ソニー、購入済み映画551本を削除へ。返金なし

ソニー、購入済み映画551本を削除へ。返金なし
Sony

PS Storeで「購入」した映画が、9月1日に消える。ソニーが英国と欧州のPlayStationユーザーに送った通知は、デジタルコンテンツの「購入」がそもそも何だったのかを突きつけている。


「購入済みコンテンツは削除されます」

ソニーは2026年6月下旬、英国および欧州のPlayStationユーザーに対し、スタジオカナル配給の映画・テレビ番組551本を2026年9月1日付でライブラリから削除すると通知した。対象にはターミネーター2、トータル・リコール、マルホランド・ドライブ、ブリジット・ジョーンズの日記、パディントン、パンズ・ラビリンスといった作品が含まれる。

通知にはこう書かれている

「2026年9月1日より、コンテンツライセンス契約により、以前ご購入いただいたスタジオカナルのコンテンツにアクセスできなくなり、ビデオライブラリから削除されます」(ソニーのユーザー向け通知)

返金には一切触れていない。ダウンロードして保存する手段もない。購入したコンテンツが、一方的に、消える。

米国のユーザーには影響がない。英国と欧州だけだ。同じコンテンツ、同じ「購入」ボタン、同じPlayStationプラットフォームでありながら、住んでいる場所によって結果が変わる。

日本も無関係ではない。国内のPS Storeでは2024年8月末に、購入済みビデオコンテンツの一部がライブラリから削除されている。「Stand By Me ドラえもん」が対象に含まれていた。PlayStation公式サイトの告知ページには、その通知が今も掲載されている。

繰り返される削除

ソニーがPlayStation Storeの購入済みコンテンツを削除するのは、今回が初めてではない。

2022年8月31日、ドイツで314本、オーストリアで137本のスタジオカナル作品がライブラリから削除された。文面もほぼ同じだった。「コンテンツプロバイダーとのライセンス契約の変更により」。返金なし。

2023年には米国でディスカバリーのテレビ番組を購入済みユーザーのライブラリから削除する予定だった。1,300シーズン以上が対象とされたが、こちらはライセンス更新により撤回された。

ドイツ、オーストリア、日本、そして英国と欧州。ソニーのデジタルストアで「購入」した映像コンテンツは、ライセンス契約が切れれば消える。それが仕様だ。

「購入」の正体

PS Storeには「購入」と「レンタル」のボタンが並んでいた。2つの選択肢を提示された消費者が「購入」を選んだとき、そこに期待した意味は明白だろう。自分のものになる。いつでも観られる。それが「買う」の意味だと、日常の感覚では疑いようがない。

ソニーの利用規約は、その感覚を正面から否定している。

PlayStationの利用規約(セクション10.1)にはこう書かれている。「"所有"、"購入"、"販売"、"購入する"といった用語の使用は、コンテンツ、データ、ソフトウェア、その他の知的財産権がSIE、その関連会社、またはそのライセンサーからユーザーまたは第三者に移転することを意味するものではなく、また暗示するものでもありません」。セクション10.2は、すべてのコンテンツが「非独占的かつ取消可能なライセンス」として提供されると定めている。

つまり、「購入」ボタンの法的な意味は「期限不定のレンタル」だった。「レンタル」ボタンとの違いは、期限があらかじめ決められているかどうかだけで、取り消される可能性は同じだ。

守られなかった約束

ソニーは2021年8月31日にPS Storeでの映画・テレビ番組の販売とレンタルを終了している。ストリーミングサービスの普及を理由に、自社ストアでの映像コンテンツ提供を打ち切った。

そのとき、SIEのビデオビジネス責任者ヴァネッサ・リー氏はこう述べている。「購入済みのビデオコンテンツは、PS5、PS4、モバイル端末で引き続き視聴いただけます」。日本のPlayStation公式ブログにも同趣旨の告知が掲載された。

