インテル株4月114%急騰の中身、ファンダ無視で過熱する祝祭
インテル株が4月に114%も上昇し、時価総額は4700億ドルを突破した。ナスダック上場55年で最高の月だが、その熱狂はファンダメンタルズから明確に乖離しはじめている。
インテル株が4月に114%も上昇し、時価総額は4700億ドルを突破した。ナスダック上場55年で最高の月だが、その熱狂はファンダメンタルズから明確に乖離しはじめている。
55年で最高の月、しかしアナリスト目標株価は3割下方に置かれている
インテル株が、ナスダック上場55年の歴史で最高の月を記録した。
CNBCがケイティ・タラソフ(Katie Tarasov)記者の署名で報じたところでは、4月の上昇率は114%、時価総額は4700億ドル(約73兆7900億円)を超えた。これまで最高の月だった1973年7月の70%上昇を、半世紀ぶりに塗り替えた数字だ。
ただ、株価が新高値を取ること自体と、その上昇が会社の実力に見合っているかは、別の話だ。アナリスト各社の集計を見ると、平均目標株価は60ドル台から70ドル台にとどまり、4月30日終値の94.48ドルからは3割前後の下方乖離が出ている。市場が突き放しているのではなく、株価がプロの見立てを置き去りにして上に走った、という構造である。
「過去最高」という見出しが流れるとき、人は数字に目を奪われがちだ。だが本当に問うべきは、その上昇を支える根拠が55年分の重みを背負えているかという点である。
24%急騰の起点となった決算と、市場の反応
直近の上昇の起点は、4月23日に発表された2026年第1四半期決算だ。売上高は前年同期比7%増の135億8000万ドル(約2兆1300億円)で、市場予想の124億ドル前後を大きく上回った。調整後EPSは0.29ドルと、コンセンサスのわずか1セントを29倍も超える結果になった。
翌24日の株価は約24%上昇し、2000年以来初めて終値ベースで最高値を更新した。1日の上げ幅としては1987年以来の規模だ。
ここで一つ、釘を刺しておきたい数字がある。EPSの予想超過倍率29倍は、決算が想定外に強かったというより、アナリスト予想自体が極端に低く置かれていたことの裏返しでもある。インテルの過去2年は赤字決算が続き、市場は「黒字化できれば御の字」という前提で見ていた。低すぎる予想を踏み越えた喜びと、構造的な復活は、別の事象として切り離して捉える必要がある。
それでも数字はインパクトを持って独り歩きする。AI需要の本格化を前に「CPUがボトルネックになる」というNVIDIAの3月の発言と相まって、市場はインテルに復活の物語を見出した。
CEOリップブー・タンが語る「AI時代のCPU」、デマンドが供給を超える
3月にCEOへ就任したリップブー・タン(Lip-Bu Tan)は、決算説明会で「CPUがAI時代の不可欠な基盤として再び中心に戻りつつある」と述べ、データセンター向けCPUの需要が供給を上回っていると明らかにした。
タン氏は元ケイデンス・デザイン・システムズCEOで、2022年からインテルの社外取締役を務めた人物だ。CEO就任は前任のパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)が2024年12月に退任した3か月後で、ゲルシンガー時代の積極投資路線を巻き戻す役回りを担っている。
The CPU is reinserting itself as the indispensable foundation of the AI era.(CPUがAI時代の不可欠な基盤として再び中心に戻りつつある/リップブー・タン氏、2026年Q1決算説明会)
エージェンティックAIの普及で、推論や前処理を担うCPUの需要が再評価されている。Bank of AmericaはCPU市場が2030年までに倍増以上に拡大すると予測しており、インテルにとっては10年単位で見た「市場拡大の追い風」だ。
ただし、需要の追い風と、その需要を取り切れる供給能力があるかは別の問題である。インテルの18Aプロセスはアリゾナ新工場で歩留まりが改善しつつあるとされるが、量産規模で外部顧客のチップを継続供給できるかは、ここから先の話だ。
記事の中盤に置かれた、CNBC自身の警告
ここからが、見出しだけを追うと見落とす本記事の核心だ。
CNBCはタラソフ記者の筆で、こう書いている。インテルの財務指標は回復の兆しを見せているが、投資家はファンダメンタルズの先を行きすぎている、と。直近四半期の売上は7%増にとどまったうえ、その前の7四半期のうち5四半期は減収だったという文脈も併記されている。
つまり、これは祝勝報道ではない。
派手な見出しの裏で、CNBCは明確に冷や水を浴びせている。「祝祭の足元で根拠が薄い」という構造的な警告が、この記事の本当の主題なのだ。
