400の地方紙がOpenAIとMicrosoftを提訴。記事を無断でAI学習に利用

400の地方紙がOpenAIとMicrosoftを提訴。記事を無断でAI学習に利用

アメリカの地方紙や地域紙を発行する出版社の連合体が、OpenAIとMicrosoftをニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提訴した。原告は400近い新聞を発行する出版社の連合で、地方紙がAI企業を訴えた著作権訴訟としては過去最大の規模になる。


何を訴えているのか

事件番号はRichner Communications, Inc. v. Microsoft Corp.(1:26-cv-05320)、提出日は現地時間2026年6月24日。リッチナー・コミュニケーションズはニューヨーク州ロングアイランドを拠点に、ピューリッツァー賞受賞歴のあるThe Riverdale Pressなど70以上のコミュニティ紙を発行する地域メディア企業だ。筆頭原告としてこの訴訟を率いる。

原告連合にはニューヨーク・アムステルダム・ニュース(ニューヨーク最古のアフリカ系アメリカ人コミュニティ紙)、アーカンソー・デモクラット・ガゼット、ニューメキシコ州のThe Taos Newsなど、数十州にまたがる出版社が参加している。

主張の柱は2つある。1つは著作権法違反。OpenAIが出版社のウェブサイトを組織的にクロールし、ペイウォールやアクセス制限の裏にあるコンテンツまで含めて記事をコピーし、ChatGPTやMicrosoft CopilotなどのAI製品の学習データに使ったとする。もう1つはDMCA(デジタルミレニアム著作権法)第1202条違反。学習データの構築やChatGPTの出力生成の過程で、著者名・著作権表示・利用規約といった著作権管理情報(CMI)が意図的に削除されたと訴えている。

Microsoftに対しては間接的な著作権侵害を主張。OpenAIの学習データを保管・処理するコンピューティング基盤をMicrosoftが管理・運営しており、侵害行為を制御する能力を持ちながらそうしなかったとする。

原告は法定損害賠償、利益の返還、差止命令を求めている。差止の内容にはすべてのGPTモデルおよびトレーニングセットから原告の著作物を削除する要求も含まれる。

地方紙が訴えることの意味

AI企業に対する著作権訴訟はすでに珍しくない。ニューヨーク・タイムズが2023年12月にOpenAIとMicrosoftを提訴して以来、訴訟は増え続けた。ニューヨーク南部地区では16件がMDL(多地区訴訟)として統合され、シドニー・スタイン判事の下で審理が進んでいる。2026年1月にはスタイン判事がOpenAIに対し2000万件のChatGPTログの全件提出を命じ、3月にはさらに7800万件と1000万件のログの追加提出も命じた。

OpenAI・Microsoftに対するAI著作権訴訟の拡大
2023年12月
NYT提訴
OpenAIとMicrosoftを最初に提訴
2024年4月
8紙連合提訴
シカゴ・トリビューンら8紙が参加
2025年4月
MDL統合
16件をスタイン判事に集約
2025年9月
Anthropic和解
Bartz v. Anthropicが15億ドルで決着
2025年10月
訴え却下棄却
スタイン判事がOpenAI側申立てを退ける
2026年1月
ログ提出命令
ChatGPTログ2000万件の全件提出
2026年3月
ブリタニカ提訴
百科事典と辞書の無断学習で提訴
2026年5月
CNN提訴
テレビ局として初のAI著作権訴訟
2026年6月
400紙連合提訴
地方紙による過去最大規模の訴訟

ただし、これまで原告の中心にいたのはニューヨーク・タイムズ、シカゴ・トリビューン、CNN、ブリタニカ百科事典といった大手メディアや出版社だ。今回はそれらとは正反対の存在が法廷に立った。