購入済みコンテンツは消えない。2021年時点では、そう約束されていた。

2022年のドイツ・オーストリアでの削除は、その約束からわずか1年後だった。

カリフォルニア州の回答

ソニーの過去の削除事例は、法律を動かした。

カリフォルニア州は2024年9月にAB 2426を成立させ、2025年1月1日に施行した。デジタル商品の販売者に対し、消費者が受け取るのが「ライセンス」であることを明示するよう義務づける法律だ。「購入」や「買う」といった表現を使うなら、それがライセンスであること、ライセンスの条件の一覧、アクセスが取り消される可能性があることを消費者に伝えなければならない。

法案を主導したジャッキー・アーウィン議員は、ソニーの2023年のディスカバリー番組削除予定を具体例として挙げている。

Steamはこの法律に対応し、購入時に「ライセンスの購入」であることを明示する表示を全世界で開始した。ソニーのPlayStation Storeがどのように対応したかは、今回の通知の文面を見る限り、判然としない。

PS Store映画コンテンツ削除の経緯
2021年8月
PS Store映画販売を終了
「購入済みは引き続き視聴可能」と約束
2022年8月
ドイツ・オーストリアで削除(1度目)
314本+137本のスタジオカナル作品。返金なし
2023年
米国ディスカバリー番組削除を予告(2度目)
1,300シーズン以上が対象。ライセンス更新で撤回
2024年8月
日本でも購入済みコンテンツを削除
「STAND BY ME ドラえもん」等が対象
2024年9月
カリフォルニア州AB 2426成立
デジタル商品の「購入」表記にライセンス明示を義務化
2025年1月
AB 2426施行
Steamがライセンス購入の明示表示を全世界で開始
2026年6月
英国・欧州551本の削除を通知(3度目)
スタジオカナル作品が対象。返金なし
2026年9月
削除予定日
ライセンス契約切れにより購入済みコンテンツが消滅
※2021年8月の約束は購入済みコンテンツの継続視聴を保証する内容だった。2023年のディスカバリー番組は削除予告後にライセンス更新で撤回された

ただし、AB 2426はカリフォルニア州法であり、今回の削除対象は英国と欧州だ。そして英国にも欧州にも、同等の法律はまだ存在しない。

ゲイブ・ニューウェル氏が15年前に言ったこと

Valveの共同創設者ゲイブ・ニューウェル(Gabe Newell)氏は2011年、ワシントン州の業界カンファレンスでこう述べた

「海賊行為は価格の問題ではない。サービスの問題だ。海賊行為を止める最も簡単な方法は、海賊版対策技術を導入することではない。海賊版から受けているサービスよりも優れたサービスを提供することだ」(ゲイブ・ニューウェル氏、2011年WTIA Tech NWカンファレンス)

ニューウェル氏はゲームの海賊版対策としてこれを語った。だが、15年を経て、同じ問題が映像コンテンツにまで及んでいる。

PS Storeで「購入」した映画は、9月1日に消える。同じ映画のBlu-rayディスクは、棚から消えない。海賊版のファイルも、HDDから消えない。消えるのは、正規のストアで買った人のコンテンツだけだ。

正規の購入者だけが不利益を被る。DRMの文脈で繰り返し指摘されてきたことだ。今回の件はDRMですらない。ライセンス契約の期限切れという、さらに手前の話だ。公式のストアで定価を払い、「購入」ボタンを押した結果として、コンテンツへのアクセスが一方的に打ち切られる。

ゲームにも起こりうるか

映画551本が9月に消えるなら、ゲームはどうか。

PSN利用規約のセクション10.1と10.2は、映画とゲームを区別していない。「すべてのコンテンツ」が取消可能なライセンスとして提供されると書かれている。法的には、ゲームにも同じ条項が適用される。

実際に起こるかどうかは、ライセンス契約の構造が異なるため単純には言い切れない。ゲームの場合、パブリッシャーとプラットフォーム間の関係はより複雑で、映画のように配給契約が一斉に期限切れを迎える構造にはなりにくい。だが、条項上は可能だ。

Xboxのデジタル販売についても同様の懸念が生じている。マイクロソフトはデジタル所有権に関する公式見解を問われているが、現時点で回答は出ていない。

デジタル販売比率はXboxで9割超、PlayStationでも約78%に達している。「購入」が「取消可能なライセンス」と同義であるという事実は、映画551本だけの話では終わらない。

関連記事

この記事を共有する