インテルの財務指標は回復の兆しを見せているが、投資家はファンダメンタルズの先を行きすぎている。直近四半期の売上は7%増だが、その前の7四半期のうち5四半期は減収だった(CNBC記事の要旨)
Moor Insights & Strategyのパトリック・ムーアヘッドCEOも、CNBCの取材に対し興味深いコメントを残している。インテルのバリュエーションのうち約75%はファウンドリ事業の将来性に依存しており、その約束はまだほとんど実現していない、というのだ。
75% of their valuation is about foundry and the promise of foundry, which they have not delivered on yet.(バリュエーションの75%は、ファウンドリ事業と、彼らがまだ実現していないファウンドリの約束に賭けられている/パトリック・ムーアヘッド氏、Moor Insights & Strategy CEO)
ファウンドリの現実、唯一の外部コミットメントはイーロン・マスク
ファウンドリ事業の苦境は、株価の祝祭からは見えにくい。
タン氏は2025年7月に従業員の15%を削減し、ドイツとポーランドの工場計画を中止した。オハイオ州の新工場は当初の予定から大幅にずれ込み、本格稼働は2030年まで先送りされた。「過去数年、当社は需要が伴わないまま、過剰に、急ぎすぎる投資をしてきた」。タン氏は人員削減の社内メモでそう記している。
長年のTSMC顧客たちはインテルファウンドリへの切り替えに依然として慎重で、外部の大口顧客はほぼついていない。タン氏は1月、次世代の14Aノードについて「複数の顧客が積極的に評価している」と述べたが、評価と発注は違う。
そんな中、唯一の大型外部コミットメントとして報じられたのが、イーロン・マスク(Elon Musk)が立ち上げるテキサス州オースティンの「Terafab」プロジェクトだ。インテルは4月、SpaceX、xAI、テスラ向けの「超高性能チップを大規模に設計・製造・パッケージング」する協業を発表した。テスラのQ1決算説明会でマスクは、インテルの14Aプロセスを使うと表明している。
ムーアヘッド氏は、この発表が「内容は曖昧でも、株価を絶対的に跳ねさせた」と述べた。CNBCの記事は、マスク案件の中身が固まる前に株価が反応した点を、淡々と書き残している。
復活の兆しと、まだ何も確定していない発表が同列に語られて株価が動く。これは2021年から2022年のITブームで何度も見た景色でもある。
米政府10%出資という「政治的な追い風」、その重さと脆さ
もう一つの上昇要因は、米政府の関与だ。
トランプ政権は2025年8月、CHIPS法に基づく89億ドルの助成金を株式と引き換える形で、インテル株の10%を取得した。今や政府はインテル最大の株主であり、4月時点でその保有分の評価額は400億ドル(約6兆2800億円)を超える。
トランプ大統領は4月29日にTruth Socialで、政府保有のインテル株が短期間で巨額の利益を生んだと自賛した。
I am responsible for making the United States of America over 30 Billion Dollars in the last 90 days on that stock alone.(私の働きで、合衆国は90日間で、インテル株だけで300億ドル以上を稼いだ/ドナルド・トランプ大統領、Truth Social投稿)
政治的な追い風は確かに本物だ。
ただ、政府が筆頭株主であることは諸刃の剣でもある。インテルが純粋な民間企業として顧客の信頼を取り戻すうえで、「政府の支援を受けた企業」というラベルがどう作用するかは未知数だ。TSMCの顧客がインテルファウンドリへ切り替える際、地政学的・政治的なリスクをどう織り込むか。これは数年単位で答えが出る問いである。
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114%という数字は、インテルが半世紀かけて築いた歴史を1か月で塗り替えた。だが、その塗り替えを支えているのは、まだ実現していない約束と、政治の追い風と、決算が予想を大きく上回ったという一度きりの驚きだ。
インテルが本当に復活したと言えるのは、TSMCの顧客がインテルファウンドリで2世代目のチップを発注したときか、政府保有株が市場で売り抜けられた後にも株価が持ちこたえたときだろう。今はまだ、祝祭の真ん中にいる。
55年で最高の月だったことは、もう変わらない事実だ。問題はその記録が、来年の振り返り記事のなかでどんな注釈つきで語られるかである。
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