マザーボード4社全線崩落、AI偏重で削られたDIY市場
世界のマザーボード市場が、ついに「全線崩落」のフェーズに入った。台湾系4社の2026年出荷目標が一斉に下方修正され、ASUSは過去十数年で最低水準に追い込まれている。原因はメモリとCPUの不足、その先にあるNVIDIAのAI偏重戦略だ。
世界のマザーボード市場が、ついに「全線崩落」のフェーズに入った。台湾系4社の2026年出荷目標が一斉に下方修正され、ASUSは過去十数年で最低水準に追い込まれている。原因はメモリとCPUの不足、その先にあるNVIDIAのAI偏重戦略だ。
ASUSが「1,000万枚保衛戦」、4社揃って崩れた
DigiTimesが2026年5月7日に報じた独占記事によると、台湾系4大ブランドのマザーボードメーカーが2025年末に立てた2026年通年の出荷目標は、ほぼ全社揃って下方修正された。供給網関係者の言葉を借りれば、状況は「全線崩落」に近い。
業界トップのASUSは2024年に約1,400万枚を出荷し、2025年は逆風下で1,500万枚まで伸ばした。ところが2026年は上半期だけで 500万枚 しか出ておらず、通年目標は1,000万枚を割り込まないように戦う「保衛戦」へと後退している。
これは2008年にASUSが分社化して以降、ブランドマザーボード出荷の最低水準だ。リーマンショックの年もコロナ初年度も、ここまでではなかった。
他の3社も、ほぼ同じだけ削られている。GIGABYTEは2025年の1,150万枚から、社内目標を2026年に900万枚へ引き下げた。供給網筋の見方ではさらに下振れし、800万〜850万枚に落ち着く可能性が高いという。MSIも2025年の1,100万枚から 840万枚 へと崩落する見通しで、ASRockに至っては2025年の430万枚から270万枚へと3割超の減少が見込まれている。
4社の2025年→2026年(目標値):
・ASUS: 1,500万 → 1,000万(保衛戦)
・GIGABYTE: 1,150万 → 800万〜850万
・MSI: 1,100万 → 840万
・ASRock: 430万 → 270万
ここまで全社が一斉に揃うのは珍しい。ASUS単独の不調なら経営判断のミスとも読めるが、4社まとめてとなると、市場そのものが冷え切っている証拠だ。
削った犯人は3つ、いずれもAIにつながっている
需要を削った要因はDigiTimesの記事に3つ挙げられている。メモリ価格の急騰、CPU供給不足と値上げ、そしてNVIDIA GPUの更新停滞だ。3つともバラバラに見えて、根は同じ場所にある。
メモリの存在感は数字に表れている。PCの部品コスト表(BOM表、製品の部品一覧と費用配分を示す表)で、メモリが占める比率は以前の約15%から、最近は 30%超 にまで急上昇した。各ブランドはこのコスト増を、価格を1〜2割引き上げるか、仕様を落として吸収するしかない。どちらの策も、消費者から見れば「割高か、見劣りするか」の二択でしかない。
CPUも別の意味で苦しい。エージェント型AI(Agentic AI)の登場でAI推論の中でCPUが担う役割が大きくなり、IntelとAMDは生産能力を利益率の高いデータセンター向けプラットフォーム — IntelのXeonとAMDのEPYC — に優先的に割り当てている。その結果、消費者向けCPUは納期が大幅に伸び、2025年末からはすでに2回値上げされている。
AMDの リサ・スー CEOは、コンポーネントコストの暴走がRyzenシリーズのPC市場での出荷を直接圧迫していると認めたうえで、PCとゲーム需要は2026年下半期に顕著に落ちると見通しを示した。チップを作る当事者のCEOが、自社の販売を引っ張ってきた製品の失速を公の場で口にしている。
そしてNVIDIA。AI向けGPUの粗利がゲーミングGPUよりはるかに高いため、生産能力とメモリの配分を見直すなかで、年初以降のRTX 50シリーズには大きな更新がない。次世代の RTX 60は2028年へ延期 との噂まで出ており、中〜上位ゲーミングPC市場には買い替えを促す技術的な刺激がほぼ存在しない。
