OpenAIブロックマン、約300億ドル株式を法廷で開示
OpenAI社長グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)の保有株式が約300億ドル(約4兆7,100億円)と法廷で明かされた。2017年のジャーナルには「10億ドルに何で到達できるか」と書かれていた。非営利の看板の裏で、何が起きていたのか。
OpenAI社長グレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)の保有株式が約300億ドル(約4兆7,100億円)と法廷で明かされた。2017年のジャーナルには「10億ドルに何で到達できるか」と書かれていた。非営利の看板の裏で、何が起きていたのか。
第二週、被告席に座ったのはアルトマンの右腕
イーロン・マスク(Elon Musk)対OpenAIの裁判は、第二週に入った。米現地時間5月4日(日本時間5日)、カリフォルニア州オークランドの連邦地裁の証言台に立ったのは、OpenAIの社長で共同創業者のグレッグ・ブロックマンだ。
裁判の主な争点はシンプルだ。マスクが2015年に資金提供して立ち上げた「人類のための非営利AI研究機関」が、なぜ評価額8,520億ドル(約133兆7,600億円)の営利企業に変貌したのか。マスクは契約違反と不当利得を主張し、約1,500億ドル(約23兆5,500億円)の損害賠償と、サム・アルトマン(Sam Altman)とブロックマンの経営陣からの排除を求めている。
その日、ブロックマンは法廷で自身の持ち株の時価を初めて公の場で口にした。約300億ドル。為替換算すれば約4兆7,100億円、日本円でフォーブス世界長者番付に名を連ねるレベルだ。比較対象として米メディアが挙げたのは、メリンダ・フレンチ・ゲイツ(Melinda French Gates)。マイクロソフト共同創業者の元妻と肩を並べる規模の個人資産が、非営利財団の役員報告書とは別の場所で積み上がっていた。
「30億ドル分、人類への義務に違反していますか?」
マスク側の主任弁護士スティーブン・モロ(Steven Molo)は、この300億ドルという数字を2時間以上の尋問の中で12回以上繰り返した。質問の一つはこうだ。「あなたの300億ドル近い保有株式は、人類への義務に違反していると思いますか?」
ブロックマンの回答は冷静だった。「いいえ、私たちは人類史上最も資金力のある非営利団体を作り上げたと考えています」
「あなたはたまたま300億ドル(約4兆7,100億円)分、豊かになっただけだと?」(モロ弁護士) 「報酬は、ミッションに対して間違いなく二次的なものでした」(ブロックマン)
OpenAIが2025年10月に「OpenAI Group PBC」という公益事業会社(Public Benefit Corporation)に再編されたことで、ブロックマンの株式評価が一気に跳ね上がった。OpenAI財団は再編後の事業会社の26%を保有し、マイクロソフトが27%を握る構造になっている。再編の経緯と、その途上で内部の人間がどれだけの富を得たのか。裁判の本丸はそこにある。
ジャーナルに書かれた「10億ドルへの道」
しかし、この裁判で最大の証拠として立ち上がっているのは、株式評価額の数字そのものではない。ブロックマンが2017年から2018年にかけて書き続けた個人ジャーナルだ。
開示資料の中の一節は、こう始まる。
「これは私たちがイーロンから抜け出す唯一のチャンスだ。彼は私が選ぶ『偉大なる指導者』だろうか。我々はこれを実現する本物のチャンスを手にしている。財政的に、10億ドルに到達するには何が必要だろうか?」
別のページでは、自身の非営利ミッションへの公的なコミットメントを「嘘」(a lie)と書いていた。担当のイヴォンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は、今年1月にOpenAIの訴訟却下動議を退けた際、これらのジャーナル記述を引用し「ブロックマンは(慈善目的について)欺瞞の意図を持っていた可能性を示唆する」と判決文に書いた。
OpenAI側はこの記述を「最大限に誤解されるよう演出されている」と反論する。何百ページもの個人的内省――自己疑念、希望、迷い――から、不利に見える部分だけを切り抜かれているのだ、と。
ブロックマンは法廷で同じ趣旨を語った。ジャーナルは「具体的な計画ではなく、フラストレーションの表出」だと。それを聞いたモロ弁護士は、すぐに切り返した。「証言する前に、その説明を何回練習しましたか?」
「銀行強盗と何が違うのか」
