暗号資産で100万人が38億ドル損失との分析 トランプ氏関連収益6.36億ドルと比較
現職の米国大統領が発行したミームコインの決算書が出た。ブロックチェーン分析企業Nansenのデータが示す数字は、98万8905人の損失と、発行者の利益が同じ商品の上で逆方向に動いた記録だ。
数字の全体像
Nansenが6月末時点のブロックチェーン取引を追跡した結果、$TRUMPを購入した148万ウォレットのうち、98万8905ウォレットが損失を記録した。購入者の約3分の2にあたる。損失の合計額は38億1000万ドル(約6100億円)。
| 損失側 | 利益側 | |
|---|---|---|
| ウォレット数 | 98万8905 | 49万2285 |
| 合計金額 | 38.1億ドル | 40.4億ドル |
| 1件あたり平均 | 約3850ドル | 約8210ドル |
| 購入者に占める割合 | 67% | 33% |
一方、利益を得た49万2285ウォレットの合計は40億4000万ドル。この利益の大半は、トークンが1ドル未満だった発売直後の数時間に参入した買い手と、自動売買プログラムを使う専門トレーダーに集中している。
$TRUMPは7月5日時点で1.71ドル前後を推移しており、2025年1月のピーク値75.35ドルから97%下落した。
このデータが公開されたタイミングは偶然ではない。6月30日、政府倫理局がトランプ大統領の2025年資産公開書類(927ページ)を公表した。そこに記された暗号資産関連の収入が、投資家の損失と対照をなしている。
トランプ氏の収入構造
資産公開書類によれば、トランプ大統領は2025年に暗号資産関連で14億ドル超の収入を得た。不動産、ゴルフ場、ライセンス事業を上回り、暗号資産が最大の収入源になった大統領は史上初めてだ。
内訳を見ると、$TRUMPミームコインに関連する収入は約6億3500万ドル。トランプ・オーガニゼーション傘下のCIC Digital LLCが、トークン発行主体であるCelebration Coinsとのライセンス契約に基づいてロイヤリティとして受け取った。
$TRUMPは、価格の上下に関係なく取引ごとに手数料が生じ、CIC Digital LLCとFight Fight Fight LLCに流れる設計になっている。トランプ大統領自身がTruth Socialで繰り返し購入を促していた。価格が97%下落した現在も、取引がある限り手数料は発生し続ける。
World Liberty Financialからの収入も5億ドル超にのぼる。WLFIトークンを公開販売で購入した2万6663ウォレットのうち、Nansenの追跡では85%が含み損を抱えている。WLFIは0.056ドル付近で取引されており、ピークから80%超の下落だ。
「合法だ」「問題はない」
「違法なことは何もない。問題もない」(トランプ大統領のCNBCへの発言)
ホワイトハウス報道官アンナ・ケリー氏も、利益相反の指摘を否定した。
「トランプ大統領は米国を暗号資産の世界的な首都にした。大統領とその政権が取るすべての行動は、米国民の最善の利益のために行われている」(ケリー報道官の声明)
確かに違法ではない。米国の連邦法では大統領と副大統領は利益相反に関する規制の適用対象外だ。トランプ大統領は就任前に資産を売却せず、ブラインドトラストにも移していない。
しかし「違法ではない」ことと「問題がない」ことは、この文脈では同義にならない。2025年7月にトランプ大統領が署名したGENIUS法は、ステーブルコインの連邦規制枠組みを初めて整備した。だがミームコインへの消費者保護規定は含まれていない。SECは2025年2月、ミームコイン取引の監視を事実上停止している。大統領が自らの暗号資産事業から14億ドルを得ながら、その事業を規制する立場にある。規制の空白は、大統領の利益と一致する方向に広がっている。
ニコラス・ピント氏の場合
$TRUMPに約50万ドルを投じたニコラス・ピント氏は、その約半分を失った。2024年にトランプ氏に投票した支持者でもある。
「大統領の立場を利用して通貨を発行している。国民の目には信頼できる人物に見える。信じられないことだ。合法的な詐欺に近い」(ピント氏のニューヨーク・タイムズへの発言)
ピント氏は2025年5月のバージニア州でのガラディナーにも、2026年4月のマール・ア・ラーゴでの昼食会にも参加している。コインへの失望を口にしながら、大統領との接点は手放さない。
集団訴訟の可能性
ニューヨーク大学ロースクールのスティーブン・ギラーズ(Stephen Gillers)名誉教授(法律倫理)は、投資家がトランプ大統領とその関係者を相手に集団訴訟を起こす可能性を指摘している。SECが2025年2月にミームコイン取引の精査を行わない方針を表明したことで、連邦レベルの執行機関からの介入は期待しにくい。民事訴訟の道までは閉ざされていない。
$TRUMPの公式サイトには免責事項がある。トークンは「支持の表現として意図されたもの」であり「投資機会として意図されていない」という文言だ。ギラーズ氏は、この免責事項が将来の法的異議申し立てを退けるには不十分だとの見方を示した。
ジリブランド議員の法案
7月3日、ニューヨーク州選出のキアステン・ジリブランド(Kirsten Gillibrand)上院議員(民主党)は、選挙で選ばれた公務員とその配偶者がミームコインを含むデジタル資産を発行・スポンサーすることを禁止する法案を改めて提案した。
この法案はトランプ大統領だけでなく、メラニア・トランプ大統領夫人にも適用される。夫人は独自のミームコインを発行し、NFTなどのデジタルコレクティブルから600万ドルの収入を報告している。
ジリブランド議員は2025年のGENIUS法審議の際にも、トランプ氏の暗号資産事業に関する条項を盛り込むよう主張していた。当時、その条項は「法案が過度に長くなる」として除外された。トランプ大統領はGENIUS法に署名し、法律は成立した。ミームコインに関する規定は入らなかった。
ジリブランド議員は、上院で審議中のデジタル資産市場構造法案(CLARITY法案)にも倫理条項がなければ可決させないと表明している。ただ、上院の審議日程は2026年中間選挙を控えて残り少ない。
98万8905という数字が語ること
$TRUMPの損失は、ミームコイン市場全体の崩壊によるものではない。Nansenのデータが示す下落は、他のアルトコインが値を戻していた期間に起きた、$TRUMP固有の現象だ。
148万のウォレットが参加し、98万8905が損をした。利益を得た約50万のウォレットが手にした40億ドルの大半は、一般投資家が参入する前に退出した初期トレーダーに渡った。一般投資家が後から入り、初期参入者の利益確定を資金で支える。この構造はミームコイン市場で繰り返されてきたが、$TRUMPが異質なのは、発行者が現職の米国大統領であり、自ら購入を呼びかけ、その取引手数料で6億ドル超を受け取った点にある。
ギラーズ氏が指摘する集団訴訟が現実になるかはわからない。法廷で争われるとしても、トランプ大統領の在任中は提訴が困難になる。98万8905という数字は、裁判所ではなくブロックチェーン上に記録されている。消えることはない。