壊れたRTX 5090が27万円、返品不可の博打販売

仏LDLCが故障した RTX 5090を1499ユーロ(約27万5000円)から販売している。新品の半額以下に見えるが、修理できなければ全額消える。欧州GPU市場が踏み込んだ新しい段階を、この一覧ページが浮き彫りにする。

壊れたRTX 5090が27万円、返品不可の博打販売
LDLC

仏LDLCが故障した RTX 5090を1499ユーロ(約27万5000円)から販売している。新品の半額以下に見えるが、修理できなければ全額消える。欧州GPU市場が踏み込んだ新しい段階を、この一覧ページが浮き彫りにする。


「故障品」というカテゴリで売られるフラッグシップGPU

LDLCの「Hors service(故障品)」セクションに、RTX 5090が2モデル並んでいる。ASUS TUF Gaming RTX 5090が1499.95ユーロ、MSI RTX 5090 Ventus 3X OCが1699.95ユーロ。仏メディアoverclocking.comが29日にこの一覧を取り上げ、英語圏でも翌30日には主要テックメディアが追随した。

LDLCの商品説明はこう書く。「このカードは、前の顧客への輸送中に発生した物理的損傷により、故障品として販売されている。動作せず、現状では使用できない」。さらに「製品の非機能性は既知かつ明確に告知されており、いかなる返品・返金も受け付けない」と続く。買った瞬間に、すべての結果が買い手の手に渡る。

返品不可の故障GPUを、新品RTX 5090(同じLDLCで3249ユーロから)の半額以下で買えるという話だ。一見すると破格だが、このカードたちの中身を、買う前に確かめる手立てはほとんどない。買い手の側に判断材料が乏しい、非対称な取引といえる。

何が壊れているかは、買うまでわからない

LDLCが提示する情報は限定的だ。「このカードは、前の顧客への輸送中に発生した物理的損傷により、故障品として販売されている。完全な状態で分解されておらず、すべての構成部品(GPU、メモリなど)が揃っている。損傷が発生する前にテスト済みで動作していた。損傷は輸送に関連するもののみで、PCB破損、衝撃、変形などが含まれる可能性がある」。

裏を返せば、PCBがどう割れているのか、どの部品が物理的に壊れているのかは、開けてみないとわからない。LDLC自身もまだ分解していないと明示しており、写真も汎用的なメーカー画像が並ぶだけで、損傷部位の接写は提供されない。

商品ページの技術サービス情報欄には、製品の非機能性が既知かつ明確に告知されているため、いかなる返品も返金も受け付けないと明示されている。LDLC自身がこの告知をもって、返金請求の余地を取引前に閉じる構造だ。

つまり買い手は、5分のはんだ付けで直る軽傷なのか、PCBが致命的に砕けているのかを判別できないまま、1499ユーロを賭けることになる。掛け金としては重すぎるガチャだ。

半額は本当に半額か

「半額以下」という見え方の背景には、欧州GPU市場の異常な高騰がある。

2026年初頭の欧州市場では、RTX 5090の実勢小売価格が心理的節目の 3000ユーロ を超えた。価格集計サイトGeizhalsによれば、比較的「手頃」とされていたバージョンは販売リストから完全に消え、MSI RTX 5090 Ventus 3X OCは3150ユーロから、Gigabyte WindforceとASUS TUF Gamingはそれぞれ3300ユーロ、3450ユーロからという値付けになっている。NVIDIAが当初示した推奨価格はとうに置き去りで、現在の実勢価格はAmazon EU平均でも3700ユーロ前後にまで上振れしている。

一方、日本での新品RTX 5090は40万円台後半から取引されている。LDLCの故障品1499ユーロを単純換算すると約27万5000円。日本の最安帯と比べても4割ほど安いが、これは「正常に動作する」前提が成立した場合の話だ。動かなければ27万5000円は消えるし、修理を業者に出せば追加で数万円が乗る。

仏overclocking.comの記事は「LDLCはコンピューター版のギャンブルを発明した」と締めくくった。皮肉まじりだが、状況の本質は捉えている。

背景にあるのはDRAM危機

なぜ「壊れたGPU」を売るカテゴリがいま登場するのか。直接の引き金はLDLCの判断だが、市場の土壌は明らかに偏っている。

DRAM価格は2025年後半から異常な水準にある。TrendForce による2026年第2四半期の予測では、DRAM契約価格が前期比で大幅に上昇し、サーバー向け需要を優先する傾向が続く見通しだ。GDDR7(GPU向け高速メモリ)も例外ではなく、HBMやサーバーDRAMとウェーハを奪い合う構造から、コンシューマーGPUへの供給は後回しにされやすい。

HBMはDDR5など汎用DRAMと同じウェーハを使うが、複数のダイを積層する構造のため、より多くのウェーハ面積を必要とする。AI向けの旺盛な需要がHBM生産を押し上げるほど、汎用DRAMやGDDR7など民生向けGPU部材の供給に圧力がかかる構図だ。

新品RTX 5090が手に入りにくく、入っても3000ユーロを超える。その状況下では、壊れたカードでも「修理できれば半額」という売り文句が成立する余地が生まれる。正常品の供給不足が、二次的な歪みとして故障品市場を浮上させた。

中国市場では、こうした ドナーボード(部品取り用基板)の流通がもともと存在していた。修理スキルを持つ層が、欠けたGPUコアやVRAMを移植して動かす世界だ。LDLCが提示しているのは、その文化を欧州の量販ルートに持ち込む実験ともいえる。

買い手は誰か、買ってよいのか

LDLCは商品説明で買い手を限定している。「この製品は、ボードを修理する、もしくは構成部品をリサイクルできる技能を持つ専門家、または個人のみを対象とする」。建前上、一般ゲーマーへの販売は想定されていない。

修理可能な故障と修理不能な故障の判別は、PCBを目視できない購入者にとって極めて困難だ。製造元の公式RMA(修理・交換窓口)も対象外で、買い手はLDLCの数行の説明文と汎用画像だけを頼りに、27万5000円から31万円相当の判断を下すことになる。

構造的に、これはB級電子機器マーケットや業者間取引の作法だ。それを大手リテールチェーンが正面から扱うことの是非は、消費者保護の観点で議論を呼びそうな段階に来ている。専門家を装ったエンドユーザーが手を出した場合、損失は本人が呑むほかない。

市場の体温計として

LDLCの「故障品」棚は、欧州GPU市場の異常を映す体温計のように見える。新品が3000ユーロを超え、それでも在庫が安定しない。中古市場では値崩れが起きにくく、修理ジャンクですら1500ユーロ帯で値が付く。新品優先の市場原則が、ハイエンドGPUでは崩れ始めている。

DRAMとHBMの構造的な逼迫は、TrendForceの予測通りなら2027年末まで続く。それまでの間、こうした歪みがどこまで広がるのか、欧州の小売店と消費者団体の判断を待つことになる。新品を買える前提そのものが、ハイエンドGPUでは揺らぎ始めている。


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