オランダ訴訟団体、ソニーのディスク廃止を「完全な価格支配」と警告
ソニーが2028年1月でPlayStationの新作ディスクを終了すると発表した翌週、4億ユーロ超の損害賠償を求めるオランダの消費者団体が声明を出した。「最後の競争」が消える、と。
「価格が公正であり得ない」
ディスク廃止の発表から数日後の2026年7月6日、オランダの非営利団体Stichting Massaschade & Consument(大規模損害・消費者財団)の代表ルシア・メルヒャーツ(Lucia Melcherts)が、独占声明で次のように述べた。
物理ディスクの廃止は、PlayStationのゲームが競争的な価格で売買できる最後の場所を消し去る。ディスクがなければ中古市場も消え、PlayStation Storeに代わる選択肢もなくなる。2028年以降、ゲームの価格も、遊べる期間も、ソニーだけが決めることになる。これこそがFair PlayStation訴訟の核心だ。購入者に所有権も代替手段もない状態で、価格が公正であるはずがない(メルヒャーツ代表のWccftechへの独占声明)
この声明は、ソニーのディスク廃止決定と、現在3か国で進行中のPlayStation Store独占訴訟を直接結びつけた最初の公式見解にあたる。
6月29日、オランダで初の審理
メルヒャーツ代表が率いるFair PlayStation訴訟は、6月29日にミデン・ネーダーラント地方裁判所で初回審理を迎えた。ソニーのディスク廃止発表の2日前だ。
主張の骨子は明快で、PlayStationのデジタルゲームはPlayStation Storeでしか買えず、ソニーはこの独占的地位を利用して消費者に不当な価格を課してきたとしている。原告側が委託した経済調査では、オランダにおけるデジタル版ゲームの価格はディスク版より平均47%高いという数字が出ている。
約170万人のオランダ人PlayStationユーザーを代表するこの訴訟は、4億ユーロ(約740億円)超の損害賠償を求め、2013年11月29日以降にPlayStation Storeで有料コンテンツを購入したすべてのオランダ在住者を対象としている。根拠はEU機能条約102条およびオランダ競争法24条1項で、市場支配的地位の濫用を禁じる条項だ。
初回審理では、管轄権の確認とStichting Massaschade & Consumentが原告集団を代表する適格性があるかが争点となる。本案審理はそのあとに控えている。
ディスクが消えると、何が変わるのか
メルヒャーツ代表の声明が示しているのは、訴訟の争点がディスク廃止によって拡大するという見方だ。
これまでのFair PlayStation訴訟は、PlayStation Storeの閉鎖性を問題にしてきた。ソニーが他のデジタルストアの参入を排除し、30%の手数料を開発者に課し、その分が消費者の負担に転嫁されているという主張だ。
その中で、ディスク版は唯一の「逃げ道」だった。デジタル版が高いと感じれば、量販店やECサイトでディスク版を買う選択肢があった。中古で安く手に入れることも、遊び終えたら売ることもできた。
2028年1月以降、その選択肢がなくなる。ソニーはPlayStation Blogで公式に発表し、2028年1月以降に発売されるすべての新作ゲームをダウンロード版のみにするとした。
工場の転換もすでに始まっている。ソニーDADCのオーストリア・タルガウ工場は、PlayStationディスクの約半分を製造してきた世界最後の自社ディスク生産拠点だ。同工場は3000万ユーロを投じて光学マイクロレンズの製造設備に転換中で、2027年に量産を開始する計画になっている。
ソニーDADC社長のディートマー・タンツァー(Dietmar Tanzer)氏は、2028年にはディスク生産量が現在の約10%に縮小する見通しを明らかにした。設備投資と300人の従業員の再訓練がここまで進んだ以上、撤回は現実的に考えにくい。
3か国で、同時に
ソニーへの訴訟はオランダだけではない。
英国では、消費者活動家アレックス・ニール(Alex Neill)氏が代表を務める「PlayStation You Owe Us」(PlayStationは私たちに借りがある)訴訟が、約1200万人の英国ユーザーを代表して約20億ポンド(約4300億円)の損害賠償を求めている。2026年3月から5月にかけて競争控訴審判所で10週間にわたる審理が行われ、判決を待っている段階だ。
米国では、2019年にソニーが第三者小売店でのデジタルダウンロードコード販売を停止したことが争点となったカックリ(Caccuri)対ソニー訴訟で、785万ドルの和解案が2026年4月に仮承認された。10月15日に最終承認審理が予定されている。和解案に対しては、対象となる約440万人の一人あたり補償額が平均1.14ドルにとどまる点への批判もある。
| オランダ | 英国 | 米国 | |
|---|---|---|---|
| 請求額 | 約740億円超 | 約4300億円 | 785万ドル |
| 対象 | 約170万人 | 約1200万人 | 約440万人 |
| 進捗 | 初回審理済 | 判決待ち | 和解仮承認 |
| 根拠法 | EU競争法 | 英国競争法 | 反トラスト法 |
3件の訴訟はいずれも、PlayStationのデジタルゲーム流通をソニーが独占し、競争がない状態で価格が不当に吊り上げられたと主張している。法的根拠や請求額は異なるが、同じ論理で動いている。
2025年2月 Fair PlayStation訴訟提起 オランダの消費者団体がソニーを提訴 2026年3月 英国訴訟の審理開始 約4300億円の集団訴訟が10週間の審理へ 2026年4月 米国訴訟の和解仮承認 785万ドルの和解案を連邦裁判所が仮承認 2026年5月 英国訴訟の審理終了 判決は数か月後の見込み 2026年6月 オランダ訴訟の初回審理 6月29日、管轄権と適格性を審理 2026年7月 ディスク廃止を公式発表 7月1日、2028年1月以降の新作をダウンロード版のみに オランダ団体が独占声明 7月6日、ディスク廃止で「完全な価格支配」と警告 |
ディスクがあった世界
ソニーがディスク廃止を決めた理由に、不合理な点はない。デジタル販売比率はすでに約85%(直近四半期)に達しており、製造・物流コストの削減は経営上合理的な判断だ。
ただ、メルヒャーツ代表の声明が指摘するのは、その合理性が持つもう一つの側面だ。PlayStation Storeにおける価格設定の妥当性を法廷で問われている最中に、ストア以外でゲームを買える最後の手段が消えようとしている。
ディスクがあった世界では、中古市場が価格の下方圧力をかけていた。新品でも、量販店同士の競争が価格を動かしていた。遊び終えたゲームを売ることで、次のゲームの購入資金にする仕組みが成り立っていた。
2028年以降、PlayStationのゲームを買う方法はPlayStation Storeか、小売店でダウンロードコードを買うかの二択になる。いずれもソニーが価格を設定し、中古で売ることはできず、所有権はライセンスに置き換わる。
オランダ、英国、米国の法廷がそれぞれの答えを出すまでには、まだ時間がかかる。だが、「物理ディスクという代替手段が残っていた時代」に争点が設計された訴訟が、ディスクのない時代を迎えて何を言い得るのか。3か国の判決が出る頃には、ディスクという最後の比較対象はすでに棚から消えている。
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