FSR元リード告発、AMD人材がNVIDIA・Intelへ
FSR 4の停滞はなぜ起きているのか。元リードの告発がRedditで拡散し、GPUOpen創設者を含む主力がNVIDIAとIntelへ流れている実態が見えてくる。
FSR 4の停滞はなぜ起きているのか。元リードの告発がRedditで拡散し、GPUOpen創設者を含む主力がNVIDIAとIntelへ流れている実態が見えてくる。
元FSRリードがDiscordで語った「見えない崩壊」
FSR 4がRDNA 4世代にしか提供されず、古いGPUへの対応が進まない──この長年の謎に、元開発リード自身の口から一つの答えが示されつつある。AMDで約9年間にわたりFSR 2・3・4を率いたコリン・ライリー氏(Colin Riley、オンラインではDomipheus名義)が、Discordで「FSRチームの主要メンバーの多くがNVIDIAまたはIntelへ移った」と明かした。このやり取りのスクリーンショットがReddit「r/radeon」に投稿され、一夜で広がった。
Domipheus, ex-FSR 4/3/2 lead, claims most members of GPUOpen/FFX teams went to NVIDIA and Intel
by u/AthleteDependent926 in radeon
ライリー氏は2025年4月にAMDを退社し、英国エディンバラのソフトウェアスタートアップ、JECO(ジェコ)のCTOを務めている。Domipheus Labsで公開している自身の経歴ページでは、FSR 1.0から3.1、そしてFSR 4までの主要リリースに関与していたことが確認できる。つまり、この発言は元同僚の動向を内側から見続けてきた人物による、かなり具体的な観察だと考えていい。
ポイントは、ライリー氏本人ではなく彼が名指しした人物たちの行き先だ。
FSR 4のRay Regeneration(レイの再生成)を実装した人物はNVIDIAへ移籍した。GPUOpenを最初に立ち上げたディレクターはIntelへ。FSR 4リリース時のマネージャーもNVIDIAへ向かった。
これが一つの企業で数ヶ月〜1年の間に起きた動きだとすれば、単なる通常の転職率では説明がつかない規模だと思う。
GPUOpen創設者の離脱が意味するもの
なかでも象徴的なのはGPUOpen創設ディレクターの流出だろう。GPUOpenはAMDが2016年に立ち上げた開発者向けイニシアチブで、シェーダーやレンダリング関連のライブラリをオープンソースで提供することで「オープンなAMD」というブランドの核を担ってきた。FidelityFXシリーズはその旗艦プロダクトだ。
その立ち上げ人物がライバルのIntelへ向かった事実は、単に一人のエンジニアが辞めた以上の意味を持つ。AMDが長年かけて築いた「オープンソース志向の会社」というアイデンティティそのものが、人の形で競合に流れているとも読める。
Intelは近年、XeSSの更新を積極的に続け、Arcシリーズの初代Alchemist世代以降もドライバ改善を地道に積み重ねてきた。その開発文化と、GPUOpen的な発想には相性の良さがある。
「問題はエンジニアではない」
ライリー氏はRedditに流出した発言とは別に、X上でも踏み込んだ発言を残している。FSR 4のINT8版をRDNA 2・3世代で公式解禁しない理由を問われた別のやり取りで、彼はこう書いた。
問題はエンジニアじゃない。ソフトウェアもエコシステムもマインドシェアもゲーム技術も理解していないリーダーシップの問題だ。基本の話で、変わる気配もない。
これは、元上層のエンジニアが外部から放った一撃として相当に重い。FSR 4のINT8版はRDNA 2/3対応のDLLファイルが既に流出しており、技術的には動く証拠が示されている。それでもAMDは公式対応を出さない。理由は技術ではなく経営判断だと、内部を知る人物が明言した形になる。
もっとも、ライリー氏の発言は「推測」ではなく「自分が見てきた範囲」という限定がついている点は押さえておきたい。AMD全体の人材流出を統計的に示したわけではなく、FSR・GPUOpen・FidelityFX周辺の観察だ。
チームのモラルが崩れた「ある時点」
ライリー氏のコメントでもう一つ印象に残るのは、チームの空気に言及した一節だ。
FSRチームには素晴らしいモラルがあり、定着率も何年も良好だった。ある時まで、は。
「ある時まで、は」の部分には、個々の事情を語らずとも何かが崩れたことを示すニュアンスが漂う。NVIDIAはDLSSで先行し、RTX 20シリーズにまで遡って最新のアップスケーリング技術を提供することで「古いGPU所有者も見捨てない」という姿勢を貫いている。対してAMDはRDNA 4以外を切り捨てる構えだ。
エンジニア視点で見れば、自分たちが書いたコードがユーザーの手元に届かない状況は、積み重なるとかなりのダメージになるのではないか。ライリー氏の「リーダーシップが理解していない」という表現は、そうした現場感覚の延長にあるように読める。
次世代「FSR Diamond」が抱える空白
AMDは既に次世代アップスケーリング技術FSR Diamondの開発を進めており、Microsoftの次世代Xbox(コードネーム「Project Helix」)にカスタムAMD SoCとして採用されることも発表されている。コンソール戦略には明確にコミットしている格好だ。
ただ、そのコンソール偏重こそがPCユーザーの不満の原点でもある。FSR 4.1がPS5 ProのPSSR(PlayStation Spectral Super Resolution)と同じニューラルネットワーク基盤で構築されたことはAMD自身が認めている。つまり、ソニー向けのビジネスが優先され、PC側のRadeonユーザーは後回しにされているという構図が見える。
その土壌から主力エンジニアが去っていく状況で、FSR Diamondを担う「次の世代」は誰が育てるのか。人材流出は短期のリリースより、2〜3年先のロードマップに効いてくる類の損失だ。
AMDに残された選択肢
Reddit上での議論は「陰謀論」から「単なる経営ミス」まで振れ幅が大きい。ソニーとの契約上、INT8版を公開できないという見方もあれば、RDNA 4の販売を伸ばすための意図的な囲い込みだとする声もある。どちらも現時点では確証がない。
確実に言えるのは、沈黙が信頼を消耗させているという一点だ。NVIDIAもMulti-Frame Generationで旧世代を切り捨てて批判されたが、少なくとも「なぜそうするか」の説明は出している。AMDが沈黙を続ければ続けるほど、憶測が事実の代わりに流通してしまう。
Radeonユーザーは数百万人規模で存在する。彼らの声に向き合わないまま次世代だけを語る戦略が、長期的に何を失わせるのか。退社した元リードの告発は、その問いを読者の手元に残したと思う。
参照元
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