ディスク廃止に怒る15%、黙って買う85%の矛盾
ソニーがPlayStationの新作ゲームからディスクを廃止すると発表した翌日、メディアとコミュニティの反発は激しさを増している。だが売上データは、反発している層がすでに少数派であることを示している。85%がデジタルで買っているのに、聞こえてくるのはディスクを惜しむ15%の声ばかりだ。なぜか。
数字が語る現実
2026年3月期(FY2025 Q4)のソニー決算で、PS5とPS4のフルゲーム販売におけるデジタル比率は85%に達した。年間平均でも78%。PS4発売当初の2013年は約13%で、12年で比率は完全に逆転した。
年間約7000万本の物理ソフトがいまだに売れている。Niko Partnersのダニエル・アフマド(Daniel Ahmad)氏はこの数字を強調し、物理ソフトが死んだわけではないと述べている。だがソニーの直近四半期における物理ソフトの売上高は約1億900万ドル。同四半期のデジタルは約15億ドル。金額ベースで見れば物理メディアはすでに全体の7%に満たない。
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デジタル 約15億ドル 物理 約1.1億ドル |
ハードウェアの販売動向は、ソフトウェア以上に鮮明だ。2026年4月第1週のファミ通の直近の週販データによれば、PS5デジタルエディションが8024台に対しディスク搭載モデルが260台。31倍の差がついている。日本市場専用の5万5000円デジタルエディションが圧倒的に選ばれ、ディスク版(9万7980円)やPS5 Pro(13万7980円)は3桁台に沈んだ。消費者は、財布を開く瞬間にディスクを選んでいない。
メディアの反発、コミュニティの怒り
数字と対照的に、反応は激烈だった。
PlayStation公式ブログには発表から数時間で数千件のコメントが集まり、大半が否定的だったと複数のメディアが報じている。スペインのゲーム小売チェーンGameは声明を出し、物理メディアの存続を支持すると表明した。GTA 6がディスクなしで発売されると判明した直後には、一部の小売店が取り扱い拒否を打ち出し、ディスク版を求める署名運動も広がった。
英語圏のゲーム専門メディアは軒並みこのニュースを大きく取り上げた。Neowinはオピニオン記事で「所有権、ゲーム共有、消費者の選択の死」と題し、長年のPlayStationユーザーであるライターが批判を展開した。Push Squareのコメント欄には「これで完全にPS6への関心を失った」「PCと任天堂に移行する」といった書き込みが並んだ。
なぜ声は数字より大きく聞こえるのか
85%がデジタルで購入しているのに、反発がここまで目立つのはなぜか。
物理メディアを買う15%は、ゲームとの関わり方が85%と質的に異なる。棚に並べ、友人に貸し、中古で売り、コレクションとして保存する。購入行為そのものがゲーム体験の一部であり、それを奪われることへの反発は、単なる流通手段の変更に対する不満を超える。こうした層はゲームメディアの読者であり、コメント欄の常連であり、議論を主導する。
85%という数字も、額面通りには受け取れない。Push Squareの編集長が指摘した通り、デジタル比率はデジタル専用タイトル(物理版が存在しないゲーム)を含む全販売の合算だ。物理版とデジタル版の両方が存在するAAAタイトルに限れば、ディスク版の比率はもっと高い。ライブサービス型のゲームは最初からデジタルのみで発売されるケースが多く、その分母が全体のデジタル比率を押し上げている。
声を上げている層は、ノスタルジーだけで動いているのでもない。ソニーがPS Storeで「購入」された映画551本を9月に削除すると発表したのは、つい数日前のことだ。PS3とPS VitaのPS Store閉鎖も同日に発表された。デジタルで「購入」したものが消えるという現実が、立て続けに証明されている。デジタルへの全面移行に対して「ならば所有権はどうなるのか」という問いが投げかけられるのは、感傷ではなく合理的な懸念だ。
「15%」の中身
7000万本という絶対数は無視できない。だが減少の速度もまた無視できない。
米国では2025年の新品物理ゲーム支出が15億ドルとなり、1995年の追跡開始以来の最低を記録した。英国ではFY25に物理売上が35%減少。GameStopは2025年だけで590店舗を閉鎖し、さらに2026年初頭に約500店舗の閉鎖を進めている。小売インフラ自体が縮小している以上、物理メディアを選びたくても選べない消費者が増えていく。
任天堂はSwitch 2でカートリッジの生産を続けている。PCにはSteamがあり、GOGのようなDRMフリーの選択肢もある。PlayStation(と、おそらくXbox次世代機Project Helix)だけが、コンソール市場で物理メディアを完全に切り離そうとしている。
ディスクの問題ではなく、権利の問題
ディスクが消えること自体は、市場の数字が示す通り、大多数の消費者にとって行動の変化を伴わない。85%はすでにデジタルで買っている。
デジタルへの完全移行で問われるのは、ディスクの有無ではない。PlayStation Storeで購入したゲームはソニーの利用規約上「取消可能なライセンス」であり、所有権の移転は発生しない。中古売却も友人への貸与もできない。ストアが閉鎖されれば再ダウンロードの保証すら不確実になる。
EUでは、ゲームの永続的プレイを法的に義務付けることを求めた市民イニシアチブ「Stop Destroying Videogames」に129万人以上が署名した。欧州委員会は6月16日、立法義務は課せないとの回答を出したが、業界の自主的な行動規範の策定を年内に開始するとしている。運動の推進者はデジタル公正法(Digital Fairness Act)への修正条項挿入に方針を切り替えた。6月下旬までに欧州議会の45人の議員が、ゲーム保存に関する立法行動を求める質問書に署名している。
Niko Partnersのアフマド氏は、デジタル比率の上昇自体は市場のトレンドだが、ディスク生産の中止は完全にプラットフォーム主導の判断だと指摘する。コスト削減、中古市場の排除、PlayStation Storeへの売上の100%集中。消費者の選択の結果ではなく、企業の意思決定だ、と。
Circanaのマット・ピスカテラ(Mat Piscatella)氏はこれを「業界にとってのウォーターシェッド・モーメント(分水嶺)」と呼んだ。Ampere Analysisのピアーズ・ハーディング=ロールズ(Piers Harding-Rolls)氏も同調し、PS6のデジタル専用化は事実上確定したとの見方を示している。
声と数字の間にあるもの
85%の消費者はデジタルで購入している。そのうちの多くは、ディスクが消えても困らない。だが「困らない」ことと「それでいい」ことは違う。
Push Squareのコメント欄には、こういう趣旨の書き込みがあった。ずっとデジタルで買ってきた、棚のスペースもない、それでもディスクが完全になくなると聞いたら嫌な気持ちになった、なぜだかわからない、と。これはおそらく、ひとりの感想ではない。
ディスクを買わなくなった消費者の多くは、「買わないことを選んだ」のではなく、利便性やPS Plusのサブスクリプションを通じて自然にデジタルへ移行した。選択の結果ではなく、環境の変化に適応しただけだ。その層にとって、「選択肢が消える」という発表は、自分が気づかないうちに後戻りできない場所まで来ていたことを突きつけられる瞬間になる。
反発の規模は15%の市場シェアからは説明できない。85%の中にも、デジタルの利便性を享受しつつ、ディスクという「退路」が存在することに安心感を持っていた層がいる。声を上げているのは15%だけではない。
参照元
- PlayStation ditching disc games entirely, calling it a "natural direction" for Sony
- Goodbye Discs: Digital Game Sales Continue To Grow At PlayStation, As Well As Many Other Big Players
- Just 15% of All PS5 Software Was Purchased Physically Last Quarter
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