Windows 11を内部から作り直す「K2」、SteamOSが基準

Microsoftが社内で「Windows K2」と呼ぶ大規模なWindows 11立て直しプロジェクトが進行している。狙うべき基準として、競合のSteamOSとサードパーティのファイラーを名指ししているのが興味深い。

Windows 11を内部から作り直す「K2」、SteamOSが基準

Microsoftが社内で「Windows K2」と呼ぶ大規模なWindows 11立て直しプロジェクトが進行している。狙うべき基準として、競合のSteamOSとサードパーティのファイラーを名指ししているのが興味深い。


ベンチマークが「自社製品」ではなくなった

Windowsの司令塔が、自分たちの製品を語るときに比較対象として持ち出したのは、ValveSteamOSと、個人開発者の作ったFile Pilotというファイル管理アプリだった。

これは控えめに言って異例だ。デスクトップOS市場で長年圧倒的なシェアを握ってきた側が、Linuxベースの後発OSと、出たばかりの小さなネイティブアプリを「我々の目指す基準」と公言している。

Windows Centralの上級編集者Zac Bowden氏が4月26日に公開した記事によれば、この社内プロジェクトのコードネームは「Windows K2」。3月にMicrosoftのWindows + Devices担当プレジデントPavan Davuluri氏が公式ブログで予告した「Windows 11の品質改善」の正体だ。

K2は山の名前ではあるが、社内では特定のリリース版を指す言葉ではない。永続的な改善の枠組みとして位置づけられている。

Windows K2は専用のOSリリースではなく、現行と将来のバージョンを横断してWindowsの品質を高く保ち続けるための継続的な取り組みである。

Bowden氏はそう書いている。終わりがないということは、いつでも有耶無耶にできるということでもある。そこは留保しておきたい。


三本柱と、語られなかった四本目

K2は「Performance(パフォーマンス)」「Craft(作り込み)」「Reliability(信頼性)」の3つを軸に置く。これらが揃わなければ製品は崩れる、という当たり前の話だが、Windows 11の現状を見ればこの当たり前が実現していないということでもある。

Microsoftが内部資料で認めている事実が興味深い。Windows 10のほうが特定のベンチマークで速い、とMicrosoft自身が把握している。スタートメニューのもたつき、ファイルエクスプローラーの遅さ、コンテキストメニューの引っかかり。ユーザーが何年も前から指摘してきたことを、ついに社内文書のレベルで公式に認めたのだ。

実はもう一本、表に出ない柱がある。「Community(コミュニティ)」だ。Windows Insider Meetupの復活、Windowsチームのメンバーがソーシャルメディアで直接ユーザーに応答する体制の構築。これは技術的な話ではなく、信頼を取り戻すための文化政策だ。

技術的な改善はベンチマークで測れる。だがコミュニティの信頼は、一度失うと数値では戻ってこない。だからこそ、四本目を表に出さず内側に置いたのかもしれない。


「速さ」を捨てて「品質」を取る

K2が示す方向転換のなかで、もっとも本質的なのは内部文化のシフトだ。

過去のWindowsは敏捷性に取り憑かれていた。新機能をできる限り速く、頻繁に出荷することに躍起になっていたが、その代償として品質と信頼性が犠牲になった。

Bowden氏のこの指摘は、Windowsだけの話ではない。シリコンバレー的なソフトウェア開発文化全般への問いかけでもある。「Move fast and break things」(速く動き、ものを壊せ)の時代は、十数億のデバイスで毎日動くOSには合わなかった、ということなのだろう。

新しいルールはシンプルだ。社内の品質基準を満たさない機能は、公開プレビュービルドに近づけない。これまでも基準は存在したが、その基準を大幅に引き上げたという。

「速く出す」から「ちゃんと出す」へ。文章にすれば1行だが、組織文化としては重大な転換だ。エンジニアの評価指標、リリース計画、マーケティング部門との関係まで、すべてが連動して変わる必要がある。


SteamOSが「目標」になった日

ここからが本記事のもっとも奇妙な部分だ。

ゲーミング性能について、MicrosoftはSteamOSをベンチマークに据えた。1〜2年以内に、同一ハードウェアでSteamOSとWindowsのゲーム性能が肩を並べることを目標にしているという。

これはとんでもない宣言である。

SteamOSは2024年以降、携帯ゲーミングPC市場で急速に存在感を増した。Lenovo Legion Go SのSteamOS版は、第三者によるベンチマークでWindows 11版を多くのタイトルで上回るフレームレートを記録している。Linux上でWindowsゲームを動かす互換レイヤー「Proton」が成熟し、ハンドヘルドPCではSteamOSがすでに「ゲーミングOSとしての本命」と見なされ始めている。

