Intel、X3D追撃へ5年計画を全面刷新。鍵はソフト
AMDのX3DがCPU市場の様相を変えた事実を、Intelが正面から認めた。元AMDで現在Intelの副社長を務めるロバート・ハルロックが、5年計画の全面刷新と「鍵はソフトウェア」という新しい賭けを語った。
AMDのX3DがCPU市場の様相を変えた事実を、Intelが正面から認めた。元AMDで現在Intelの副社長を務めるロバート・ハルロックが、5年計画の全面刷新と「鍵はソフトウェア」という新しい賭けを語った。
X3Dの威力を、Intel副社長が認めた
PC Games Hardware(以下 PCGH)が4月24日に公開した約45分のインタビュー動画で、Intelの副社長ロバート・ハルロック(Robert Hallock)氏が、AMDの3D V-Cache、いわゆる「X3D」が市場に与えた影響を率直に認めた。同氏はクライアント製品事業本部のチャネル・セグメント担当事業部長を兼ねている。慎重な物言いではあるものの、伝えたい結論は明確だった。
ハルロック氏はまず、AMDが優れた競争相手であり決して見くびるべきではないと前置きした。そのうえで、X3Dという技術が市場の方向性を大きく動かしたと述べる。だからこそIntelは、自社のロードマップが取るべき道を深く再考する必要に迫られたという。彼が公の場でこの認識を示したのは、今後5年間のデスクトップゲーミング向けロードマップを書き換える方針を表明する文脈においてだ。
AMDのX3Dは市場の方向性そのものを変えた。Intelもまた、自社の5年計画を真剣に問い直す必要があった。
ここで興味深いのは、ハルロック氏自身がX3Dの立役者だったという経緯である。AMD時代にはRyzenブランドの広報を担い、Zenアーキテクチャの語り部でもあった人物が、いまはIntelに身を置きX3Dへの対抗策を語っている。立場は変わっても、ゲーマーが何を求めているかという感覚は彼のなかに連続して残っている。
完全版の動画はYouTubeで公開されている。
レイテンシ、キャッシュ、Linux、ソケット長寿命化まで広く語られている。
「レイテンシが周波数に勝る」というIntelの新福音
ハルロック氏が次に強調したのは、ゲーミング性能における優先順位の転換だった。次世代アーキテクチャ「Nova Lake」を含め、これからのCPUではコア周波数を引き上げることよりも、レイテンシを下げることのほうが効果が大きい。これはCore Ultra 200S Plusで既に実証済みだという主張だ。
たとえば1% lows(最低フレームレートの統計値)の値を改善すれば、平均FPSも自然に底上げされる。逆に平均FPSだけを最適化すると、1% lowsで失敗するリスクが生まれる。Intelは50タイトル以上のゲームを720p、1080p、1440p、4Kでテストし、複数のメモリ速度とGPUを組み合わせて検証している。レイテンシは単一の数値ではなく、性能の輪郭そのものを規定する変数なのだ。
メモリ周波数の引き上げも依然として重要であり、24コアを超えるような大規模なCPUでは、スレッドが正しいコアに配置されるかどうかも「レイテンシの一形態」だとハルロック氏は語った。Intelの「Thread Director」は、まさにそのために存在する仕組みである。X3Dのような大容量キャッシュは強力なハンマーだが、唯一の道具ではない。スレッドの局所性を確保する手段は他にもある、というのが彼の立場だ。
80対20の法則 - ソフトウェアこそ最後の鍵
ロードマップの刷新と並行して、Intelはもう一つ大きな賭けに出ようとしている。ソフトウェアによる性能押し上げである。ハルロック氏はこれを「8対2の法則」と表現した。CPU性能の8割はハードウェアから引き出せるが、最後の2割はソフトウェアでしか取れない、と。
その実装が「Intel Binary Optimization Tool(BOT、別名 iBOT)」だ。Intel公式の数値によれば、BOTを有効化すると12タイトルのゲームで平均8%のFPS向上、最大22%の性能改善が確認されているという。コンソール向けに最適化されたバイナリを、Intelの最新マイクロアーキテクチャにあわせて事後的に書き換える発想である。
多くのPCゲームはコンソール優先で開発される。CPUごとの最適化はそのあと回しになり、各機械には2割前後の性能が眠ったままになる。
