1200万曲のAI学習リストに自国の音楽。オーストラリアの闘い

1200万曲のAI学習リストに自国の音楽。オーストラリアの闘い

カイリー・ミノーグだけで182曲。業界連合が連邦議会で記者会見を開き、AI企業による無断利用を「業界史上最大の知的財産の窃盗」と断じた。


「許可なし、ライセンスなし、対価なし」

6月にThe Atlanticが公開したデータベース検索ツールは、AIの学習に使われた4つの大規模楽曲データセットの中身を可視化した。ミッドナイト・オイル、シーア、クラウデッド・ハウス、ロードらオーストラリア・ニュージーランドのアーティストが多数含まれていた。カイリー・ミノーグだけで182曲がリストに載っている。

これを受けて動いたのがAPRA AMCOS(オーストラレーシア演奏権・複製権管理団体)だ。ディーン・オームストン(Dean Ormston)CEOは「テックプラットフォームが許可も対価もなく楽曲をAI学習に使っている事実に、私たちも皆さんと同様に憤っている」と声明を出した。

7月1日の議会前には、ウィリアム・バートン(William Barton)氏、ポール・デンプシー(Paul Dempsey)氏、マハリア・バーンズ(Mahalia Barnes)氏ら音楽家に加え、作家のアナ・ファンダー(Anna Funder)氏やアンディ・グリフィス(Andy Griffiths)氏も参加した。バーンズ氏は「これはデータではない。アートであり、文化であり、この国の本質だ」と訴えた。

ARIA(オーストラリア・レコード産業協会)のアナベル・ハード(Annabelle Herd)CEOは「同意と管理と報酬は、すべてのクリエイティブなキャリアの中心にある。著作権法を変えることは、オーストラリアの創造性の窃盗を合法化することだ」と述べている。

法的保護の壁

アーティストの怒りに対して、法はどこまで味方になれるのか。答えは厳しい。

問題のデータベースには、多くの場合、著作権で保護された楽曲そのものは含まれていない。含まれているのは「どこからダウンロードできるか」というURLとメタデータだ。過去の訴訟では、著作物の所在を一覧にする行為自体は著作権侵害にあたらないと判断されている。侵害が成立するのは、AI企業がそのデータを実際にモデルの学習に使った段階に限られる。

著作権法は特定の旋律や録音といった具体的な表現を保護するが、スタイルやパターンは保護の対象外となる。AI開発者はこの隙間を利用する。音符を一対一で複製するのではなく、コード進行や声の質感といった要素を抽出し、新しい楽曲を生成する。作り手にとっては盗まれたも同然だが、法的には模倣の範囲にとどまる可能性がある。

オーストラリア固有の問題もある。AIモデルの学習は通常、米国内で行われる。ARIA CEOのハード氏は「著作権侵害訴訟は米国で提起しなければならず、それがまさに今起きていることだ」と説明した。オーストラリア国内の裁判所にはAI企業に対する著作権侵害訴訟の記録がない。

Sunoが2週間でSpotify全カタログ分を生成する現実

AI音楽の生産量は加速を続けている。Sunoは1日あたり約700万曲を生成しており、Spotifyの全カタログ約1億曲に相当する量を2週間で生み出している。2026年6月にはシリーズDで4億ドルを調達し、企業価値は約54億ドルに達した。

ユニバーサルとソニーは2024年6月にSunoを著作権侵害で提訴した。その後ワーナーは2025年11月にSunoと和解しライセンス契約に転じ、ユニバーサルもUdioと和解した。現在もSunoとUdioの双方に対して訴訟を継続しているのはソニーだけだ。マサチューセッツ州連邦地裁のソニー対Suno訴訟では、2026年7月にサマリジャッジメントの公聴会が予定されている。AIの学習がフェアユースに該当するかを連邦裁判官が正面から判断する、初めての場になる。

Sunoは「学習は侵害ではない」と主張している。だが国際著作権団体連合(CISAC)の委託調査は、生成AIが2028年までに音楽クリエイターの収益を24%奪い、累積損失額は100億ユーロ(約1兆8500億円)に達すると試算している。

世界で300件の契約と、270件の訴訟

オーストラリアの連合が政府に求めているのは、2025年10月の決定の維持だ。同月、オーストラリア政府はAIのためのテキスト・データマイニング(TDM)例外規定を設けないと決め、著作権の保護を選んだ。

