韓国、半導体・AIに2000兆ウォン。市場は売りで応えた

韓国、半導体・AIに2000兆ウォン。市場は売りで応えた

韓国政府が6月29日に発表した「3大メガプロジェクト」は、サムスン電子とSKハイニックスを軸に半導体・AIデータセンター・フィジカルAIの3分野へ向こう10年で官民あわせて約2000兆ウォン(約210兆円)を注ぐ計画だ。1国の、しかも民間主導の投資額としては史上最大規模になる。その発表当日、サムスン電子の株価は5.3%下落し、SKハイニックスも3.4%下げた。


「前例のない数字」の中身

李在明(イ・ジェミョン)大統領が青瓦台で主催した国民報告会には、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長とSKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長が出席し、それぞれの投資計画を自ら説明した。

計画の柱は3つある。

第一の柱は半導体だ。サムスン電子とSKハイニックスが韓国南西部の湖南地域(光州・全南)にそれぞれ2か所、計4か所の新しいメモリファブを建設する。投資額は800兆ウォン(約84兆円)。これに加え、忠清地域(天安・温陽)にHBMのパッケージング拠点を81兆ウォン(約8兆5000億円)で整備する。半導体関連の投資総額は約911兆ウォン(約96兆円)に達する。

第二の柱はAIデータセンターだ。科学技術情報通信部のペ・ギョンフン長官は、2029年までに8.4GW、2035年までに18.4GWのAIデータセンターを全国に展開すると表明した。投資規模は1000兆ウォン(約105兆円)を超える。SKグループが蔚山に1GW級、GSグループが江原道東海に2.4GW級を計画し、ネイバーは世宗で拡張を進める。

第三の柱はフィジカルAI(ロボティクス・自律システム)だ。2028年までに10の主要産業へヒューマノイドロボットを導入する構想を掲げた。

サムスングループ単体で約1000兆ウォン、SKグループ単体で約1000兆ウォン(うち湖南地域向けが400兆ウォン)。合計で約2000兆ウォンという規模は、キム・ヨンボム大統領府政策室長が発表前に予告した通り「見慣れない数字」だった。

首都圏一極を壊す賭け

この計画で最も重要なのは、金額ではない。工場を建てる場所だ。

韓国の半導体製造拠点は、サムスン電子の平沢・華城、SKハイニックスの利川・清州と、事実上すべてが首都圏とその周辺に集中してきた。龍仁に建設中の半導体メガクラスターも首都圏だ。今回の発表は、その構造を根本から変えようとしている。

産業通商資源部のキム・ジョングァン長官は「既存の龍仁・平沢を中心としたファブ拠点は電力、用水、用地の面で限界に達している」と説明し、龍仁クラスターの生産開始をサムスン電子は7年、SKハイニックスは12年前倒しすると述べた。新しい湖南クラスターはTSMCが新竹から台南へ拡張したモデルを参考にしたという。

李在明大統領は「首都圏一極体制を克服できなければ、今われわれが経験しているこの変化はそよ風に終わる」と述べ、半導体産業の地方分散を国家的課題として位置付けた。7月1日に全南と光州が統合して「全南光州統合特別市」が発足する直前のタイミングでもある。

だが現実には、湖南地域には半導体製造に必要な水と電力のインフラが整っていない。韓国国内の分析では、候補地の多くはすでに産業団地として開発済みか国有地であるため用地確保は比較的容易だが、電力供給と工業用水の確保には大規模な政府支援が不可避だと指摘されている。龍仁クラスターが許認可と用地補償だけで着工まで6年を要した前例もある。

市場が嫌ったもの

発表当日、サムスン電子は5.3%安の32万1500ウォン、SKハイニックスは3.4%安の258万3000ウォンで引けた。KOSPIは約2%下落して8258前後で終えている。

直接の原因は複合的だ。KOSPIは発表前の1週間で約10%下落しており、6月23日には10%安でサーキットブレーカーが発動、26日にも8%超の急落を記録していた。米国のPCEインフレ率が4.1%に急騰しFRBの利上げ観測が強まったこと、中東での米国によるイラン軍事施設攻撃、それに続くドーハでの停戦交渉と、外部環境は悪材料が重なっていた。