法廷でのやり取りはたびたび熱を帯びた。モロ弁護士は一度、ブロックマンを「銀行強盗をした男」になぞらえた。判事は「議論を煽る発言だ」としてその比喩を記録から削除させた。だが質問の角度は変わらない。OpenAIの慈善側から営利側に資産を移す行為は「金儲けマシン」を作るための行動ではなかったのか――。
ブロックマンの反論は、時系列に焦点を当てる。自分が株式を付与されたのは2018年であり、ChatGPTが世に出る何年も前。当時、OpenAIが財政的にも技術的にも成功する保証はどこにもなかった。株式は理事会から付与されたもので、自分は決議に参加していない。OpenAIは今も非営利財団に支配されており、営利部門は「公益と株主利益の双方を考慮しなければならない」公益事業会社の形態を取っている。
形式論としては筋が通っている。だが、モロ弁護士が攻めたのは形式ではなかった。動機だった。
「私の質問はとてもシンプルです――あなたは『10億ドルに到達するには何が必要か』と心配していたのですね?」
声を荒げる弁護士に対し、ブロックマンは緊張と居心地の悪さを隠せない様子だった、と現地メディアは伝える。「私たちは皆、営利化することに合意しました」と彼は答えた。「分かれ道にいたのです――イーロンの条件を受け入れるか、彼と競争するか」
アルトマンの「ファミリーオフィス」と隠された絆
もう一つ、この日の証言で浮かび上がった事実がある。ブロックマンとアルトマンの個人的な金銭関係だ。
2017年、アルトマンはブロックマンに自身の個人投資ファンド(family office)の持ち分を付与した。当時の評価額は1,000万ドル(約15億7,000万円)。ブロックマンはさらに、アルトマンが支援するAIチップ企業セレブラス(Cerebras)と、核融合スタートアップのヘリオン・エナジー(Helion Energy)の株式も保有している。
マスク側は、この構造そのものを問題視する。マスクのファミリーオフィス責任者ジャレッド・バーチャル(Jared Birchall)が当時送ったメールは、法廷で読み上げられた。
「いま言及しておく価値があるのは、彼(アルトマン)はサムの個人ファミリーオフィスの持ち分をグレッグに与えることで、彼を内々に報酬で報いていたということだ。この取り決めの結果、グレッグはサムにより強い忠誠心を抱くことになるだろう」
ブロックマンに対し、これがアルトマンへの忠誠を生まなかったかと問われたとき、彼の答えは曖昧だった。「そういう言い方を私はしないと思います」
OpenAIの非営利理事として独立した判断を下すべきブロックマンが、CEOから個人的な金銭的恩恵を受けていた――この構図そのものが、原告側の主張する「不当利得」の核心に直結する。
3,800万ドルの寄付と、4兆円の含み益
裁判の文脈で見過ごせないのが、マスクが最初に投じた金額との対比だ。マスクは約3,800万ドル(約59億6,600万円)をOpenAIに寄付したと主張している。彼の主張する「彼の善意の資金で立ち上がった非営利」は、いまや評価額8,520億ドルの営利企業となり、その内側では一人の社長が4兆円を超える株式を握っている。
数字の対比だけ見れば、マスクの怒りには理屈がある。だが、この裁判の判決を分けるのは数字ではなく、ジャーナルの読み方だ。陪審員が9人の市民が、ブロックマンの個人的な書きつけを「内省」と読むか、「予謀された欺瞞」の証拠と読むか。それで結論が変わる。
OpenAIは年内のIPOを予定している。マスクが裁判を仕掛けるタイミング、彼自身がxAIを率いてOpenAIと直接競合している事実、そして提訴の二日前に彼自身がブロックマンに和解の打診をしていた事実――これらを並べると、訴訟が「純粋な慈善精神の防衛」だけで成り立っているとは言いにくい。マスクが拒否されたあとに送った「今週末までに、お前とサムはアメリカで最も嫌われる二人の男になる」というメッセージは、その一端を物語る。
残るのは、信頼の問題
技術系の訴訟は、たいてい契約書と数字の戦いになる。だが、今回は違う。証拠の中心にあるのは、一人の創業者が誰にも見せるつもりのなかった内なる対話だ。「10億ドルに到達するには何が必要か」と書いた指は、その後、世界最強の生成AI企業のソースコードに触れ続けてきた。
非営利の理想は、最初から本気だったのか。途中で変わったのか。それとも、最初から表向きの言葉でしかなかったのか。判決がどう出るかは別として、この問いはAI業界全体に重く残る。OpenAIだけの話ではない。AnthropicもDeepMindも、当初は「人類のための研究」を掲げて始まった企業だ。彼らの内なるジャーナルは、いま、誰にも見られていないだけかもしれない。
ブロックマンの証言は、日本時間の5日も続いている。
参照元
他参照