DDR5の値段が上がり、CPUが買えず、GPUが代わり映えしない。この3つが同時に起きれば、PCを組むユーザーがパーツ集めの手を止めるのは自然な反応だ。マザーボードはその一番後ろで「組まれない結果」を引き受けている。
メモリ・CPU・GPU。PC自作の三大コストすべてが同時に上がるか止まるかしている。1つなら待てば解決する話だが、3つ重なれば「いつ買うのが正解か」の答えそのものが消える。買い替えサイクルは、答えが出ないまま伸びていく。
サーバーが板を救う、というアクロバット
ここで興味深いのは、ASUS、GIGABYTE、ASRockの3社が「経営的には大きな痛みを感じていない」とDigiTimesが書いていることだ。マザーボードとグラフィックスカードの利益が縮んでも、AIサーバー事業がその穴を埋めて余りあるからだ。
ASUSのサーバー営収は2025年に 1,000億NT$(約5,050億円)を突破し、前年比で100%超の成長を記録した。さらに2026年第1四半期のサーバー営収は前期比で約2倍になる見込みで、通年では2,500億NT$(約1兆2,625億円)に挑むという。マザーボードのトップブランドの中で、もう主役はサーバー事業のほうに移っている。
チップを売る企業もボードを組む企業も、見る方角は同じ場所だ。DigiTimesはASUS、GIGABYTE、ASRockの経営の重心がAIサーバーへ傾いていく姿を、リサ・スーの次の言葉で締めている。
AIサーバーへの膨大な需要こそが、いま市場を動かしている中心的な力だ。資源の再配分はもう避けられない(リサ・スー)
これはASUSやGIGABYTEの社員と株主にとっての朗報であって、自作PCユーザーにとっての朗報ではない。むしろ逆だ。サーバーが利益の主役になるほど、各社にとって個人のDIY市場は「赤字を出さない範囲で続ければいい事業」に格下げされていく可能性がある。投資の優先順位が下がれば、新製品の開発ペースも、価格交渉の踏ん張りも、その分だけ弱くなる。
自作の楽しみは、誰のためのものなのか
メモリを買うのに躊躇し、CPUの納期を待ち、GPUの世代交代を待ち、ようやくマザーボードを買おうとした頃には、選択肢が削られている。2026年の自作PC市場は、そういう構造になりつつある。
PCを組むという文化は、安いパーツとアップグレードしやすい設計、そして毎年のように更新される選択肢の多さに支えられてきた。AIに向かう資源配分の波は、その3つすべてを少しずつ削っている。マザーボードメーカー4社の同時減産は、その削られ方を一番後ろから映し出す鏡だ。
DDR5の棚に並ぶ値札を見て、「来年でいいか」と引き返した人。RTX 50で組むかRTX 60を待つか迷い続けて、結局何もしなかった人。彼らの判断は、合理的ではある。ただ、その合理的な判断の積み重なりが、自分たちの遊び場を気づかぬうちに狭めていく。
組まれなかったPCの数だけ、市場は次の世代を遠ざける。
参照元
関連記事
- EXPO ULL、600シリーズにも展開開始。今のメモリでは使えない
- ASUSもHUDIMMに追従、独自規格が業界標準に化ける兆し
- GIGABYTE T-Guard投入、16ピン問題で4社目の実装
- Intel、Raptor Lake供給は継続 DDR5高騰が変えたPC市場
- HUDIMM対応Gigabyteへ拡大、DDR5危機の妥協
- PSUを選ばない過熱保護、Corsairが投じる25ドルの解
- HUDIMM DDR5、実測で帯域ほぼ半減「安い」の代償
- ASRockが「半分のDDR5」で価格危機を突破する
- Intelが2027年前半に「Raptor Lake Next」を投入か。DDR4が手放せない時代の延命策
- AmazonのCPU売上トップ15をAMDが独占。Intelゼロの異常事態