Reality Labs損失40億ドル、累積800億ドル超え
Metaのメタバース部門Reality Labsが2026年第1四半期にも40億ドル超の営業損失を出した。累積赤字は800億ドルを突破。AIへ大きく舵を切るザッカーバーグの戦略のなか、メタバースという旗印は次第に色褪せつつある。
売上4億ドル、損失40億ドルという構造
Metaが日本時間4月30日朝に公表した2026年第1四半期決算で、仮想現実・拡張現実機器を扱うReality Labs部門の数字が改めて市場の注目を集めている。売上高は4億200万ドル(約643億円)、営業損失は 40億3000万ドル (約6448億円)。売上のおよそ10倍の赤字を出し続けている事業だ。
ウォール街は損失48億2000万ドル、売上4億8880万ドルを予想していた。損失幅は予想より小さく、前年同期の42億1000万ドルからもわずかに改善している。だが「予想より傷が浅い」というだけで、構造的な赤字の性質は変わらない。
四半期ごとの推移を見ると、この事業の輪郭がはっきり浮かぶ。2020年第4四半期に独立セグメントとして報告が始まって以降、Reality Labsは21四半期連続の赤字を記録している。
Reality Labs部門は2020年後半以降、800億ドル(約12兆8000億円)を超える累積営業損失を計上している。同社の人工知能投資が拡大するなか、メタバースへの取り組みは資金流出を続けている。
800億ドルという数字は、ある国の年間GDPに匹敵する規模だ。これだけの資金を投じて、四半期売上は4億ドル台にとどまる。投資対効果という言葉では捉えきれない構造になっている。
AIへの傾斜、メタバースという看板の後退
Metaは2021年、創業者のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)が「仕事も遊びも仮想空間に移る」というビジョンを掲げて社名を変更した。Facebookという名を捨ててまで賭けた未来図だった。
その構想を中断させたのは、2022年末に登場したOpenAIの ChatGPT だ。生成AIの波がIT業界の優先順位を一気に書き換え、Metaも例外ではなかった。同社は今、AIインフラへの投資をかつてない規模で積み増している。
2026年通年の設備投資ガイダンスは、従来の1150億〜1350億ドルから1250億〜1450億ドルへ引き上げられた。中央値で1350億ドル(約21兆6000億円)。2025年実績の722億ドルから、ほぼ倍増する計算だ。Metaは引き上げの理由を「部品価格の上昇と、将来の容量を支えるデータセンター追加コストの反映」と説明している。
これだけの規模の投資は、社内資源の配分にも当然影響する。Reality Labsは1月に約1000人を解雇し、VR関連の人員をAIウェアラブル開発に振り向けた。3月にもReality Labs、Facebook、グローバル運用、採用、営業の各部門にまたがる数百人規模のレイオフがあった。そして先週、Metaは 従業員の10%にあたる8000人 の削減と、6000の未充足ポジションの廃止を発表している。実施開始は5月20日だ。
メタバースを掲げた看板はまだ降ろされていないが、内部では確実に役割を終えつつある。
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2026年1月
Reality Labs 約1000人
VR部門を中心とした約10%の人員削減。複数のVRゲームスタジオを閉鎖し、リソースをAIウェアラブル開発へ振り向けた。
2026年3月
複数部門にまたがる約700人
Reality Labs、Facebook、グローバル運用、採用、営業の5部門で実施。個別部門の調整段階。
2026年5月20日(実施開始)
全社規模 約8000人(全従業員の10%)
未充足ポジション6000件も廃止。全社のチームをAI中心の「pod」体制へ再編する構造的レイオフ。年後半にも追加実施が予告されている。
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Family of Appsの絶好調が損失を吸収する構造
Reality Labsの巨額損失を支えているのは、本業の広告事業の絶好調ぶりだ。Facebook、Instagram、WhatsApp、Messengerを束ねるFamily of Apps部門の四半期売上は559億1000万ドル、営業利益は269億ドルに達した。
会社全体の売上は 563億1100万ドル で前年比33%増、純利益は267億7000万ドルで61%増。1日あたりのファミリーアクティブユーザー数は35億6000万人で、前年から4%増加している。広告インプレッションは19%増、広告単価も12%上昇した。
数字だけを見れば絶好調そのものだ。だがその成長を支える広告ビジネスから稼ぎ出した利益のかなりの部分が、Reality LabsとAIインフラという「未来への賭け」に流れ込んでいる。
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Family of Apps
+269.0億ドル
Facebook / Instagram / WhatsApp / Messenger・売上559.1億ドル
Reality Labs
−40.3億ドル
VR / AR / ウェアラブル・売上わずか4.02億ドル
差引
+228.7億ドル
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Family of Apps部門が稼いだ269億ドルの営業利益は、Reality Labsの40億ドルの赤字を十分に吸収できる。問題は、その規模の赤字を「吸収すべき投資」と見なし続けられるか、いつ「整理すべき損失」に変わるかという判断にある。
市場の評価は、決算後すぐ数字に表れた。Metaの株価は時間外取引で 約6〜7%下落 した。直接の理由は、設備投資ガイダンスの引き上げだ。広告事業がいくら好調でも、AIインフラへの追加投資が増え続ければ、フリーキャッシュフローへの圧力は強まる。
Ray-Ban Metaが示す方向転換
Reality Labsが完全に切り捨てられているわけではない。1月のレイオフで人員を振り向けた先は、AIで動くウェアラブルデバイス事業だった。具体的には、エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)と共同開発したスマートグラス「Ray-Ban Meta」の延長線上にある製品群を指す。
ヘッドマウント型のVRゴーグルから、日常的に身につけられるAIアシスタント搭載メガネへ。同じReality Labsという看板の下で、扱う製品の中身が緩やかに入れ替わっている。重厚で没入感を売りにしたVRから、軽量でAIとの対話を中心に据えたウェアラブルへ。これは戦略の修正というより、看板を残したまま中身を入れ替える作業だ。
Ray-Ban Metaは2024年以降、ハードウェア市場で意外なほどの売れ行きを見せている。Apple Vision Proのような高価格帯ヘッドセットがなかなか普及の波に乗れない一方、3万円台のスマートグラスは別の道筋を示しつつある。Meta自身、こちらの方向にこそ可能性を感じているのだろう。
21四半期の赤字が問いかけるもの
Reality Labsの数字を眺めて思うことがある。ある事業を「未来への投資」と呼び続けられる期間には限界があるのではないか、ということだ。21四半期、つまり5年以上にわたって赤字を出し続け、累積損失が800億ドルに達した時点で、それは投資なのか、それとも別の何かなのか。
ザッカーバーグは決算発表に合わせ、四半期の最大の節目を「Meta Superintelligence Labsからの初モデルのリリース」と位置づけた。発言の重心は明らかにAIに移っている。
Meta CEOマーク・ザッカーバーグ:「アプリ群全体で力強い勢いがあり、Meta Superintelligence Labsから初のモデルをリリースした節目の四半期だった。我々は数十億の人々にパーソナル超知能を届ける道を順調に歩んでいる」
メタバースという言葉は、2021年の社名変更時の輝きを失っている。Reality Labsという部署名は残るが、その中で開発されているのは、もはやVRゴーグルだけではない。AIメガネ、AIウェアラブル、そしてAIモデルそのもの。
800億ドルという数字を、未来への授業料と見るか、それとも勘違いの代償と見るか。判断するのはまだ早いのかもしれない。だが、この数字が積み上がり続けることに、市場が慣れてしまったことも事実だ。
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