サムスン、ストライキ6日前に半導体生産を縮小
5月21日からの18日間ストライキを前に、サムスン電子が「緊急管理モード」に入った。日次損失は最大3兆ウォンに達する可能性があり、再稼働まで含めると影響は6週間に及ぶ。
6日前から始まる「ウォームダウン」
サムスン電子は5月11日、「ウォームダウン」と呼ばれる半導体減産措置に踏み切った。21日からの18日間ストライキを前に、新規ウェハ投入を絞り、フォトリソグラフィ・エッチング・洗浄工程の装置を順次スタンバイ状態に移す段取りだ。仕掛り中のウェハは安全な工程段階まで進めてから停止させる。
事実上の操業停止が「不可避」と会社が判断した結果だ。労組によれば5月14日時点で4万3286人がストライキ参加を申請し、目標の5万人に迫った。半導体(DS)事業部の全従業員の半数以上が抜けることになる。
「従業員の50%以上が不在の状態で、まともに動く工場はない」(業界関係者、ソウル経済日報の取材に対して)
通常の製造業ならスト当日から止めればよい。半導体は事情が違う。ライン全体が高度に自動化されているため、止め方一つで歩留まりが崩れる。スト1週間前から準備を始めないとダメージが最小化できない、と業界専門家は指摘する。
つまりストの被害は5月21日に始まるのではなく、すでに14日から発生している。
1日3兆ウォンという数字の重み
ソウル経済日報が伝えた損失試算は重い。完全停止した場合の1日当たり損失は最大3兆ウォン、日本円で約3150億円に達する見通しだ。部分稼働でも1兆ウォンを超える。
根拠は2018年に平沢キャンパスで起きた停電事故にある。当時、わずか28分の停止で約500億ウォンの被害が出た。1分あたり17億8000万ウォンの計算になる。8年経って人件費・材料費・電力料金が上がっており、専門家は当時より重い被害を想定している。
成均館大学のクォン・ソクチュン教授は、18日間のストライキだけで10兆ウォンから17兆ウォン(約1兆500億〜1兆7800億円)の直接損失を見込む。JPモルガンはさらに広く取り、人件費と生産混乱を含めて最大43兆ウォン(約4兆5100億円)の損失を予想した。
サムスン電子の今年のDRAM生産は予約契約済みで「完売」状態にある。ストで生産が止まれば、顧客は予定通りに供給を受けられない。
ここで効いてくるのが半導体産業特有の構造だ。ストが終わってもラインがすぐ動くわけではない。
18日間が6週間になる理由
KB証券のキム・ドンウォン・リサーチ本部長は最悪シナリオを描いた報告書を出している。18日間のストライキ後、自動化された生産ラインを再起動して正常化するには追加で2〜3週間を要する。スト前のウォームダウン期間も合わせると、サムスンの減産期間は実質6週間以上に伸びる。
復旧期間中に工場稼働率が50%にとどまった場合、追加で20兆〜30兆ウォンの被害が積み上がる可能性があるという。労組自身が「ストでサムスンに30兆ウォンの損失が出る」と威嚇しているが、業界の見立てではその倍以上に達するという計算になる。
これだけ大きな数字が並ぶと現実感が薄れるかもしれない。しかしストの本当の脅威は、損失額そのものではなく、その先にある。
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DRAMトップ陥落のリスク
去年第4四半期、サムスンは世界DRAM市場で36%のシェアを握り、32%のSKハイニックスを上回ってトップを奪還した。前年第1四半期にSKハイニックスへ明け渡した王座を、約1年がかりで取り返したばかりだ。
奪還の原動力は圧倒的な生産能力だった。Omdia(オムディア)によると、サムスンの今年のDRAM生産は約817万5000枚(ウェハ換算)で、SKハイニックスの639万枚を27.9%、マイクロンの360万枚を127%上回る。
ところがストと復旧で約1か月の生産が止まると、ウェハ生産は68万枚減る計算になる。SKハイニックスとの差は一気に縮まる。市場調査会社のTrendForceは、ストでグローバルDRAM供給の3〜4%、NAND供給の2〜3%が影響を受けると予測している。
問題は数字以上に信頼の損失だ。
顧客はSKハイニックスとマイクロンへ流れるか
AIサーバー向けの高帯域幅メモリ(HBM)と高容量サーバーDRAMは、納期遅延が許されない領域だ。データセンターを構築中のビッグテックにとって、メモリの到着が1か月ずれれば建設計画全体が後ろにずれる。
供給が不安定なサムスンに新規発注を続ける合理性はない。一度SKハイニックスやマイクロンへ切り替えた顧客は、戻ってきにくい。半導体の工程検証には莫大な費用と時間がかかるからだ。
ソウル市立大学のソン・ホンジェ教授(経済学部)は懸念事項を並べる。信頼資産の消失、スイッチングコストによる市場の永続的な喪失、AI半導体覇権競争での機会損失、中核人材の流出、そして「コリア・ディスカウント」の深化。
「一度離れた顧客は、戻ってくるのが難しい」
サムスンの半導体ビジネスはサプライチェーンの末端まで広い。1700社以上の素材・部品・装置パートナーがいる。サムスンが市場での地位を揺るがすと、稼働率の低下、雇用の減少、投資調整による雇用創出力の弱体化が連鎖する。
残された交渉の余地
5月13日未明、17時間に及ぶ2次事後調整は決裂した。労組側は営業利益の15%を成果給原資にすること、年俸の50%という現行の上限撤廃を制度化することを譲らず、会社側は経営実績連動の柔軟運用を主張して譲らなかった。
14日、サムスンは前提条件なしで土曜日(16日)に対話を再開する書簡を労組に送った。しかし超企業労組サムスン電子支部のチェ・スンホ委員長はこれを拒否し、交渉は6月7日のスト終了後に応じる意向を示した。
労組はスト計画を維持し、ストには5万人以上の組合員が参加する見込みだ。雇用労働部のキム・ヨンフン長官は緊急調整権の発動を見送り、対話による解決を促している。
ウォームダウンが進む工場では、装置が一つずつ停止していく。実害はすでに発生している。残るのは、サムスンがどこまで市場の立ち位置を守れるかという問いだけだ。
参照元
- The Korea Herald - Samsung enters emergency mode ahead of chip union strike
- Seoul Economic Daily - Samsung Cuts Wafer Input as Strike Threatens Memory Lead