レノボがYMTC製SSDをグローバル出荷。中国NANDの転換点
メモリ危機のさなかに、レノボのオフィス向けノートPCから中国製SSDが見つかった。サムスンでもキオクシアでもない。2022年に米国のエンティティリストに載った、あの長江メモリ(YMTC)だ。
グローバルモデルに中国製SSD
2026年7月1日に公開されたレノボThinkBook 14 G9 IPLのレビューで、搭載SSDが長江メモリ製であることが確認された。512GBのM.2 2242、NVMe PCIe 4.0接続のドライブで、型番はPC42Qだ。

レノボは出荷台数ベースで世界最大のPCメーカーだ。中国国内向けモデルに長江メモリ製のストレージが使われることは以前からあったが、グローバル向けのノートPCに搭載されたのはこれが初めてとなる。ThinkBook 14 G9 IPLは米国のAmazonでも販売されており、価格は約1124ドルだ。
性能は控えめだった。シーケンシャルリードは3950MB/s、ライトは2514MB/s。オフィス向けノートPCのSSDとしては平均を下回り、4Kランダム性能も低い。ただ、このクラスの製品を買う層がSSDのベンチマークを気にするかというと、おそらく気にしない。HDDより速ければ十分な用途だ。
「撤退」を予測された企業が、世界4位に立っている
3年前、この企業は市場から消えると見られていた。
2022年12月、米商務省は長江メモリをエンティティリストに追加した。128層以上の3D NAND製造に必要な米国製装置の調達が事実上不可能になり、TrendForceは「2024年までにNAND市場から撤退する可能性がある」と予測した。
撤退しなかった。
Counterpoint Researchによると、2026年第1四半期の世界NANDフラッシュ市場で長江メモリの売上高シェアは13%に達した。前年同期の8%から5ポイントの上昇だ。売上高は約26億ドル、前年同期比で445%の成長を記録している。サムスン(29%)、SKハイニックス(18%)、キオクシア(14%)に次ぐ世界4位。マイクロンとサンディスク(各13%)と並ぶ位置まで来た。
| メーカー | 売上高 | シェア |
|---|---|---|
| サムスン | 約133億ドル | 29% |
| SKハイニックス | 約83億ドル | 18% |
| キオクシア | 約64億ドル | 14% |
| 長江メモリ | 約26億ドル | 13% |
| マイクロン | 約60億ドル | 13% |
| サンディスク | 約60億ドル | 13% |
この急成長を可能にしたのは、独自の3D NANDアーキテクチャ「Xtacking」だ。メモリセルと周辺回路を別々のウェハーで製造し、ハイブリッドボンディングで接合する。最新のXtacking 4.0では294層のNANDを量産しており、歩留まりは90%を超える。サムスンの286層、SKハイニックスの321層と比較しても、技術格差は急速に縮まっている。
制裁下でこの開発速度を維持できた背景には、中国政府系ファンドからの巨額出資と、国産製造装置への切り替えがある。武漢の第3工場は2026年末に稼働を開始する見通しで、さらに2棟の新設も計画されている。
メモリ危機が開けた扉
長江メモリ製SSDがレノボのグローバルモデルに入った理由は、技術力の向上だけではない。
AIデータセンター向けの需要爆発が、NANDフラッシュ市場の構造を変えた。NAND契約価格は2026年第2四半期だけで前期比70〜75%上昇した。TrendForceの7月3日付予測では、第3四半期も10〜15%の上昇が続く見通しだ。
上昇率こそ鈍化したが、価格水準は高止まりのままだ。サムスン、SKハイニックス、マイクロンといった大手は利益率の高いエンタープライズSSDとHBMに生産能力を集中させている。コンシューマー向けやクライアントPC向けの供給は細いままだ。
PCメーカーにとっては、部品が足りない。足りないなかでも製品を出荷しなければならない。長江メモリは、その隙間に入り込んだ。
タイミングを見れば、この動きはさらに大きな流れの一部だ。ブルームバーグは7月1日、Appleが長江メモリとCXMT(長鑫存儲技術)からメモリを調達する方向で協議を進めていると報じた。ティム・クックCEOがベッセント財務長官らトランプ政権幹部に接触し、政治的反発の軽減を図っているという。メモリ供給を3社(サムスン、SKハイニックス、マイクロン)に依存してきたAppleが、中国勢を加えて5社体制を検討せざるを得ないほど、供給逼迫は深刻化している。
エンティティリストと貿易の間
長江メモリはエンティティリストに載っている。レノボはそのSSDを搭載したノートPCを米国で売っている。この2つは矛盾しない。
エンティティリストは、米国企業が長江メモリに製品やサービスを輸出することを制限する。長江メモリの製品を他の企業が購入・使用すること自体は、規制の対象外だ。レノボの本社は中国にあり、調達先として長江メモリを選ぶことに法的な障壁はない。
政治的な摩擦が生じる余地は残る。Appleが長江メモリやCXMTからの調達を検討しているというだけで、米議会の対中強硬派から批判が上がった。2022年にもAppleは長江メモリからのNAND調達を計画し、議会の反発を受けて断念している。
レノボの場合、ThinkBookは法人向けの廉価モデルであり、Appleほどの注目を集めない。目立たないまま採用実績を作るには、むしろ都合のいい製品だった。
変わりつつある供給網の地図
レノボのThinkBook 1台で終わる話ではない。
長江メモリは中国A株市場(科創板)へのIPO準備を進めており、評価額は約3000億元(約6.9兆円)とされる。2026年第1四半期の売上高は200億元を超え、前年同期比で約2倍に成長した。IPOが実現すれば、生産能力の拡大に必要な資金を市場から直接調達できるようになる。
長江メモリの消費者向けブランド「致鈦」(ZhiTai)は、サムスンとSKハイニックスの本拠地である韓国市場にまで進出している。
AIインフラが必要とするストレージの量は今後も膨張し続ける。その需要を既存の5大メーカーだけで吸収できない状況が続く限り、長江メモリが入り込める場所は広がり続ける。
レノボのThinkBook 14 G9 IPLに載った512GBのSSD。性能は平凡で、外箱にメーカー名が印刷されることもないだろう。NANDの供給元がいつの間にか変わっていることに、ほとんどの買い手は気づかない。