楽天証券もドコモも「非対応」、世界のパスキーリストの死角
世界で最も使われるサイトのうち、パスキーをまだ用意しないところを名指しする。そんなサイトが公開された。日本のページは厳しい。上位25のうち21が「非対応」と並ぶ。ところが、楽天証券もNTTドコモも、本当はパスキーでログインできる。必須化にまで進んでいる。
パスキー「非対応」の名指し
whynopasskeys.comというサイトが公開された。作ったのは、セキュリティ研究者のスコット・ヘルム(Scott Helme)。世界の人気サイトを順に並べ、どこがパスキーに対応し、どこが対応していないかを一覧にする。
前例がある。2017年、ヘルムはトロイ・ハント(Troy Hunt)とともにwhynohttps.comを作った。HTTPSへ切り替えていないサイトを集め、誰の目にも見える形で並べた。狙いは単純だった。ヘルム自身の言葉では「誰もそこに載りたくない。リストは驚くほど人を動かす」。実際、HTTPSは数年で「あれば良い」から「なければ困る」へ変わった。この名指しは、その動きを後押しした。今度はそれをパスキーでやる。ドメインはハントが提供し、その続編ができた。

世界の数字はこうだ。上位25サイトのうち6つ(24%)がパスキーを用意していない。Instagram、Netflix、Spotify。数億から十数億のアカウントを抱えながら、アカウントを守るのはパスワードと、あっても多要素認証だけだ。Apple、Google、Microsoft、Amazonは対応済みの緑とされる。リストはさらに細かい。パスワードを完全になくし、パスキーだけでログインできるサイト。パスワードを残し、パスキーを二要素目に足すだけのサイト。この二つを分けている。
日本のページは厳しい
上位25サイトのうち、21が「非対応」と出る。ログインを持つ24サイトに対して88%にあたる。緑なのはYahoo! JAPAN、Amazon、Googleの三つだけ。赤は楽天、NTTドコモ、DMM、ZOZO、そして楽天証券まで並ぶ。

なぜ日本の対応がリストに出ないのか
だが、「非対応」と名指しされたサイトを開いてみると、実態が合わない。
楽天証券。ログイン画面には、今この瞬間も「パスキーでログイン」のボタンがある。同社は2026年6月以降、ログイン時のパスキー認証を順に必須化すると発表した。証券口座だ。顧客の資産を預かる会社が、ログインのパスワードを段階的になくしていく。それが「非対応」とされている。
楽天グループも2026年1月からパスキーの導入を進め、楽天モバイルは6月16日、設定を済ませたユーザーのパスワードログインを止めた。NTTドコモはdアカウントの認証をパスキーへ統一すると発表し、オンラインショップの一部手続きはパスキーなしに先へ進めない。いずれも、リストでは赤いままだ。
赤で並ぶのは、パスキーを持たない日本のサービスではない。パスキーを持っているのに、リストがまだ把握していない日本のサービスだ。
把握できない理由
理由はリストの作りにある。どのサイトがパスキーに対応しているかのデータはこのサイトの自前ではない。passkeys.directoryという、有志が手で維持する別の一覧から引いている。そして対応の有無は、外から自動で見分けられない。ログインの内側でしか動かないからだ。その限界を、ヘルムは先に認めている。参照元のディレクトリが拾えていないものは、リストにも正しく出ない。
日本のサービスは、自社の日本語ページでパスキー導入を告知した。その知らせが、英語圏の有志が更新するディレクトリにまだ届いていない。結果として、必須化まで進んだ日本の対応が、世界向けの集計には出てこない。
ヘルムはむしろ訂正を歓迎している。対応しているのに非対応と出ているなら、passkeys.directoryに申請すれば直る。自分はこのリストが時間とともに「不正確」になってほしい(赤から緑へ移ってほしい)、とまで書いている。
「88%」をどう読むか
だとすれば、日本の「88%」を「日本は遅れている」と読むのは違う。本当に対応していないのは、もっと少数の別のサービスだ。リストの記録と日本の実態の食い違いが起きている。こうした世界規模の集計は、英語圏の有志データに頼っている。だから日本のように非英語圏で進んだ動きは、記録に載るのが遅れる。
救いは、この記録が直せることだ。気づいた人が一件申請すれば、名前は緑へ移り、データは皆のために良くなる。リストの本当の目的も、恥をかかせること自体ではなかった。社内の議論を「やるべきか」から「なぜ載っているのか」へ動かすことにあった。
そしてパスキーそのものの値打ちは、リストの精度とは関係なく本物だ。フィッシングでは盗めない。データ漏洩でも流出しない。横取りしても使い回せない。提供されているなら、入れておくに越したことはない。日本のサービスは、リストの赤が示すよりずっと多く、パスキーを使えるようにしている。
参照元:
スコット・ヘルムによる告知ブログ
whynopasskeys.com(日本ページ)