PSUを選ばない過熱保護、Corsairが投じる25ドルの解
12V-2x6コネクタが燃える話は、もう「またか」のレベルにきている。Corsairが新たに投入したThermalProtectケーブルは、PSUを問わずに過熱を検知してGPUを止める。いまの業界対策の中で、何が違うのか。
ケーブル単体で完結する過熱保護
Corsairが2026年4月28日、新型の16ピンGPU電源ケーブル「ThermalProtect PCIe 5.1 600W 12V-2x6 Cable」を発表した。価格は24.99ドル(約3,950円)、長さは650mm、ブラックとホワイトの2色展開だ。
このケーブルが他社の対策製品と決定的に違うのは、OTPをケーブル内に内蔵した点にある。コネクタから30mm離れた位置にあるケーブルコム(束ねるカバー)の中にOTP(Over Temperature Protection、過熱保護)回路が入っており、ケーブルの温度を常時監視する。異常な熱が検知されると、GPUを直接シャットダウンさせて損傷を防ぐ仕組みだ。
設定は不要、ソフトウェアもいらない。差せば動く。Corsairによれば、ネイティブ12V-2x6コネクタを持つ電源ユニットなら、メーカーを問わず使える。PSU非依存のOTPケーブルは業界で初めての領域だ。
「燃えるコネクタ」をめぐる対症療法の系譜
12V-2x6(旧称12VHPWR)の発火問題は、RTX 4090時代から続く慢性疾患だ。RTX 50シリーズで規格が改訂されても、症状は止まっていない。RTX 5090の焼損事例は本年に入っても継続的に報告されており、AMDのRadeon RX 9070 XTのSapphire Nitro+モデルでも同様の事例が確認された。
NVIDIA側がコネクタ仕様を抜本的に変えれば済む話だが、その動きはない。各PCパーツメーカーが、それぞれの土俵で「自衛策」を出してくる構図がここ1年で固まってきた。
主要メーカーの対策を並べると、アプローチの違いが見えてくる。
各社の保護機構と縛りの違い
ASRockは2025年8月、L字型コネクタを採用した「CB-12V2X6L600W」ケーブルを投入した。コネクタ部にNTCセンサー(温度で抵抗値が変わる素子)を仕込み、温度信号をPSUに送って制御する設計だ。価格は約40ドル。ただし機能を有効化できるのは自社PSU限定(TaichiまたはPhantom Gaming系列)で、他社PSUでは温度監視が効かない。実際に2025年末、シャント抵抗を改造して1,350W近くを引き出していたRTX 5090をこのケーブルが救った事例が報告されている。
MSIはCES 2026で「GPU Safeguard / GPU Safeguard+」を発表した。こちらはケーブルではなく、PSU内部で各ピンの電流を個別に監視するアプローチを採る。シャント抵抗で電圧降下を計測し、ADC(アナログ・デジタル変換器)でデジタル化する仕組みだ。電流のアンバランスや瞬時の過電流を検知すると、ブザー(とMSI Centerのポップアップ)で警告を出し、3分後に強制的に画面をブラックアウトさせる。MPG Ai1600TS PCIE5などの上位機にGPU Safeguard+、MAG A1200PLS PCIE5などの下位機にGPU Safeguardを搭載する2層構成だ。
Gigabyteも2026年4月、ケーブル内に温度センサーを埋め込む「T-Guard」を発表した。閾値を超えるとGPUへの電力供給を遮断する仕組みで、対応PSUはGAMINGシリーズの1000GM PG5、850GM PG5、750GM PG5の3モデル(および各Iceエディション)。ソフトウェアを介さず、ハードウェアだけで完結する。
| Corsair | ASRock | MSI | Gigabyte | |
|---|---|---|---|---|
| 監視位置 | ケーブル | ケーブル | PSU内 | ケーブル |
| 対応PSU | メーカー 問わず |
自社のみ | 自社のみ | 自社のみ |
| 動作 | GPU 停止 |
PSU 停止 |
警告後 画面遮断 |
GPU 電源遮断 |
| 価格 | 24.99ドル | 約40ドル | PSU内蔵 | PSU内蔵 |
| 発表時期 | 26年4月 | 25年8月 | 26年1月 | 26年4月 |
そしてCorsairのThermalProtectが今回、メーカー横断の路線で参入してきた。
整理すると、ASRock = 自社PSU専用 / MSI = 自社PSU専用(PSU側で電流監視)/ Gigabyte = 自社PSU専用(ケーブル側で温度監視)/ Corsair = どのPSUでも動く(ケーブル側で温度監視・GPU停止)。
ThermalProtectはケーブル内のOTPが直接GPUに停止信号を出す設計のため、PSU側の特別な対応がいらない。ここが汎用性のキモだ。
25ドルの安心料は妥当か
価格の比較も興味深い。ASRockのケーブルが約40ドル、Thermal GrizzlyのWireViewが約56ドル、WireView Pro IIが約199ドル。Corsairは 24.99ドル で投入してきた。
もちろん、機能の幅が違う。WireView Pro IIはOLED画面で電流をリアルタイム表示し、ブザー警告まで備える。MSIのGPU Safeguard+はPSUとソフトの両側で監視する。ThermalProtectは「異常を検知してGPUを止める」という単機能に絞り込んだ分、価格を抑えたとも言える。
ただ、シンプルさには別の意味もある。OTPがケーブルの中に組み込まれた「外付けコントローラのない」設計は、ケーブルマネジメントの観点でも優位だ。コネクタの確実な装着は、グレーのデュアルトーン(2色配色)チップで判別する。差し込みが甘いと色の境界がズレて見える仕掛けで、これはMSIやASRockがすでに採っている方式と発想が近い。
それでも残る「根本問題」
ここで一度、立ち止まりたい。
なぜ、ユーザーが追加の25ドルや40ドルを払ってまで、自分のGPUを守らなければならないのか。
12V-2x6コネクタの発火リスクは、本来GPU側の設計で解決すべき問題だ。Actually Hardcore OverclockingのBuildzoid氏が指摘するように、6本のワイヤを複数のシャント抵抗で個別監視する旧来の設計に戻せば、1本のピンに電流が集中する事態は検知できる。実際、RTX 30シリーズまではこの方式で大きな事故は起きていなかった。
それでもNVIDIAはコネクタを維持し続けている。結果として、メーカー各社が「NVIDIA対応」を名目にしたPSUやケーブルを投入し、ユーザーが追加コストを払うサイクルが定着しつつある。GPU価格が上がる中で、周辺の安全装備にもじわりとコストが乗る。これは間接的なGPUの値上げに他ならない。
Corsairの今回の製品は、その流れの中で見れば「より手頃で、より汎用的な対症療法」だ。価格と汎用性の両面で、現時点で最もアクセスしやすい防衛手段の一つになる可能性は高い。一方で、こうした製品が売れるたびに、コネクタ規格そのものを問い直す圧力は弱まっていくのかもしれない。
ThermalProtectは2年保証つきで、Corsair公式ストアと正規販売網ですでに販売が始まっている。日本での販売価格と入荷時期は、現時点でCorsair Japanからの正式アナウンスを待つ段階だ。
数十万円のRTX 5090を持つユーザーにとって、25ドルは確かに安い保険かもしれない。だが、その保険を必要にした側がいまだに沈黙していることのほうが、よほど大きな問題だ。
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