DRAM大手3社に反トラスト訴訟。消費者が問う「700%」
メモリ価格が歴史的な高値を記録するなか、世界のDRAMを支配する3社が米国で消費者から訴えられた。訴状が突きつけているのは、AI需要という構造要因の裏側にある、もうひとつの疑惑だ。
訴状が描く構図
現地時間2026年6月25日、カリフォルニア北部地区連邦地裁に集団訴訟が提起された。事件番号3:26-cv-06345、訴因は反トラスト法違反。被告はサムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジーの3社と、その米国法人だ。


原告は個人消費者と小規模PC事業者。Troy's Computers LLC、JB Tech Solutions LLCといった、街のPCショップや修理業者が名を連ねる。代理人を務めるのはニューヨークの法律事務所Bathaee Dunne LLP。反トラスト訴訟を専門とし、直近ではディズニーに対するストリーミング価格の訴訟も手がけている。
訴状の骨子はこうだ。3社はAI向けのHBM(広帯域メモリ、GPUに搭載される高速メモリ)への生産転換を口実に、汎用DRAMの生産を協調的に絞った。DDR3やDDR4からの撤退を足並みをそろえて進め、供給を意図的に制限した結果、DRAMの価格は過去4年間で約700%上昇した。訴状はこの状況をRAMpocalypse(RAM+Apocalypse、メモリの黙示録)と呼んでいる。
なかでも名指しされたのが、マイクロンによるCrucialブランドの消費者向け事業の撤退だ。マイクロンは2025年12月、約30年続いたCrucialの消費者向けメモリ・SSD事業を2026年2月末で終了すると発表した。訴状はこれを「史上最も利益率の高い時点で消費者向け事業を閉鎖した」と指摘し、利益の最大化を優先して供給を絞った証拠のひとつとして挙げている。
20年前の有罪答弁
この訴訟を単なる「高値への不満」と片づけられない理由がある。DRAM業界には前科がある。
2002年、米司法省はシャーマン反トラスト法に基づきDRAMメーカーの価格操作を捜査した。DellやGatewayといったPC大手が価格操作による被害を訴えたのが端緒だ。捜査の結果、サムスン、ハイニックス(現SKハイニックス)、インフィニオン、エルピーダ、マイクロンの5社が1998年から2002年にかけての国際的な価格カルテルへの関与を認めた。
科された罰金の総額は7億3100万ドル超。サムスンだけで3億ドル、当時の米国反トラスト史上2番目の巨額だった。ハイニックスは1億8500万ドル、インフィニオンは1億6000万ドル。4社18人が起訴され、複数の幹部が服役した。マイクロンは内部告発者として免責を受けたが、証拠改竄で別途社員が起訴されている。
今回の訴状が注目を集めているのは、この前科を「パターンの立証」に使っている点だ。訴状は3社がカルテルで服役した幹部を再雇用し、厚遇していたと主張している。この主張を裏づける公的記録がある。サムスン電子のイ・ソヌ(Sun Woo Lee)氏はDRAM部門のシニアマネージャーとして2006年に有罪を認め、8か月間服役し、25万ドルの罰金を支払った。その後、2009年にサムスンドイツの社長、2014年にはサムスンヨーロッパの社長に昇進している。
構造要因は否定できない
訴状の主張だけでは、全体像は見えない。
メモリ価格の高騰には、AI需要という構造要因がある。生成AIの訓練と推論に使われるサーバーは、通常のサーバーの数倍から十数倍のメモリを必要とする。AI用GPUに搭載されるHBMは、同じ記憶容量を実現するのに通常のDDR5の約3倍のウエハー面積を消費する。メーカーが限られた製造能力をHBMに振り向ければ、汎用DRAMの供給が減るのは算術的な帰結だ。
3社とも増産投資は進めている。SKハイニックスはM15X工場でHBM4の量産を開始し、サムスンは平沢P4工場の生産ラインを拡張中、マイクロンはアイダホ州の新工場を建設している。ただし、いずれも本格稼働は2027年以降であり、短期的な供給改善にはつながらない。
投資銀行ジェフリーズのアナリストは、2026年第3四半期にメモリ価格がさらに40〜50%上昇し、第4四半期にも30〜40%上がると予測している。2027年も前年比40〜45%の上昇が続き、価格が落ち着くのは早くて2028年になるとの見通しだ。レノボも、メモリの高価格は2030年まで「ニューノーマル」になると警告した。
要するに、価格が上がっている事実には異論がない。需要がそれを正当化する部分も大きい。問題は、需要だけでは説明しきれない部分があるのかどうかだ。
1998年 DRAM価格カルテル開始 5社が国際的な価格操作に関与 2002年 米司法省が捜査を開始 DellやGatewayが被害を申告 2005年 サムスンが有罪答弁、罰金3億ドル 罰金総額7億3100万ドル超、4社18人を起訴 2006年 サムスン幹部が有罪、8か月服役 イ・ソヌ氏、服役後にサムスン欧州社長へ昇進 2018年 ヘイゲンズ・バーマンが3社を提訴 2016-2017年の価格高騰で提訴、棄却 2025年 マイクロンがCrucial事業を終了 約30年続いた消費者向け事業を撤退 2026年6月 消費者が反トラスト集団訴訟を提起 4年間で価格約700%上昇と主張 |
訴訟の核心
2018年にも法律事務所ヘイゲンズ・バーマンが同じ3社を相手に、2016〜2017年の価格高騰がカルテルによるものだとする集団訴訟を起こしている。この訴訟は証拠不十分として退けられた。企業が似た経営判断を同時期にしただけなのか、それとも協調があったのかを証明するハードルは極めて高い。
今回の訴訟が前回と異なるのは、訴状の構成だ。HBMへの転換を「口実」として名指しし、マイクロンのCrucial撤退を具体的な証拠として引用し、過去のカルテル有罪答弁と幹部の処遇を「行動パターンの連続性」として位置づけている。状況証拠を重ね、構造的な共謀を立証しようとする訴訟戦略が読み取れる。
ただし、これはあくまで訴状の主張であり、法廷で認定されたものではない。3社はいずれも今回の訴訟についてまだ公式見解を出していない。AI需要による供給逼迫は複数の第三者調査機関も認めている事実であり、メーカーの行動が需要に対する合理的な経営判断だった可能性は残る。
それでも、消費者とPC事業者が法廷に持ち込んだ問いの重みは無視できない。DDR5の16GBチップ価格は2025年9月の約6.84ドルから同年12月末には27.20ドルへ、3か月で約4倍になった。DDR5-6000 32GBキットの米国小売価格は2025年半ばの95ドル前後から年末には400ドルを超え、日本の自作PC市場でも同様の急騰が続いている。この上昇率が市場原理だけで説明できるのか。それが、この訴訟の核心にある問いだ。
20年前、同じ業界で、同じ会社が、同じ罪で有罪になった。その記憶がある限り、「今回は違う」と言い切る責任は、メーカー側にある。
参照元
- Garciaguirre et al v. Samsung Electronics Co., Ltd. et al
- Samsung Agrees to Plead Guilty and to Pay $300 Million Criminal Fine for Role in Price Fixing Conspiracy