない買収の打診を複数受けた」と説明している。回りくどい言い方だが、要するに買い手が現れた、ということだ。

創業者でCEOのニック・ウッドマン(Nick Woodman)は「GoProには市場に十分反映されていない価値がある。発表後に寄せられた関心は、ほかの人々も同じように感じていることを示している」と述べた。

GoProが売却を検討するのは、これが初めてではない。2018年にも一度、売却が選択肢に上がったことがある。だが当時と今では、切迫度が違う。財務が悪化し、人員の4分の1を削り、企業としての存続に疑問符がついた状態での「戦略的選択肢の検討」だ。

Houlihan Lokeyが選ばれた理由の一つは、この銀行が防衛と消費者の両分野に強い人脈を持つことだった。打診してきた相手に防衛セクターが含まれている以上、その人脈は意味を持つ。防衛への進出は契約には結びつかなかったが、会社そのものへの関心という形で、別の出口を開いた。これを成功と呼ぶべきかは、読む人それぞれの判断だろう。

同じ物語を、誰が買うのか

GoProの技術、特許、ブランドには価値がある。ウッドマンが繰り返し強調しているのも、その点だ。買い手が現れれば、1ドル強まで沈んだ株価には上昇の余地が生まれる。

一方で、買い手は同時にGoProが何年も抱えてきた重荷も引き継ぐ。鈍化したハードウェアの成長、DJIやInsta360との激しい競争、スマホ全盛の時代に単体カメラを売り続ける難しさ。これらは新しい持ち主のもとでも消えない。

15年前、GoProはテック業界の寵児だった。いまは、膨張を続けるアメリカ国防予算が、混乱を抜ける一本の道に見えている。アクションカメラを発明した会社が、自社のカメラではなく自社そのものを売り物として差し出すところまで来た。次に頑丈さを試されるのは、製品ではなく、ブランドそのものだ。


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