この見立てに従えば、ハードウェアを速くするだけでは足りない。ソフトウェアこそが鍵を握る、というのがハルロック氏の核心的な主張だ。一部のゲーマーが「余計なソフト機能はいらない、ハードを速くしてくれ」と望むことも彼は知っている。だが、その要求に応えることは「眠っている2割をそのまま捨てろ」と言っているのと同じだと彼は考えている。
副社長がArch Linux常用、Hyprlandも5年
このインタビューで最も意外だった告白は、ロードマップの中身ではなく、彼自身のデスク環境に関するものだった。ハルロック氏は5年間ずっとArch Linuxを愛用しており、ウィンドウマネージャーにはHyprlandを使っているという。Intelの副社長がこの構成を公の場で口にしたのは、Linuxコミュニティにとって決して小さな出来事ではない。
PCゲームをプレイするのに、わざわざ自分から面倒な構成を選んでいるようなものだ。
そんな冗談を交えつつも、Arch Linuxの常用者である彼は、Intelの公式バリデーション基盤がUbuntuであることを明かした。LinuxカーネルへのアップストリームコントリビューションもCPUプラットフォーム側で継続的に行われており、BOTについてもLinux版を現在進行形で開発しているという。
ProtonやDXVKの進化に触れたうえで、CachyOSやBazziteといったゲーミング特化ディストリビューションを名指しで挙げ、Steamをインストールするだけで必要なライブラリが自動で揃う現状を率直に評価した。アンチチートを採用するDRMが残された壁ではあるものの、Linuxゲーミング全体の敷居は明らかに下がっているとの認識である。
廉価モデルにもアンロックを開放、ソケット長寿命化も
ハルロック氏の語りはハイエンドだけに向けられたものではない。Intel本社のチームが目指しているのは、もっと幅広いユーザー層に「アンロック」を届けることだという。
より多くのSKUをアンロック対応にするのが、彼のチームの長期目標だ。Core Ultra 200S Plusでは、税込4万1800円の250K Plusや5万9800円の270K PlusといったオーバークロックKモデルがすでに登場しており、500ドルを払える人だけが熱狂的なPCゲーマーではない、というのが彼の持論である。
ソケットの長寿命化についても率直な姿勢を見せている。複数世代を通したマザーボード互換性が今後の方針として検討されていると示唆した。AMDのAM4が長く支持された経緯を考えれば、これはIntelとしては大きな譲歩だ。自作PCコミュニティが長年Intelに求めてきた変更でもある。
Bartlett LakeとPanther Lakeの住み分けについても明確に語られた。Bartlett Lakeはロボティクスや産業用POSなどのエッジ・組み込み向け、Panther Lakeはより汎用的なノートPC向けという棲み分けである。ARC G3はノート用CPUを流用したものではなく、ハンドヘルド専用に設計された新しいシリコンだとも明言した。市場ごとに最適な専用設計を投入できる、というのがIntelの強みだという。
5年後、約束は果たされるか
ハルロック氏は最後に、自分の発言の重さを自覚しているとも語った。1年前なら同じ宣言はできなかっただろう、と。投資、人員、組織再編が積み重なり、デスクトップゲーミング専任のチームが形になりつつあるという認識だ。
そして最後に置かれたのは、堂々とした決め台詞だった。
I will be vindicated in time.(時間が経てば、自分の判断が正しかったことが証明される)
これは威勢のいい啖呵ではあるが、同時に約束でもある。レイテンシ削減、BOTの拡大、廉価帯のアンロック、ソケット長寿命化、Linux対応の強化。どれも単発で見れば「あればよい」程度の項目かもしれないが、5年計画として束ねられたとき、5年後の答えは確かに変わる可能性がある。
X3Dを生み出したAMDと、X3Dの語り部だった人物が転じて指揮するIntel。同じゲーマーを別の道で迎えにいく形が、いまじわりと整いつつある。言葉は揃った。あとは、製品が同じ言葉で語ってくれるかどうかだ。
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