この決定に対し、テック業界は撤回を求めるロビー活動を続けている。アトラシアン共同創業者のスコット・ファーカー(Scott Farquhar)氏は2026年6月、現行の著作権法ではAIの学習が「不可能」になり、AI企業がオーストラリアへの投資を見送ると発言した。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)も著作権法を「戦略的負債」と呼び、外国のAIモデルへの依存を高めると主張している。

APRA AMCOSのオームストンCEOはこの主張に反論した。「著作権が障壁だとする主張が事実なら、アマゾンやOpenAIのオーストラリアへの数十億ドル規模の投資は起きていないはずだ」。APRA AMCOSには100年にわたるライセンスの実績がある。ラジオ、テレビ、ストリーミング、SNS、あらゆる新技術が登場するたびにライセンスの枠組みを構築してきた。AI企業がライセンス交渉のドアをノックしたことは「まだ一度もない」と、APRA AMCOSのニコラス・ピッカード(Nicholas Pickard)氏は指摘している。

コンデナストやワーナーなどのコンテンツ企業とAI企業の間では、世界で約300件の商業ライセンス契約が成立している。同時に約270件の訴訟がさまざまな法域で進行中だ。ドイツではGEMA(ドイツ音楽著作権協会)がOpenAIに対する訴訟で2025年11月に勝訴しており、AI学習における著作権侵害を認めた欧州初の判例となった。

AI音楽著作権をめぐる動き
2024年6月
UMG・ソニー・ワーナーがSunoを提訴
侵害の主張は560曲から6万1000曲以上に拡大
2025年10月
オーストラリア、TDM例外を拒否
著作権の保護を選択
2025年11月
ワーナーがSunoと和解
GEMA対OpenAI、ドイツで勝訴(欧州初の判例)
2026年6月
AI学習データベース検索ツール公開
Sunoがシリーズで54億ドル評価に到達
2026年7月
オーストラリア業界連合が議会で記者会見
ソニー対Sunoの公聴会が同月予定
2026年8月
EU AI法の透明性義務が本格適用
違反には全世界売上高の3%の制裁金
※ソニー対Sunoの公聴会日程、EU AI法の適用日は予定

EUの透明性規則が8月に本格始動

欧州では、EU AI法が2026年8月2日に主要な透明性義務の適用を迎える。汎用AIモデルの提供者は学習データの要約を公開しなければならず(この義務自体は2025年8月に発効済み。既存モデルの猶予期限は2027年8月)、違反には全世界売上高の3%または1500万ユーロの制裁金が科される。

The Conversationに寄稿したメルボルン大学のアンドリュー・カレン(Andrew Cullen)上級研究員は、EUの枠組みがAIデータ利用の秘密主義を打破し、学習に使われた楽曲のアーティストへの対価支払いの可能性を高めると指摘している。

オーストラリアの連合が議会に提出したオープンレターには、APRA AMCOSとARIAに加え、著作権庁、オーストラリア音楽センター、先住民・トレス海峡諸島民音楽局(NATSIMO)、スクリーンライツ、AIR(オーストラリア独立レコードレーベル協会)らが名を連ねている。要求の核心は3つ。AI企業が著作物を許可なく使えない仕組みの維持、学習データの透明性の確保、そしてクリエイターへの公正な報酬だ。

先住民の文化もこの問題に絡む。データセットにはアボリジニ、トレス海峡諸島民の楽曲も含まれており、伝統的な文化的保護の下にある録音が無差別に取り込まれていた。著作権法の枠組みだけでは捉えきれない問題がここにある。

作曲家でAPRA理事のケイトリン・ヨー(Caitlin Yeo)氏は、自分の作品がAI学習データベースに含まれていたことを知ったとき「侵害された」と感じたと語っている。数十年の仕事が「一瞬で吸い上げられ」、「税金も払わない海外企業の養分にされた」。

ヨー氏はこう述べている。「少なくとも、アーティストも分け前を受け取るべきだ」。

参照元:'Largest Theft of Intellectual Property in Our History': Australia's Music Industry Unites Against AI Copyright Threat

他参照:Australian musicians hate AI using their songs, but have little legal protection

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