その状況を、Microsoftは正面から認めた。「我々のOSは、自社製ゲームコンソール用OSにすら追いつけていない」と、社内資料で書いたのだ。

ファイルエクスプローラーのベンチマークも同様に過激だ。File Pilotという、個人開発者が3年かけて作った爆速ファイラーがある。日本のIT系メディアでも「爆速ファイラー」と評され、フォルダ表示も検索もWindows標準のエクスプローラーとは比較にならない速さを持つ。Microsoftは「目指す基準」としてFile Pilotを社内で位置づけた。

巨人が、独立した個人開発者のアプリを「我々が学ぶべき手本」と公式に認める。これは謙虚さなのか、事態の深刻さの証拠なのか。両方かもしれない。


WinUI 3が、Windowsを救う最後のカード

技術的な核心はWinUI 3への大胆なシフトだ。

WinUI 3は、Microsoftが自社で開発するモダンなWindows向けUIフレームワーク。これまでもWindowsの一部で使われていたが、K2はこれをシステムの主要UIに本格適用する方針を打ち出した。

特に注目すべきは新しい「System Compositor」だ。UIのレイテンシとメモリオーバーヘッドを削減する仕組みで、これによりスタートメニューやタスクバーが、システム高負荷時でも反応を保てるようになるという。

そしてスタートメニューは、WinUI 3でゼロから作り直される。Bowden氏の取材では、新スタートメニューは現行比で最大60%高速になり、リサイズや特定セクションの非表示といったカスタマイズも可能になる。

Windows 11発表時に消えた「タスクバーを画面の上端や横に動かす機能」も、3月時点でMicrosoftが復活を確約済みだ。「ユーザーの声を聞く」という建前が、ようやく機能の形に降りてくる。

[社内では]新しいシステムコンポジターによって、スタートメニューやタスクバーといった要素が、システム負荷が高い状況下でも常に応答性を保ち、利用可能であり続けるようにすることを目指している。

ただし、これらの改善はどれもWindows 11の再構築に近い規模の作業を要する。WinUI 3への移行はOS全体に波及する大工事であり、過去との互換性と速度向上の両立は容易ではない。


広告を消すという経営判断

K2はパフォーマンス以外にも切り込む。スタートメニューから広告を取り除く。これは技術的な変更ではなく、収益モデルそのものの変更だ。

Windowsのスタートメニューに表示されるアプリ広告は、Microsoftにとって細かい収益源だった。それを手放す判断は、財務的に見て軽い決断ではない

ウィジェット画面でデフォルト表示されていたMSNの位置づけも下げられる。MSNはMicrosoft自社のニュースアグリゲータで、ここに表示されるとアプリトラフィックが稼げる。それを「ウィジェットパネルが主、MSNが従」に変えるという。

ユーザーから見れば当たり前の調整だが、社内予算とKPIの観点からすれば相当の意思決定エネルギーが要るはずだ。ここに踏み込めるかどうかが、K2の本気度を測る試金石になる。


「ようやく」か「またか」か

ここまで読んで、希望を抱くか、それとも疲れた気持ちになるかは、Windows 11との付き合い方次第だろう。

Microsoftは過去に何度も「ユーザーの声を聞く」と宣言してきた。Windows 8のスタートメニュー復活、Windows 10の「最後のWindows」発言、そして11発表時の「シンプルさへの回帰」。いずれも宣言通りの結果には届かなかった。

K2が違うとすれば、それは社外向けマーケティング言語ではなく、社内の開発文化と評価基準そのものを書き換えようとしている点だ。新機能のリリース速度を犠牲にしてまで品質を取る、と宣言できる組織は、20年前のWindows Vistaの教訓以来見たことがない。

一方で懐疑も残る。永続的なイニシアチブには明確な完了基準がなく、いつでも優先順位を下げられる。AI機能のさらなる押し込みが、再びK2の品質基準を侵食する可能性も十分ある。Copilotの位置づけは引き続き流動的だ。

それでも、Microsoftが自分たちのOSの遅さを認め、SteamOSと個人開発者のアプリを目標に据えた事実の意味は大きい。少なくとも、現状認識のレベルでは、ユーザーと初めて目線が揃った。

山の名前を冠したこの計画が、本当に頂上を目指すのか。それとも数年後にはまた別のコードネームに置き換わっているのか。判断材料はもうすぐ揃う。


参照元

関連記事

Read more

中国製コアを積んだロシア製CPU「イルティシュ」でウィッチャー3が動いた

中国製コアを積んだロシア製CPU「イルティシュ」でウィッチャー3が動いた

中国製コアを搭載しながら「ロシア産」を名乗るサーバー向けCPU「イルティシュ(Irtysh)」が、ゲーミングPCに搭載されてウィッチャー3を30FPS前後で動かすという映像が公開され、国際的な注目を集めている。制裁下のロシアにとって数少ない選択肢のひとつだが、その正体をよく見ると、実情はやや複雑だ。