地方紙は、自分たちの記事を代わりに取材してくれる存在がいない地域で、限られた予算と人員で報道を続けている。市議会の採決、地元の裁判、学校区の予算。全国メディアが取材しない話題を地方紙の記者だけがカバーしている。OpenAIがその記事をAIの学習データとして取り込み、ChatGPTの回答に再利用すれば、読者がそのサイトを訪れる理由は減る。広告収入とサブスクリプションで成り立つ地方紙にとって、トラフィックの減少は直接的な収入減だ。

訴状は、著作物の無断使用が止まらなければ地方ジャーナリズムは終わると警告している。

原告を代理するPlatkin LLPは、2026年2月にニュージャージー州前司法長官マシュー・プラトキン(Matthew Platkin)氏が設立した法律事務所だ。プラトキン氏はニュージャージー州第62代司法長官(2022~2026年)として、Apple、Amazon、Meta、TikTokへの訴訟を主導してきた。

IPO直前のOpenAIに向けられた訴訟

OpenAIは2026年5月22日、SEC(米証券取引委員会)にS-1登録届出書を非公開で提出し、6月8日にその事実を公表した。ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが主幹事を務め、早ければ2026年9月の上場を目指すとされている。直近の評価額は2026年3月の資金調達ラウンドで8520億ドル(約138兆円)。月間売上は20億ドルに達し、ChatGPTの週間アクティブユーザーは9億人、有料会員は5000万人を超えた。

訴状はこれらの数字を引用している。IPOの非公開申請、月間20億ドルの売上、8520億ドルの評価額を並べた上で、その収益が出版社の著作物を元に生まれたと主張する構成だ。

IPOにとって係争中の著作権訴訟はリスク要因になる。SECへの登録届出書にはすべての重要なリスクの開示が求められる。既存のMDL(16件統合)に加え400紙の連合訴訟が加わることで、投資家への開示事項は増え、潜在的な賠償額の見通しも不透明になる。

OpenAI広報のドリュー・プサテリ(Drew Pusateri)氏は「OpenAIのモデルは公開データに基づいて学習されており、フェアユースの範囲内だ」とコメントした。OpenAIが著作権訴訟に対して一貫して取ってきた姿勢だ。Microsoft側はコメントの要請に即座には応じなかったという。

フェアユースで決着するか

OpenAIのフェアユース主張が法廷で通用するかどうかは、まだ分からない。MDLを担当するスタイン判事は2025年10月、OpenAI側の訴え却下申立てを退けた。ChatGPTの出力と原告の著作物の類似性について、合理的な陪審員が著作権侵害と認める余地があると判断している。ただし、フェアユースそのものに関する実質的な判断は出ていない。

AI著作権訴訟ではすでに1つの先例がある。2025年9月、Anthropicに対する訴訟(Bartz v. Anthropic)が15億ドルの和解で決着した。海賊版サイトから約50万冊の書籍をダウンロードしてAI学習に使用したことが争われた訴訟で、米国著作権訴訟史上最大の和解額とされる。

ただし、Anthropicのケースには海賊版データの使用という明確な違法性があった。公開ウェブ上のコンテンツを学習に使った場合にフェアユースが認められるかどうかは、まったく別の論点だ。その判断がMDLの中で下されるのは、おそらく2026年後半以降になる。

コンデナスト、アクセル・シュプリンガーのような大手メディアグループはOpenAIと個別にライセンス契約を結ぶ道を選んだ。だが地方紙に個別交渉の力はない。400紙で束になって初めて法的な存在感を持てるという事実そのものが、この業界の力関係を表している。

ChatGPTに地元の学校区について質問したとき、返ってくる回答の原料が地方紙の記事だとしたら、その取材費は誰が負担するのか。AIが答えを完結させるたびに、取材の担い手が1人ずつ減っていく。この訴訟が突きつけているのは、著作権料の分配だけではない。

参照元:Richner Communications, Inc. v. Microsoft Corp. 訴状(Bloomberg Law)

他参照:Platkin LLP プレスリリース(Insider NJ)

関連記事

この記事を共有する