ただ、それだけでは説明がつかない反応もあった。投資計画の事前報道が出た6月26日の時点で、サムスン電子とSKハイニックスはそれぞれ9%超下落している。好材料を織り込み済みの「事実売り」と、もうひとつ、市場が嫌ったものがある。

崔泰源SKグループ会長は報告会で「現時点で見える需要は堅調だ。投資を続けても供給不足を完全に解消するのは難しい」と述べた。

需要が強いから投資するのではない。需要が強いのに供給が追いつかないから、さらに巨額を投じるしかない。その構造自体が、投資家にとってはリスクに見える。サムスン電子とSKハイニックスがKOSPIの時価総額の約42%を占める現在、両社の大規模設備投資は利益率の圧縮を意味しうる。HBM需要が10年間続く保証はなく、両社が同時に同じ地域で巨額投資を行えば、いずれ供給過剰に転じるシナリオも排除できない。

「半導体はエコシステムだ。選挙区ではない」

野党・国民の力は発表を痛烈に批判した。

「半導体はエコシステムであり、選挙区ではない」と声明を出し、湖南地域の経済的実現可能性とインフラの評価が投資決定に先行すべきだと訴えた。与党・共に民主党内でも「湖南優遇」との批判が出ており、李在明大統領は自身のXで「湖南に半導体の産業エコシステムを構築することは、特定地域への優遇ではなく、地域均衡発展という国家的課題の実現だ」と反論した。

祥明大学のイ・ジョンファン教授は「住民の苦情まで重なれば、工場1か所の建設に5年を超えることもある。その間に政権が交代する可能性もあるため、支援の連続性を政府が保証しなければならない」と指摘している。延世大学のアン・フンジュン教授も「龍仁のクラスターはまだ始まったばかりだ。10年後、20年後に湖南地域で数百兆ウォン規模のファブを維持できるほどの半導体需要があるのか、検証が必要だ」と慎重な見方を示した。

政治的意図の有無とは別に、ひとつの事実がある。韓国の素材・部品・装置分野の中小企業の声として「首都圏でさえ人材確保が困難なのに、湖南に生活インフラも含めたフルサイクルのエコシステムを構築するには相当の準備が要る」という指摘が出ている。

日本の読者がここから読み取ること

韓国が直面している問題は、日本にとって他人事ではない。

TSMCの熊本進出、マイクロンの広島拡張、キオクシア・ウエスタンデジタルの四日市・北上への投資。日本もまた、半導体製造の地理的分散を国策として進めている。そしてTSMC熊本の周辺では、すでに地価高騰、交通渋滞、水資源への懸念が表面化している。

韓国の今回の計画が示しているのは、半導体工場の立地は純粋な経済合理性だけでは決まらないという現実だ。電力・水・人材・サプライチェーン・住環境、そして政治。どれが欠けても、工場は建たない。

市場調査会社Omdiaは、世界のメモリ市場が2025年の約2000億ドルから2030年に約8000億ドルへ4倍に拡大すると予測している。マイクロンはHBMの市場規模が2028年に約1000億ドルに達するとの見通しを示し、従来予測より2年前倒しした。その成長を取りに行くために、韓国は国土の構造ごと変えようとしている。

既報の通り、韓国のメモリ2社は日本政府から繰り返し工場建設の提案を受けながら、政治的理由でそれを保留してきた。今回の発表は、その「保留」に対する韓国政府自身の回答でもある。海外に出さず、国内で受け皿を作る。ただしそのために、龍仁クラスターの完成を待たずに湖南と忠清で新たな巨大投資を始める。

約2000兆ウォンという数字が計画通り実行されるかは、誰にもわからない。韓国政府が2019年に掲げた「システム半導体ビジョン」はファブレス市場シェア10%の目標を達成できなかった前例もある。ただ、この規模の計画が大統領府で公式に発表され、サムスンとSKのトップが並んで署名したこと自体が、すでに事実として存在する。残りの問題は、湖南に最初のファブがいつ建つかだけだ。


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